第2話
ここから眺める景色は以前からずっと変わっていない。
それでも、心がずっとずっと荒んでいく。
それすら生活の一部なんだと認めてしまったら、きっともう腐っていく……。
朝の電車は、人が多くて騒がしいことはいつになっても不動の光景だった。
大体の人が同じ時間に出勤や登校をしていて、大体の人がこうして交通機関を利用する。
あからさまに充満している車内に、容赦なく人を押し退けて自らのスペースを確保していく光景は見苦しくて哀れだと思う。
現に今、その場にいる私がほざくこの内容はもう覆しようのないほど滑稽そのものなのだけれど……。
烏合の衆と一括りにしてしまえば簡潔で、それは私という劣等者と同等だと侮辱して軽蔑して卑下していることとなんら変わりはない。
だったら、私という生き物は烏合の衆と罵れるほど価値もないということ。
そこまで惨めな人間がいるのかと思うほど私には自己肯定感がないことは自覚している。
むしろ、今の私に自我なんてものが必要ないのよ。
もちろんエゴもない。欲望も信念もない。
生きる意味なんて自ずと手にする大義名分もいつかの過去に投げ捨ててきたし、今じゃどこかで燃やされて先に天にでも召されたんじゃないかしら。
空っぽの私はただ無感情で働いて手にしたお金で、食べるものが得られるからこうして生存は可能だけれど。
なにかの貢献しているわけでもない。どなたかの手助けをしているわけでもない。一方的な資源の消費者。
働いてる内容だって誰でもできる営業で、いくらだって代わりはいる。むしろいつ失くなってしまっても人として大きな損害があるわけでもない。本当にただお金を稼ぐための手段として縋り付いてるだけ。
ただ……ただ、生かされている。
「…………」
全く知らない人に囲まれ、その匂いに包まれ、電車の進行による揺れに体を傾けながら私は今日も生きる選択をする。
会社に着いたら出勤登録をして、決まった席につく。デスクの上に積まれたノルマを確認してパソコンを開いて発注やアポイントメントを始める。
ある程度目処が着いたら次は営業のために見回りに行く。たまに誰かと一緒に交渉材料を揃えて向かうこともあるが、私の場合は大体一人。今じゃ習慣になって、ある一定の成果を残せるようになってからは一人で行くようになった。
それが会社からの一人が落ち着く私への配慮なのか、それともそれ以上の成果が見込めないから見放されたか。
その本意を知る由もないが、こうしてまだ席が残されている内はのうのうと息をしていることでしょう。
そして今日の見回りに限っては私にとって例外の日だった。
会社を出て隣を見る。
「先輩、今日はよろしくお願いします!」
第一印象は小犬のような可憐さと無邪気さを兼ね備えたかのような若さの象徴が見受けられた。
私には一切なかった好奇心が溢れていて、生気が漲っている。
どうしてこんな仕事にやりがいを感じて、活力を見出せるのか。私には微塵にも理解できない……。
「ええ、よろしく」
私は無意識に生返事をする。
ここ近年、誰かとまともに会話なんてしてこなかったものだから、距離感の詰め方が分からない。
いやむしろ詰めようとハナから思ってないのだから、こうして突き放す声色になってしまうのも当たり前なんでしょう。
「私、こういうの初めてなんで緊張してます!」
元気よくそんなことを言われても全く真意が聞き受けられないのだけれど。
「そう、でもすぐに慣れるわよ」
あなたみたいな人懐っこい子は好かれやすいのだから交渉ごとでも楽しく対話できるしょうし。
きっとこういう子がこれからの責務を自然と担っていくんでしょうね……という意も込めて伝えたつもりだった。
「先輩はやっぱりすごいなぁ……! 私もいつかちゃんと先輩みたいに仕事ができるようになりますかねぇ」
私の本意はきっちり伝わることはなく。
「まぁ、あなたなら大丈夫よ」
このあとなにを言おうと勘違いが一人歩きしそうでめんどくさいので軽くあしらうことにした。
私はこの子が思うほどすごい人材でもなく、誰かに期待されるほどの人望があるわけでもなく。
よっぽど惨めで憐れで……滑稽で。
どうせすぐに私が失望を与える象徴だと気付くでしょう。
どうも雨水雄です。
みなさんおはようございます。
今作から早朝に投稿するようになりそうです。まぁ今の生活リズムだとこれくらいがちょうどいいと思うので。
もし不都合等がありましたらまた時間変更する可能性がありますが、最低でも午前中には仕上がっているはずです。はずです!毎週日曜日のスタイルは続行させていただきます!よほど調子がいい……あるいは物語の進行具合で投稿頻度が変わるやもしれません。
というわけで何卒よろしくお願いします。
それでは最後に……リコリコほんと好き。以上です。
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
ではでは来週もよければここで。