第23話
私なりに精一杯言葉にして伝えたいことがあるんだけど。
これが言葉だとすごく薄っぺらくて嫌なんだけど。
だけど、私だから伝わってほしいと思うから……。
友達だと言ってくれてありがとう。
私はまともな学校生活を送ってきたわけではないと自覚している。
だって、今までの日常の中で、少なからず周囲に羨望を抱いたことがあるから……。
席替えをして、隣になった子に話しかけられる度、少しばかりの高揚感と期待と興奮を覚えていた。
これからの毎日が鮮やかに彩られるのかもと心が弾む瞬間があった。
でも、どこかしら不安も懸念もあって……。
一つは、裏切られるのが怖い。
その笑顔の奥にはなにを隠しいるの?
その瞳の裏には一体なにが見えているの?
そう思うようになってから、上手く人と会話できなくなった。
なにを話せばこの人にとって最適解なのか。もし変なことを言ってしまったら、この人は周りにもそれを言いふらしてしまうのではないか。でもそもそも人とあまり会話してこなかった私にとってその最適解を導き出せるほどの引き出しはない……。
いつもどこにも打つ手はなかった。
だから無言を貫き通すうちに孤立して、むしろその空間が落ち着くようにすらなった。
そして、授業を荒らす常識外の生徒を見るたびに、この空間だけが私の居場所とさえ思うようになり……。
そのときに出会った笑美が。
あまりにも純一無雑だった。
その無垢な笑みの向こうにある訴えが私の残り少ない良心に突き刺さって、決して抜けることはなかったのだ。
「私は今も、私たちの関係が友達と呼べるのかすら分からないくらい、なにも分からないわ」
私たちはまだ、あのときから抱きしめ合っていた。
今の抱擁はあのときほどの強さも苦しさも緊迫感もなく。
ただ、そのぬくもりと存在感が伴う安心感がたまらなく居心地よかった。
それに、笑美が一向に離そうとはしてくれなかった。
「なにをすれば友達になって、友達ならなにをしちゃいけないとか私には分からない……」
それでも、私は続けた。
その弱さを受け入れながら、感じる体温に本音を漏らしていく。
「でも、あなたと初めて会ったとき、あの笑顔を見たとき」
もしかしたら、そのときに私は余計なことを知ってしまったのかもしれない。
なにも知らないままでいればこんなにも悩まなくてよかったでしょう。こんなにも揺さぶられることはなかったでしょう。
でも知ってしまったのなら。仕方ないじゃない。
それが私の淡々と意味も価値も見出そうともしなかった旅路の中で。
ふと現れてしまって、そこに手を伸ばした後思ってしまったのなら。
せめて、最後まで守ってみたいじゃない。
「なにも隠す気はないのに、苦しそうに見えた。なにかを様子見たり顔色伺ったり、甘いマスクを被ったりして振りまいているものじゃなかった」
そう、あれはいわゆる縛りだった。
本当に心の奥底から笑いたいと思って動かした表情筋が。
守ってほしい、聞いてほしい、触ってほしい……。
それら全ての当たり前を穢れた負い目を背負いながら訴えてきたのだ。
なにも見出さず、吐き出さず、動き出さず、受け入れることも中途半端な私とはまるで正反対で……。
「あんなにも下手くそに笑う人を、私はあなたしか知らないから。見失うことも見間違えることもするはずがないわ」
私があのとき感じた違和感とも呼べる境界線の正体は。
きっとまだ上手く言葉にはできない。
おそらく、このままずっとなにかを説明できるほど簡単なものではない。
私と笑美の環境も影響も心境もなにもかも違うから。
その苦しさも辛さも悩みも葛藤も絶望も失望も、見つめる希望の先も分かり合えることはない。
だからこそ、度々しか交わることのない旅路だからこそ。
私はその正体を知るために笑美といつづける。
笑美と一緒にたたかうことで。隣に並ぶことで、少しずつ近づいていきたい。
「だから、笑美が逃げないかぎり、私は何度でもまたこうしていられる」
そう告げると、私の右肩がだんだんと湿っていく……。
そこになにが詰められているのかは私には見えない。
でも、その雫はしっかりとあたたかいものだった。
「うん……ありがとう。涙ちゃん」
どうもおはようございます雨水雄です。
今もこうして打ち込んでいる指先が悴みそうなくらい冷え込んできました……冬の本気って今からとか聞いてない……。
それでもまた気付けば春がくるわけですし、今は今でこの寒さを受け入れようと思います。きっと今年は特に思い出深い季節になりそうなので。
そうです。今年は、また新天地といいますか新展開といいますか、新鮮味のある出発地点が冬にありますから。
どうかみなさんとまたそこで会えることを雨水は楽しみにしてます。待ってますよー!
さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。