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曇天の下の極彩色  作者: 雨水雄
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第22話

これは勝ち負けなんかじゃない。

そう思いたい。言い訳だってしたい。こちらに正義は味方すると言い張りたい。

だって、どちらが悪いかなんて火を見るより明らかなんだから。

でも……いつだって強いのは私じゃなかった。

「え、なんでそれを……!?」

私はひどく驚愕した。

「あ、やっぱりそうなんだ……ちょっとカマかけただけだったんだけどね。ごめんね……」

笑美えみはなにもかもを諦めたように不気味に口角を上げて、目を伏せる。

「やっぱり…………。いつから気付いてたの?」

「この前、放課後に先生に呼び出されたことがあって、そのあと教室に戻ったときに……」

本人たちの会話を聞いてしまったの……私はそう最後まで言い切ることはできなかった。

言葉は詰まり、歯切れは悪く、息は荒くなる。

「そっかそっか……じゃあ、本当に真実を知ってるんだね」

未だに、その単語はでてこない。本題に移るキーワードはまだ顕になっていない。それなのに……。

私たちの距離は確実にその真実の一線が阻んでいる。

笑美えみの方こそ、なんでそんな意地悪をしたの……?」

これまで、そんな思わせぶりも立ち回りもなかった。

それなのに、なぜ急に……核心を突くような鋭さを得たのか。

どこかで私は彼女の地雷を……?

すると、笑美えみはすっとポーチから一つ化粧品を取り出す。

「これ、るいちゃんずっとこのリップちらちら見てたよね。それでたぶんなにか知ってるんだろうなって……」

その勘の鋭さに、私の心臓が飛び跳ねるほど目が開いた。

ボロボロに欠けたそれを、接着剤やテープで不細工に補修を施されているそれを。

私はきっとその一連が関与しているのではないかと危惧を募らせていた。

そうよね……そんな卑しい視線なら、当人が勘付くなんて当たり前よね。

「ごめんなさい……気持ち悪かったわよね」

「ううん! 全然そんなことないから! それより今までなにも言わなかった私が悪いんだから……私こそごめん」

「いえ、あなたこそ気にしないで頂戴。こんなこと……私も同じ立場ならきっと誰にも言えないわ」

「うん……ありがと」


「じゃあ、とりあえずね。私のこと話すね」

「…………無理してない?」

「うん、大丈夫」

「しんだくなったら話さなくていいから」

「分かった。話させて」

笑美えみ本人から聞き受けた話は。

どれもこれも私にとっては初めて開いた物語くらい、先の見えない新鮮さがあり。

なににも代え難く、今すぐにでも終止符を打ちたいほどのたった一つしかない悲劇だった。




笑美えみはごく普通の中学に入学したようだった。

よく耳にする治安の悪さとは決して縁が深いようではなく、少しばかりいたずら好きな厄介者がいたりする程度で、血が舞うような争いは皆無だったそう。

その中で、笑美えみは平凡に過ごし、いつも決まったメンバーに囲まれなに一つ不自由のない生活を送っていたみたい。

そして、よくある乙女心を持った女子たちでメイクを研究したようで、笑美えみもそのうち自然と自分の顔に触れるようになり、一目瞭然に変貌するその別世界を目にしたかのような日常が楽しくなる。

そして、時には恋をしてまたその腕に磨きをかけ、また熱中になり、その変わりように周りが興味を持つ。

ただ、笑美えみはその恋の味をまだ知らないらしい。いつも蚊帳の外でその一喜一憂する友達を見て、羨ましくも思ったりしていたそう……。

それに、中には好きな人が被り関係性が危うくなったり、修復の効かない亀裂に繋がったりと、そんな恐怖の渦の中でうずくまっていたりしたりもしたという。

それでも、一番仲良くしていたという友達から化粧品をもらったりといい思い出もあるみたい……それがあのあれというのかしら? あまり言及はできなかった。


そんなこともあり、無事に高校に入る。

最初はなんてことない日々を過ごしていたみたいだけど、問題は割とすぐ起きる。

授業中に騒ぎ立てる女子たちがいたようで、それも入学したてで繋がった関係を誇張するかのような惨めなものだったそう。

すぐに仲良くなって、そのテンションのまま授業でもお構いなしにお喋りを絶やさなかった……普通に迷惑でしかないというその常識を持ち合わせていない残念な人間にはもったいない生物よね。

そこで、笑美えみは勇気を出して軽く注意したという。

私は直接そのときを知っているわけではないけれど。

今の笑美えみを知っている私からすると、相当気を遣って、なおかつ言葉を選んでいたと想定する。

「そのときはさ、自分らに非があることは認めてくれて、ふて腐れてはいたけど聞き入れてくれたの……」

「そのときは……?」

「うん、でもさそのあと、その子たちは私の元に来て言ってきたんだよね……『お前、その化粧はどうなんだよ?』って」

「あ…………」

「中学で化粧ばっかしてたからさ……先生になんか言われたらそのとき落とせばいいかって思ってたし、女の子なら高校生になれば普通にやってるものだと思ってた。むしろやってなきゃ嫌われるかもとさえ考えてたの……」

「もしかしてそれが仇になったの?」

「うん……。そこからは粗探しばっかでさ、彼女たちはエスカレートして周りの子たちには私の陰口とか言いふらして……そのあとはまぁ、私は無事はみられたんだよね」

吹聴なんてのは確かに常套手段ではある……。

でも、笑美えみがそんなに悪いことをしたというの? そこまで負い目を感じなければいけないの……?

あの人種にはなにを言っても揚げ足取りの一点張り。その不平等さと不合理さ、理不尽さ……全てが怒りにしかならない自分の未熟さが本当に醜い……!

「まぁでもさ、今はクラス替えしてからあの子たちもバラバラになってちょっとは頻度が下がってるし……」

「頻度が下がってって言ったってなにされてるの?」

回数の問題じゃない! あってはならないものだから安堵なんてしないでほしい……!

「通りすがりにぼそっと悪口言われたり……髪留めしてたりしたら奪われたりするかな……」

「許せない……!!」

「だ、大丈夫だよ!! あと一年我慢すればいいんだし! それに、今はるいちゃんがいてくれるから……」

私はその瞬間、震えた彼女に気付いて、咄嗟に抱きしめた。


「大丈夫。私はあなたを離さない。あなたが離れても、私が離さない」

「本当かな……?」

「あんなやつらに比べたら、私の方がまともだって自信があるもの。笑美えみがいるべきなのは私の方がましだと言い切れる自信があるもの」

「ははは……そっか、そっか……」


「ありがとう、るいちゃん」

ぎゅっと抱きしめた向こうにある彼女の顔はまだ、笑ってないんでしょうね。

どうもおはようございます雨水雄です。

もう一月も半分が過ぎましたね。雨水的には特に変わった日常は送ってない気がします。いつも同じ職場に行き、帰ってきたら同じ机の前で作業する。最後は同じベッドで寝る。

でも毎日どこか違うんだよな……と。

日に日に更新されていく物語であったり、感情であったり、葛藤であったり……それが一年積み重なったとき、おっとここまで来たのかになってたり。

そう思えるようになったのも何だか最近のように感じます。たぶんそれもまた結構時間が経っているんだと思うんですけどね……。

だからせめて今日だけでも、誰かの小さな幸せの一部になれる言葉をたくさん使おうと思います。それを一日一日積み重ねていこうと思います!

さて今週もここまで読んで下さりありがとうございます。

では来週もよければここで。

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