第19話
こんな日がずっと続けばいいのに……。
そう思ってしまうより。
こんな日よりもっとどきどきするのかな。
そう思ってしまいたい。
数瞬、数秒、数分……。
いずれであれ、目の前の彼女の言葉を素直に受け入れられる態勢を準備することは叶わなかった。
いつも綺麗だと遠目から眺めては、崇めるように拝んでいたのだけれど……。
それが今現実として織りなされようとしている……?
しかもそれが私の顔面上で……?
そんなの、理解が追いつくわけないじゃない…………。
「あの……えっと……涙ちゃん……?」
笑美は戸惑いを隠せない覗き込むような声色で私に尋ねる。
私はそこでようやく自分が上の空になっていることに気付く。
「あ、あ……ごめんなさい。えっとなんだったかしら?」
我に返って笑美の顔が真正面にあることを認識する。少し身長が低い私はおそらく食い入るように笑美を見つめているに違いない。
「えっとだから……もし涙ちゃんさえよければ、私の実験台になってほしいというかなんというか……」
ええ、分かっている。彼女が言いたいことはすでに聞かされている。
でも……またこうして顔を見ると、躊躇いが生じてしまうのも当然の結果なのよ……。
こんなにも美しい景色が私の表面にも映し出されるというのなら……こんなにも喜ばしいことはない。
でも、本当にいいのかしら……? 私ごときがそれを叶えってしまって。私がその景色を飾って誰が喜んでくれるというの。
絶景とは、遠くにあるから美しく在れるのだというのなら……。
私はずっと観察者の立場のみでありたいわ。
「別に私はあなたのしたいようにしてもらって構わないけれど……誰も得はしないのではないかしら?」
私はそこで彼女から目を離す。逃げるように視線を素早くフローリング、ベッド、本棚と一周させる。彼女のいない場所を次々と見回す……。
「あ、ごめんなさい……ずっと立ちっぱなしにさせてしまって」
私は客人だという存在にはっとして、目に入った座布団をすぐさま取りに行く。
「どうぞこちらに座ってちょうだい」
私が座布団を置こうとしゃがんだと同時に彼女も反応した。
「あ、うん。どもども……」
笑美は扉のそばからこちらへ向かってくる。
彼女の足音が一瞬で耳元まで届く。
「え…………?」
中腰になっていた私は、気がつけばさっき手に持っていた座布団の上で尻餅をついていた。
咄嗟のことで状況が理解できなかった……。
え、なに……? そう思ったときにはすでに遅くて。
彼女の手のひらが私の頬に触れていた。
「私が嬉しいんだよ」
「…………笑美?」
床に張り付いたように動かない私は、どうやら彼女に覆い被さられているような錯覚がした。
実際には、今は彼女が中腰になっていて、座りこむ私を上から見下ろしているようだった。
その現状把握するのに精一杯の、私に微笑む彼女は自らの意志を伝えるように手のひらが熱くなっていた。
「涙ちゃんが私の思うままに変わってくれたら、それは私にとって嬉しいなんだよ」
「ど、どういうことかしら……?」
「誰も興味なんてなくていい。誰にも知られなくていい。ただ、私がしたいように美しくなる涙ちゃんを見られることが、私には得なの。だから、お願いしていい?」
渇望……もはや懇願とも言っていい程、彼女の願望は強かった。
そのせいで、今、この触れている手はとても震えていて。それでいて彼女のはにかみの向こうに奥にある本心が、唇を揺らしていた。
そこまでされたなら……。
「私に断る権利はないわよ……」
どうもおはようございます雨水雄です。
とりあえずメリークリスマス!!
いよいよ今年もこうしてめでたく冬の代名詞ともいえる大イベントがやってきたわけですが!
まぁ、雨水の日常はさして変わりなく平凡ザ平凡を極めております。それがいいんだよ……。
とは言ったものの、今年のクリスマスはなんだか実感というか高揚感というか興奮が一段と薄く、なんだか熱量が枯れてきているのでは? と思うほど少し切ない気もありますが……。
それでもですね、クリスマスって一年の中でも幸せというか楽しい気持ちみたいなものが多く溢れている一日な気がするので、雨水はその雰囲気だけで今日もハッピーに過ごせそうです。
来年こそははっちゃっけてみようかなぁ……。
みなさん、よい一日を!!!
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。