第1話
あの日から、私が見ている景色はずっと変わらない。
それでも、蓋を開ければきっと中身はどんどんと腐敗しているんだろう……。
これは私のせいだと思うのは、すごく簡単で、ものすごく無責任な気がする。
今、この世で一番と言っていいほど聴きたくないメロディを耳にする。
あぁ、そうよ。この設定にしたのは私だし、この状況を招いたのも私自身。だから誰かを責めることなんて許されない。
そうだというのに、この沸き立つ億劫さとストレスはどこに投げ捨てればいいというのか……。
そうして私は、今日もまたこの時間にアラームを鳴らし続ける携帯に触れ、かろうじて目を覚ます。
「ふっ……っくぅう……! ん〜ふぁぁ……!」
伸びをして欠伸も漏らす。
むくりと体を起こし、数秒間脱力状態が続く。
「…………」
ぼーっと揺らぐ視界がだんだんと鮮明になってくる。
同時にこれからしなければいけないことに嫌気が差し、また体が言うことを聞いてくれない。
それでもアラームで止めたはずの時間はこうして今も着々と進み続け、責任感という名の強制力が私をどんどんと蝕んでいく……それに抗えるほどの勇気もなく。
私はのそのそと腰を上げ、ベットから離れるとすぐそばにあるクローゼットの前に立つ。
常に変わることのない位置にあるハンガーにかかっている服を見る。
……なんの変哲もない黒いスーツ。別に高くて名のあるものでもなく、色があって華があるものでもなく、着られすぎてくたびれてるしほとんど手入れなんてしないから覇気も一切感じない。
学生の頃着ていた制服とは違って、見れば見るほど心が苦しくなる。あのときほどの輝きも煌めきなんて微塵もない。そもそも私はあのときからすでにもう……死んでいるようなもの。
「…………」
私はそれを眺めた後、とりあえず洗面台で顔を流し、気休め程度のナチュラルメイクで整えてからまたクローゼットまで戻る。
一応アイロンをかけてあるシワのないシャツを着て、もはや生気のないスーツで身を包む。
こうしてできあがるのが量産型でいくらでも替えの効く傀儡の私。これから支配されては使役されて、ただ闇雲に動かされる身のもとで心に負担だけを抱えていく……。
一方的に崩れていく感覚を覚えながらもその生活から逃れられないストレスにまた胃を痛ませながら帰ってきてはまた今日も浅い眠りにつくんでしょう……。
いや……今日だけでなくこの私の日常はこれからもずっと続く。私が変わらなければ止まることはない。
かといって今更一体どうして変わろうとも思わないほどの諦めもあって、私はもはや操り人形よりもタチが悪い。
「…………」
一人暮らしの家の中。
無駄な労力は費やす必要なんてなくて、それを必要とする信用者も今はもう……。
だから私は言葉を発することもなくなった。
私の放つ言葉にはもう誰かに響く言霊なんて皆無だし、使う言葉の意味はどうも薄っぺらい。
だから私はなるべく粗相のないように……空気になるだけ。
それでも玄関の扉を開けて、外に一歩踏み出せば一つの愚痴くらいは飛び出る。
「さむっ……」
10月を纏う環境は、夏の残滓をほんのり匂わせながら、それでいて肌を撫でる冷感は冬の兆しを垣間見せていた。
今じゃ秋なんて呼べる気候はどこに行ったんでしょうか……。
穏やかなぬくもりという中間の心地よさはなく、近年の印象では寒暖差はころっと変わってしまうようになった。
そんなちょっとしたことにはぽろっと漏れ出す愚痴がある。
対して、生きる意味なんてないはずなのに……。
ただ、死んではいけないような気がしているだけ。
その気のせいのおかげで、私は今日も惰性を働かせてくだらない毎日の泥沼で足をバタつかせるの。
取り返しのつかないほど救いはなくて。
繕えないほど心は荒んでいて。
差し伸べられる手はどこにもなくて。
果たして、私の今の現状が孤独でないというのならなんというのでしょうか。
そんな吉報があるとするならば、どうか教えてほしい。
私にとっては、それすらも、どうしようと信じることができないでしょうけれど。
勤める会社までの道のりを辿るこの時間は。
いつも辛苦と共で、決して軽快で爛漫な心持ちとは言えなくて。
どうか無事に終わってくれればそれでいいと願うばかりで、自身の向上心を望む一日なんて皆無。
なにをどう足掻いてもプラスになることなんてなくて、せいぜい苦労して手に入れた及第点はゼロ地点。もう私にはそこが臨界点。
そんな限界点が見え透いている人生という旅路を無闇にほっつき歩いている私を皆はこう言うんでしょう。
あぁ……模範的な滑稽だ、と。
あなたもいっそ清々しく嗤って頂戴よ。
どうも雨水雄です。
ついにというか……やっとですかね。
新しい作品をまたこうして毎週投稿していきます!前回からちょっと時間空いたなぁって感じがします。
別にだからといって今回が特別なんかすげぇギミックがあったりとかはないんですけどね。おそらくスタンスはこれっぽちも変わってないと思うんですよ。
まぁ、なんていうかあぁ……こういう人やだな。みたいに、自分は常に不平不満を見つけてはイライラと内心で思いつつ、脳内愚痴でぐちぐちと相手を罵ってたり。
いつも優しい人でありたいなとは心がけているし、今日は昨日より優しくあろうと意気込んでいても、そんな常識外れのような人柄の方にまでその気持ちを振りまこうとも思わないくらいまだ小さな優しさしか持ち合わせていない雨水ですから。結局、優しさとは与えるものではなくいつも頂くもの。自己勝手に自己満足の幸せを振りかざしても、それが本当の意味で相手を救っているのかと聞かれるとその人次第なわけで。
つまり、やさしくあろうというのは最も難しい思いやりなんだな、と。
要するに、みんながその気持ちをもって相手と接することができれば、それこそやさしさに包まれたあたたかい世の中になるよなぁ……とつくづく思ってる雨水が綴った物語と認識してもらえればいいかと。
明日は今日よりも、誰かの幸せを願って。叶った望みがまた幸せの蝶になって舞い踊るような空の下で過ごせることを祈ってます。
あと、まぁ今更なんですけど。雨水の今までの作品って別物に見えてちょろっと繋がってたりしてるのでそれも楽しんでもらえたらと!お気付きの方もまぁ今後それも含めて色々と感じ取ってもらえれば幸いです。
さて、久々のあとがきで長文になってしまい申し訳ねぇ。まぁ端的に、これからもよろしくということで。
では来週もよれけばここで。