第16話
あなたの全部を知っていたいのは。
あなたの全部を変えたくて、その中に私だけが知っている色が欲しくて。
でも、そのためにまず私が変わらなきゃいけない……。
その変化をあなたに知られるのが恐かった。
私に影響力なんてものは皆無。
なにを言っても説得力はないし、なにかを触発したり感化させることなんて無謀。
なにか反発すれば逆撫でするだけに過ぎないのは百も承知だった。
だから私は支えよう。
彼女がまたあの屋上の前にやってきてくれることが私には欲しいから。
だからこれは単なるにエゴ。利己的な願望。
それでも、私は笑美がいいの。笑美だけの支えになれるのなら、それでいい。
昨日だって、少しの牙も見せられなかった私は、そのままあのいじめ集団には相手にされなかった。
「まぁ、どうでもいいけど誰にも言うなよ?」
「いや言ったところでこいつごときじゃどうもできないでしょ」
「それもそっか、間違いないね!」
そう人を嘲笑って、けらけらと気持ち悪い色の言葉を撒き散らして去っていった。
正直、日が過ぎた今でも、思い返せば足は震えるし、今からまた彼女たちと会うこともあるんだと思えば心臓が破裂するんじゃないかというくらい悲鳴をあげている。
それくらい、私は人と向き合ったことがないのよ……。
そのせいもあって。
私はひどく拗れた癖がついた気がしていた。
「そろそろ時間ね……」
授業が終わる鐘が鳴り、私はそれを一つの合図として認識していた。昼休みがくれば言わずとも交わされた約束が叶う。
その瞬間がたまらなく恋しくなっていた。
今まで接してこなかった、触れてこなかった、使ってこなかった……人との時間をまとめて費やすくらいに。
私は笑美に会いたくてしかたがなかった。
担当教師が教室から出て行くよりも早く飛び出しては廊下を早歩きする。
できるなら走って行きたいところ。でも、走って行ったところで彼女はきっと遅れてくるだろうし、後から来る彼女が悠長に登場してくるのに対して焦燥感を浴びて辿り着く自分が恥ずかしい気持ちもあった。
どちらかがいい加減で中途半端なことはない。お互いがお互いを想い合っていないとあそこで鉢合わせることはない。
だから、心配も懸念もなかった。彼女は私といたい時間があるならば来ると信じていた。
でも、私はそれ以上に、彼女には教室で過ごす時間よりも長く……できるだけ長く自分といて、あわよくばそこでできるだけ多くの幸せを持ち帰ってほしいとさえ思っていた。
傲慢で欲張りでわがままが強く芽生えていた。
それが私の思う今一番の最善だと、酔いしれるように確信して……。
一刻の暇を持て余していた後、彼女は普段通り姿を現した。
「やっほ、涙ちゃん」
「ええ、どうも」
極めて平静を装う。あくまでも冷静を繕う。
内心はこんなにも焦燥に満ちて、片時も私から意識を外さないように必死になっていることを晒さないように。
「今日も元気そうでなによりだわ」
努めて悟られないように、気に障らない上部を撫でるような口火を切る。
「うん、元気だよっ。じゃなきゃここに来ないってば」
今の私が見る限り、偽りはなさそうな笑みを零している。
いつも見ている柔らかい笑み。自然体かと疑わせないあまりにも出来上がった表情。
それだけ私に気を許してくれていると実感してしまいそうなほどの安心感を覚える。
同時に、拮抗するように……それが私の前のために用意されてある貼り付けられた贋作なのではと……。
昨日の今日ではそんな憂いがどろどろと私の内面を溶かして溢れそうになる。
もし、この裏で笑美が1人きりになったとき。
独りぼっちになっている空間で、なにを考えているのかと想像する。
…………私だったら、きっと耐えられそうになかった。
耐えられないどころじゃない。もういっそ抵抗をやめて全て受け入れて、自分の存在意義なんてそんなもんなんだと打ち切って…………。
そう、打ち切って……人生を投げ出しそうだった。
「ね、ねぇ……笑美。今度の休日なのだけれど」
「え、うんうん」
「もしあなたさえよければ一緒にいたいのだけれど」
「え……」
私は居た堪れなかった気持ちが吐き出され、それは彼女の硬直する反応でふと我に返る。
「あ、いや嫌ならもちろん断ってもらって……」
笑美は私を遮って、なお私の勢いよく手を握る。
「い、いる! いるいる! 一緒にいたい!」
さっきまでとはなにもかもが違う空気感。
もう、それはあからさまで、彼女を纏うそれが目を瞑っていても笑っている色をしているのは肌を通じて感じられた。
それは裏返せば、この数瞬間前までの彼女が嘘で塗り固められた、糊塗を繰り返していただけの傀儡だと……いや、やめましょう、こんな邪推は。
「ありがとう」
「で、場所とかはどうする!? もしかしてなにか考えてくれてたりするの?」
「い、いえ……まだなのだけれど…………」
ここまで突っ走って誘い込んだくせに、私は急ブレーキしたかのように思考をやめていた。
私がしたいのは笑美といたいだけで、それ以外なにも考えていなかった……それじゃなにも意味がないというのに。
でも……。
「笑美と会う。笑美と話す。笑美と触れ合えるならそれだけで私はいいわ」
「…………じゃあ、私から一ついい?」
「え、ええ」
「私、涙ちゃんの家に行きたい」
どうもおはようございます雨水雄です…………!
もうなんというか……12月になりましたが……!
あぁ……今年もあと1ヶ月を切ったんだなと感慨深くなるのも束の間!
外が寒過ぎて、今はこの急激な温度差に耐えるのに必死でそれどころではありません……!
いや本当にもう今年めっちゃ早かったなぁとか体感速度に驚いてしみじみと外に出てみると昨日とは違った体感温度に雨水はビビり散らかしてしまいました。
早速完全防寒で今日も発進したところですが。
この先の冬を雨水は乗り越えられるでしょうか……。
さて今週もここまで読んでくださりありがとうございます。
では来週もよければここで。




