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曇天の下の極彩色  作者: 雨水雄
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第9話

たとえそれで残ったとして。

また同じ過ちを繰り返さないだろうか。

いやきっとまた私は間違えるはずだ。

だって……だから消えてしまったのだから。


だから、本当に叶えるべきことはそうじゃないんだと思う。

佐奈川涙さながわるいという人間を。

るいと呼んでくれたのは今も昔も笑美えみただ一人だけだった。

でもその一人がいるだけで、私は自分の名前が好きになれた。

この名前の意味なんて聞いたことはない。そんなことどうでもいいと思えるほど。

笑美えみだけが呼んでくれるこの名前があるだけで私は満足だった。

だからこそ……今はもういらないと思っていた。

だって、あったってもうその意味も成さないのだから……。




私は素直な願いを、率直に述べる。

特別ななにかが欲しいわけじゃない。特質な才能を手に入れたいわけでもない。

最も、私はなにもなくていいの。

地位も名誉も名声も栄光だっていらない。輝く未来のための

格別な軌跡だってちっとも魅力的じゃない。

そんなもの、全部どうだっていい。

むしろそんなものもいらない。競争なんて必要ない。向上心なんて一切なくていい。

もう、私の目の前の喧騒も騒音も雑踏も、全部全部全部……。

全て、消えてしまえばいいの。

そう、私にはもう、新しくなにかを詰め込めるほどの宝箱なんてないのだから。

断捨離を繰り返すだけ。錦上添花も取捨選択もいらない。

壊して潰して千切って丸めてポイと投げ捨てたいだけ。

そして、あわよくばと小さな小さな希望を口にしていいのなら。

私の中にある笑美えみだけは残して。


「そっか……うん、分かった!」

そして、今私には見えない確かな笑美えみが、力強くそう答えた。

「お嬢がそう望むなら、仰せのままに」

そっと目を瞑る彼女の表情が目に浮かぶ。

あなたは一体、今なんという場所でどんな景色を目にしているの?

それは私も知っていること? 私にも教えていいこと?

もしかしてもう幽霊になってしまったなんて言わないわよね?

「じゃあ、私はそれだけ聞きたかっただけだから」

「あっ…………」

正体も実体も分からない笑美えみだと分かる人が私から離れようとしている。

不意に私は靄のかかった彼女わ引き止めようと手を延ばしかけていた。言葉の縄で縛り付けようとしていた。

ただ、そのあとなにができるかも想像つかなくて小さく声が漏れただけだった。

沈黙が流れる時間が尺を延ばしていく……。

彼女が遠ざかっていく感覚が鮮明に伝わる……。

その背になにか投げかけたいのに、私の引き出しは都合のいい言い訳すら常備されていない。

彼女が振り返る素振りすら見せようとしてくれない。静けさだけが距離感を明確にする。

このままじゃ、笑美えみが消えてしまう……。

「え、笑美えみ!」

かろうじて、その名を呼ぶ。やけくそでとりあえずの応急処置。

続く言葉はまだなにもない。

それでもほんの少しでも……彼女と繋がっている時間をほんのちょっとでも欲しかった。

「私はあなたともう一度会えるのかしら……」

その色彩を持つ声音の持ち主に私は会えるのかしら。

本当にその声を生身のまま聞くことができるのかしら。

るいお嬢は、まだ私に会いたいと思ってくれてるの?」

「ええ、だって私にはあなたしかいらないもの」

「そっかそっか……うん、そうだよね」

思ったよりも近くに感じる彼女の声に安堵する。

束の間、彼女は無音を通過させ、そのあとまた口を開いた。

その声は自然と彼女が私の方を見てくれていると思えた。


「じゃあお嬢、私を探してみてよ」


プツン…………なにかが切れた音がした。

嫌な音だった。

笑美えみ……?」

確信は胸の奥に秘めたままとにかく声を出す。

「………………」

当然、返事が戻ってくることはない。

柔らかくあたたかい太陽のような笑顔の似合う声はもうどこにもいない。

それを求めるなら……。

「探してって言ったってどこにいるかも分からないのよ……ばか」

彼女はいつだって本当にばかだったことを思い出した。




就寝前、思い出すことはたくさんあった。

これから彼女に会うためになにか手がかりがないか卒業アルバムを開いたりもした。一番重要な姿形はどこにもなかった。

だから頼りになるのは、私の記憶の中だけ。

他にはなにもない、笑美えみとだけ過ごしたと思えた日常を片っ端から。

少しのお零しもないように繊細に精密に、稚拙だったあのころの思い出を。

私はすっと目を閉じて一つ一つ着実に脳内に描くところから始めた。





どうもこんにちは雨水雄です。

はぁ…………こんにちはのお時間ですねそうですね。せっかく投稿時間を統一していたのに早速やらかしちゃいましたねぇ……悔しい!

実は今日ですね……。まぁ昨日からなんですけど、新しいプロットがまぁ閃いたわけなんですよ。こりゃまたいいもんできる!って感じで頭の中の電球が光ったわけなんですよ。

それが今日の朝まで引きずっておりまして……完全に失念状態でしたね。はい、爪が甘いな雨水……。

この人生の中で幾度となく言われてきた爪の甘さがまたしても如実に現れてしまったというわけですね。

まぁ、そういうわけなんですよ……。

とりあえずどうでもいいんですけど、また今年も紅葉見に行こうと予定を立てている雨水でした。

さて、今週もここまで読んでくださりありがとうございます!

では来週もよければここで。

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