第3話 空を見上げたらファンタジーが浮かんでいた
「う……ん?」
目が覚めるとエルドランダーの天井があった。
身を起こすと自分が居住スペースのソファの上に寝転がっていることに気づいた。
怪我は、していない。
それどころか物が散らかったり、窓が壊れたりしている様子もない。
たしかに、トラックに思いっきりぶつけられたはずなのに……
まさか、あれは夢だったってコト…………
あんな生々しい夢あり得るのか?
ただ、体は重く凝りきっている。
外で体を伸ばそうとキャビン後方のドアを開けた。
「…………は?」
車中泊したとしても俺はまだ町から出ていない。
なのにそこは360度地平線という広大な草原だった。
建物も電線も道路もない。
目に見える空も草の色もアニメのようなビビットな色をしている。
そして、明らかに空気の質が違う。
じっとりとした梅雨には程遠いカラカラとした空気と突き刺すような日光。
肌でここが日本ではないと悟った。
「……夢? それとも天国?」
自分を落ち着かせるため、口に出して状況を整理する。
だけど納得いく結論は出ない。
今の状況を理解するために必要な情報は俺の中にはなかったから。
『クオオオオオオオオオン!』
獣の吠える声と管楽器の音色が混ざったような音が空から降り注いだ。
弾かれるようにぐるりと空を見渡すと彼方の空から黒い点が近づいてくるのが見えた。
鳥か? 飛行機か?
どちらでもない…………アレは!?
「ド、ド…………ドラゴンっ!?」
全長100メートルはある空を覆うような大きな翼、鱗の鎧を纏った頑強そうな巨体、小さな前足には鋭い爪、ワニのように前に突き出した顎を固く結んだその偉容は絵やCGで描かれたイメージそのままの姿だった。竜巻を引き連れてきたかのように草原が揺れる。
ジャンボジェットが低空飛行をして頭上を通り抜けていった時のように俺の視線はその異形に釘付けだった。
ドラゴンは俺には目もくれず遥か彼方に向かって飛んでいく。その巨体が空に浮かぶ胡麻粒のような大きさになった瞬間、20メートル先の草むらが騒がしくガサガサ、ガサガサと揺れた。
そして、次の瞬間!
「グゲガガガ! ベゴっベゴっ!」
緑色の体表をした子どものような生き物が飛び上がって姿を現した。
それも一匹ではない。
「ベグリャ! バビげっ!!」
「ゲゲゲが! ぐるぐる!」
「バビボバビボ!」
濁った奇声を上げて騒ぐそれらは二足歩行しているが明らかにヒトではない。
大きすぎる頭部に長い耳。
大きな瞳の白眼部分は濁った黄色で黒目は小さい四白眼。
その異形を見れば、誰もが奴らをこう呼ぶだろう。
「ゴブリンっ!?」
驚きの声を上げたことをすぐ後悔した。
その言葉が自分達に向けられたものと分かった奴らはこちらに向き直り走ってきた。
「ひっ!」
慌ててリアのドアを閉めて運転席に移動する。
「ビグワワワ! ゲレべボバ!!」
ゴブリン達は窓ガラスを素手で叩き始めた。
力は体躯相当なのだろう。この程度で車のフロントガラスは割れない。だが異形の怪物に襲われていることの恐怖に身がすくんだ。
そして、今置かれている自分の状況にようやく言葉が思い当たった。
「異世界転移とかいうヤツかよっ!! クソッタレえええええええ!!」