第31話 レパント伯爵領〜欲望〜
食事を終えた俺たちはそれぞれの部屋に戻る。
俺はシンシアの部屋の隣の隣の部屋、つまり一つ空き部屋を挟んだところを自分の部屋とした。
「アンゴさんのおかげで美味しい晩餐でしたわ! お休みあそばせ!」
機嫌よく部屋に入っていくシンシアを見送り、俺も部屋に入る。
部屋にはベッドとクローゼット、それからテーブルと椅子が置かれており、シンプルながらも程よく広くて良い部屋だ。
ベッドのそばに水が張った桶とタオルが置かれている。
これで身体を清めろということだろう。
「風呂が欲しいところだなー」
とぼやいて、とりあえず脚を洗った。
一時間ほど経ってから、俺はシンシアの部屋の前に行きドアをノックする。
反応がない。
どうやら就寝したようだ…………
「チャーーーンス!!」
俺は大急ぎで部屋に戻り、バッグから紙を取り出す。
その紙には俺のお気に入りのエロ画像がプリントアウトされている。
邪魔の入らない部屋に一人!
そうなったらやることなんて、性欲の処理しかないだろう!
エルドランダーの中じゃシンシアにバレる恐れがありすぎてできるわけないし、外でションベンするついでにというのはあまりにも風情がない。
おあつらえむきのダブルベッドに服を脱いでダイブし、目を閉じてゴロゴロ。
気持ちを高めてからにコトに移ろうとした————しかし、
「アンディ様、よろしいですか?」
コンコンとドアをノックする音と男の声。
「ちょ、ちょっと待った!!」
慌てて服を着直してドアを開ける。
小柄な中年の男。
俺たちの世話係が立っていた。
貴族屋敷の召使いという割に下品な印象を受けるのは背筋が丸く、いやらしい目で人を値踏みするように見るからだろう。
「何の用だ? こっちは休もうとしたところなんだが」
やる気まんまんのところに水を差されて少なからず俺は不愉快だ。
男はウシシ、と卑屈な笑みを作りながら俺に話しかける。
「美人の相方を連れているのに一人寝でよろしいんですかい?」
印象どおりゲスなことを言ってきやがった。
こちとら誰も傷つけない性欲処理に集中したいのに余計なノイズを混ぜるんじゃない。
なまじ綺麗だから意識してしまいそうになるだろ。
「ランスロットの怒りを買いたくなければ彼女をそう言う目で見るな。用がないなら寝かせてもらうぜ」
すぐにでも話を切り上げたいという態度で接する俺に対し、奴は懐に滑り込むようにして顔を近づけて、
「夜のお相手なら、連れてこれますよ」
と囁いてきた…………えっ?
戸惑う俺に男は再びウシシと噛み殺すような笑い声を立てる。
「我が主人から従者の方々にもできる限りのおもてなしをさせていただくよう仰せつかっております。危険な旅路を超えてきたのだから気持ちも昂っておるでしょう。ここは女でも抱いて気持ちよく眠ってくださいな」
…………マジか? おもてなし?
ひとりあそびじゃなくて、ふたりでダブルス?
おいおい、さすがにブラックと名高い我が社でも性接待なんてのはなかったのにこれが異世界のレベルなのか!?
「い、いやいやいやいや! 気持ちはありがたいが、俺も勇者の従者という手前、破廉恥なことは控えないと!」
惜しい……!
実に惜しいが、こんな衛生意識皆無の異世界で娼婦やってる女なんて怖くて抱けるか。
ゴムもイソジンも持ってきてないのに。
「ご安心くだせえ、お客人にその辺の安い娼婦などおつけしませんって。主様の大切なお客人のために用意したそりゃもう極上で高貴な娘にございますから。病気の心配はございません」
俺の心を見透かしたかのように男はグイグイ押してくる。
召使より女衒の方が向いているんじゃないか…………それはさておき。
「極上? 高貴?」
「絹のような金色の髪、水を弾く陶器のような白い柔肌。奉仕する際、上目遣いで見つめる瞳は青い宝石。まさに貴族美人という言葉が似合う娘にございます」
ほ……ほーーーう!
ちょっとーー、現代日本じゃまずお相手願えないような嬢じゃんかー。
ええーっ、困っちゃうなー!
俺は一人部屋で処理できればそれで良かったんだけどなー。
でも、せっかく付けてくれるっていうなら……
この世界の女の味を知りたくないと言えば嘘だし、ちょっとお手伝いしてもらっちゃおうかなあ。
「そこまで言うなら…………よろしくお願いします!」
「へへっ、じゃあすぐ連れてきますんで!」
「あっ! くれぐれもシン……ディには」
「バレないようコッソリやりますから! 旦那は服脱いでベッドでお待ちくだせえ!」
足早に召使いは建物の外に出ていった。
俺はドアを閉めると、服を弾き飛ばすようにして全裸になる。
桶に入った水で全身を清め直した後、ベッドの上で筋トレを始めて出迎えの準備を始めた。