第28話 エルドランダーvsウジドクバエ
「エルドランダー! さっき手に入れた『アンブレイカブルカッター』とやらを試す! どういう武器だ!」
『フロントグリルに内蔵されていてハッチを開けるとモース硬度10の合金でできた回転ノコギリ先端についたフレキシブルアームが出てきます』
「操作方法は?」
『オートを推奨します』
「よし! アンブレイカブルカッター起動!」
『了解』
ガコン! というハッチが開く音の後にギュイィィィィィン! と甲高い金属モーター音が掻き鳴らされる。
アンブレイカブルカッターは食虫植物のように飛び交う蝿たちに襲いかかり触れたものを凶悪な刃で粉砕する。
オーバーキルもオーバーキルだ。
【ウジドクバエを1268匹倒した。
経験値を3804獲得した。
エルドランダー・エクスはレベルが3に上がった。
『オート・マイン・ボール』を手に入れた】
「これはどういう武器だ!?」
『サイドバンパーに追加装備された射出部から発射される遠隔機動式の爆弾です』
「弾数とリチャージ時間!」
『二発。リチャージには八時間以上の運転停止が必要です』
「チッ、コレじゃない! とりあえず蝿の密集しているところに向けてぶっ放す!」
『了解。発射』
野球のボールくらいの大きさの黒い球が宙に向けて二発発射された。
それらはエルドランダーから50メートル程離れた場所で爆発し直径10メートルほどの火球を生み出したまま数秒の間維持し、蝿を焼き払う。
その威力はカーモニターに凄まじい戦果として現れた。
【ウジドクバエを3899匹倒した。
経験値を10697獲得した。
エルドランダー・エクスはレベルが4に上がった。
『スピードタックル』を手に入れた】
【ウジドクバエを7561匹倒した。
経験値を21683獲得した。
エルドランダー・エクスはレベルが5に上がった。
『エレクトリカル・コミュニケーション』を手に入れた】
【ウジドクバエを12333匹倒した。
経験値を36999獲得した。
エルドランダー・エクスはレベルが6に上がった。
『サルフェート・ポイズン』を手に入れた】
「概要を教えろ!」
『【スピードタックル】は時速80キロを超えた状態での体当たりを行った場合、衝突時に魔力的な破壊力を加算します』
「使えない! 次!」
『【エレクトリカル・コミュニケーション】はオルタネータで発生させた電気を放電します。車体表面から2メートル程度が射程距離です』
「どれくらいの頻度で使える?」
『エンジンをかけた状態なら3分に一発です』
「よし! じゃあサルフェート云々は!?」
『排気ガスに含まれるサルフェートの内、硫酸塩を増殖、濃縮して排気管から吐き出す攻撃です』
「毒ガス攻撃!?」
『いえ、毒の液体を排気管から垂れ流すような物だと思ってください。なお、排出量は現在なら10リッター程です』
濃硫酸の排出……だけど量がおかしい。
魔力的なサービスが付いているのかもしれないが科学法則完全に無視だ。
とはいえ、10リッターとは微妙だな。
流石に濃硫酸をシンシアに飲めとは言えない。
物理的に物質を溶かすアレは毒耐性でどうにかできる代物じゃない。
増産せずにぶっかけて使うには量が少なすぎる。
このハエの群れ相手には焼け石に水————水!?
「アレは……あったな。買ってある。だから……あとは」
「ちょっと! アンゴさん? 何をブツブツ仰られているんですの?!」
「オッサン。無理に闘う必要はないんだよ。別にコイツらをやり過ごしてレパント領に」
「お前がビビって近寄れないような危険地帯放っておかない方が良いだろ」
俺の返答にランスロットが息を呑む。
「まさか、あるのか? こんな空を覆うほどの蝿を殺し尽くす方法が」
「できるかは分からないが、やってみる価値はある!」
俺はハンドルを切ってエルドランダーをハエの群れから脱出するように走らせる。
アクセルベタ踏みで平地を走るエルドランダーは最高時速300キロを上回る。
あっという間に蝿のいない場所に抜け出た俺はエルドランダーに命令する。
「やれ! 『エレクトリカルパレード』!」
『発動準備。安全のため、壁面に触れないようお願いします』
アナウンスの2秒後、バチッバチッバチッバチッ! と青い稲妻がエルドランダーを覆うようにして放たれる。
車体に張り付いていた夥しい数の蝿が黒焦げになって崩れ落ち、経験値へと変わった。
【ウジドクバエを37856匹倒した。
経験値を113568獲得した。
エルドランダー・エクスはレベルが7に上がった。
『構築魔装・バルカン砲』を手に入れた】
『【構築魔装】とは————』
「その説明は後だ! どこか水が溜められそうな窪んだ場所はないか!?」
俺は減速し目当ての地形を探す。
シンシアとランスロットも窓に張り付いて目を凝らす。
すると、ランスロットが、
「ああいうのでいいのか!?」
と、指差したのは浴槽にもならない程度の小さな穴だった。
「使えねぇーなぁ」
俺が吐き捨てるとランスロットも「は?」と怒りを表した。
その矢先、
「あそこはいかがかしら!?」
シンシアが指差した先はちょっとした貯水池程度の窪地があった。
まさにおあつらえ向きってヤツだ!
その窪地のそばにエルドランダーを横着けしてキャビンに走る。
そして、食料品庫から目当てのものを取り出し、シンシアに投げ渡した。
「シンシア、それを」
「飲めとおっしゃるのでしょう! 分かっておりますわよ!」
ためらうことなく蓋を開け、ゴキュゴキュと勢いよく飲み干すシンシア。
「まッ…………マズくはないですが、クッソ濃ゆくてしょっぱいですわぁ〜〜〜!!」
涙目で悶えるシンシアを見てランスロットが引き気味にボヤく。
「アンタらのコンビネーションについていける気がしない……今から何やるつもり?」
「わっ、わかりませんわ……飲めと言われたから飲んだだけで」
「アンタみたいな従順な貴族令嬢はじめてみたんだけど」
シンシアの俺に対する信頼感の為せる業だな。
それはさておき、これで条件は揃った。
新車同然のエルドランダーを汚し、不快な思いをさせてくれた虫けらどもを皆殺しにしつつ、莫大な経験値を獲得するための条件がな!!




