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第21話 エルドランダーvsゾンビ

 家を破壊してのド派手な登場を決めたエルドランダーに対してゾンビすら戸惑い、俺にしがみつく力が緩んだ。


「ぐっ……オラァッ!!」


 その隙にゾンビの体を持ち上げて巴投げをくらわせて脱出する。

 すぐさま、エルドランダーのリアハッチに向かい、それを開ける。


「シンシアっ!! エルドランダー!!」


 俺が叫ぶと運転席からシンシアが顔を覗かせた。


「ア……アンゴさーーん……」


 眉をへの字に曲げ泣きそうな顔をしているシンシアだったが意を決したように頭を下げる。


「申し訳ございませんわっ!! エルドランダーさんの中に侵入者を招いてしまい動転してこんなことを!!」


 そう言って指を刺した方向には…………カエルがいた。

 モルモットくらいのサイズの。


「もうコレくらいでビビるかっつーの!!」


 鷲掴みにして窓から投げ捨てたカエルに襲い掛かるゾンビを窓越しに見届けて、シンシアに視線を戻した。

 深々と頭を下げたまま上げようとしない。


 勝手に運転して大事故を起こして怒られるものだろうと思っているらしいが、今はただ身体の震えが止まらない。

 運転席に乗り込み俯いているシンシアを無理やり抱きしめる。


「たすかった……ありがとう……シンシア」

「え? えええ?! ど、どういうことですの!?」

「君は、命の恩人だってこと……!」


 体温低めで細身の彼女の身体はガラス細工のように華奢で繊細だ。

 それでもしがみつくことで彼女の鼓動が伝わってきて安堵していく。

 同時に、頭がどんどん冷静になってきた。



 …………エルドランダーが来なければ死んでいたから結果オーライだけど、バイオハザードになっていない町にこんな勢いでエルドランダーを突っ込ませていたらとんでもないことになっていたんじゃね?

 エルドランダーの存在を多くの人間に知られた挙句、建物破壊の賠償金に怪我人や死人が大量に…………


 うん、なんだか、シンシアを褒めるのは間違いな気がしてきたぞ。


「ふ……フフン! まあ私にかかればエルドランダーさんの運転くらい朝飯前ですのよ!」

『あなたに運転させた私がバカでした』

「ちょっと! 自分を卑下なさってはいけませんわ! 私とエルドランダーさんのおかげでアンゴさんは助かって…………タスカッテ?」


 シンシアはまったく今の状況を理解していないようだ。そこに————


 ビタァアン!! と、フロントガラスにゾンビが張り付いてきた。


「うぎゃあああああああああああああ!!! ド、ド、ド、ド、ど、どういうことですの!!?」


 驚き仰反るシンシア。

 俺は彼女を助手席に移らせながら運転席に乗り込む。


「この町の人間はみんなこうなっちまったみたいだ! とにかく脱出するぞ!」


 俺はギアをローに入れて、全力でアクセルをベタ踏みする。


「うりゃあっ!!」


 力強く発進するエルドランダー。

 フロントガラスに張り付いていたゾンビは振り落とされ、ゴリゴリゴリっ!! と鈍い音を立てて轢き潰された。


『たらたらたったった〜♪』


【低級ゾンビを1体倒した。

 経験値を150獲得した。

 エルドランダーはレベルが16に上がった。

 排気量が500cc上がった。

 馬力が20馬力上がった。】



「さすがエルドランダー!! 一気に行くぜ!!」

「わああああああああ!! アンゴさん! アンゴさん! 後ろにもおゾンビたちが!」

「だったら! おバックくらわしてやります、わっ!!」


 バック発進したエルドランダー。

 背後の家とエルドランダーにサンドイッチされたゾンビたちが動きを止める。


【低級ゾンビを5体倒した。

 経験値を750獲得した。】


 ギアをローとリアに小まめに切り替えながらハンドルを切りゾンビどもを蹴散らす。

 フロントガラスに返り血がつくたびにワイパーで拭うが、目の前のゾンビたちがなかなか減らない。


「くっそ! 助走距離があれば猛スピードでぶっ飛ばせるけどこう密集されては!」


 いくらチートとはいえエルドランダーは車であることに変わりはない。

 ゾンビの死体が積み上がっていれば乗り越えるのは難しいし、加速エネルギーなしで車体をぶつけても家を破壊するような威力は出ない。


 そしてついに、恐れていた事態が起こった。


「しまったっ!!!」


 慌ててギアをリアに入れてアクセルを噴かせるが遅かった。

 ゾンビの死体に乗り上げてしまい、タイヤが地面から浮いてしまったのだ。

 これではエルドランダーが動かない。


 バンバンバンッ!!


「きゃああああああっ!! こっちに来ないでくださいませ〜〜!!」


 ゾンビに窓を叩かれシンシアが怯える。

 さらにフロントガラスには鎧をまとったゾンビが張り付いて、拳を思い切り叩きつけてきた。


 ビシィッ! と音を立ててフロントガラスにヒビが入った。


「嘘だろ!? フロントガラスはハンマーで叩いても壊れないって!?」


 いや…………ゾンビ化が肉体のリミッターを外すのなら鍛え上げられた人間のパワーはそうじゃない者の何倍にも————


 バキバキィッ!!


 ヒビが広がっていく!

 どうする?

 エルドランダーから逃げ出す!?


 ダメだ! 俺一人でもキツかったのにシンシアを抱えて走って逃げるなんて不可能だ!


 それにエルドランダーをコイツらの寝床にくれてやるつもりはない!


 キャビンから包丁を取り出し運転席に戻る。

 窓をぶち破った瞬間、喉を貫いてやる!!


「きっ……きやがれ!! クソゾンビがっ!!」


 包丁を握りしめて自分を奮い立たせるように吼えた。


 その時だった。


 ブツン————


 フロントガラスに張り付いていたゾンビの首が落ちた。


「あはは、絵以外にも面白いもの扱ってるじゃん」

「ラ、ランスロット!?」


 ランスロットは二刀の剣を持ってエルドランダーの周りにいるゾンビを片っ端から切り刻んだ。

 形勢が変わった! 今なら!


「おい! 車の下に挟まっている連中を————」

「こっちの方が早いさ!!」


 ドンっ! という音とともにフワッとエルドランダーが浮かび上がり真横にスライドした。

 ランスロットの奴、体当たり一発で5トンもある車体を吹っ飛ばしたのか!?

 ゾンビなんかより遥かにバケモノだろ!!


「なあオッサン! この車は重いものでも載せられるか?」


 そう言ってヤツは荒っぽくエルドランダーの屋根に飛び乗った。


「こっちは脱出したいんだが」

「ダメだ! 奴らの狙いはキャラバンに運ばせていた荷物だ! アレを奪われたら面倒すぎることになる!! 協力しろ!!」


 ランスロットの言葉は重い。

 ヤツの言っていることがこの世界でたったひとつの冴えたやり方に違いない、と思わせるような説得力に満ちている。

 修羅場潜った爺なら分かるが俺より10は若そうなガキに気圧されるなんて悔しい。


 だから……俺も腹を括ってやる!


「振り落とされるなよ! 全速力のエルドランダーは、伊達じゃねえからな!!」


 エルドランダーのエンジンが吼える。

 馬力も上がり加速力も上がった。

 数秒のうちに時速60キロに達したエルドランダーはゾンビたちを藁人形のように弾き飛ばしていく。


「速すぎ……だがそれでいい! そのまままっすぐだ! 町外れに木材運搬用の大型馬車がある! そこまでいけ!」

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