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第19話 キャラバン・オブ・ザ・デッド

 悲鳴が上がった方向に目を向けると、商人が別の商人の首元に噛み付いていた。

 酔っ払って暴れているのかと思ったが、様子がおかしい。

 さっきの悲鳴は噛まれている男のもので————


 ブチチチィイッ!!


 その音が人間の肉を噛み切る音だと理解するまで数瞬の時間差があった。

 首を噛みちぎられた男がおびただしい量の血を流して地面に倒れた後、俺は猛烈な吐き気に襲われて身体を曲げて嘔吐した。

 ビシャビシャと地面に吐瀉物が落ちる。


 今まで見たこともないグロテスクでショッキングな光景に頭も体もパニックを起こしている。


 そんな俺の状態を立て直させたのは、


「逃げろ!! 散らばれっ!!」


 端的に行動を指示する叫び声だった。

 それはランスロットが放ったもの。

 さらに彼は瞬く間に暴れ狂う男の目の前に移動して、


 べキャッッ!


 裏拳で首を吹っ飛ばした。

 その威力と速度から生まれる破壊音はまるでマグナムやライフルみたいな大口径の銃を至近距離で食らわせたようなものだった。


 何から何まで信じられないようなことばかり起こっているが、当面の危機は去った————訳ではなかった。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 悍ましい悲鳴とも唸り声とも取れないような声がそこらじゅうから上がり出す。

 先程まで飲み食いしながら笑っていたキャラバンの連中が苦痛に顔を歪めたかと思うと白目を剥き、全身が水死体のように黒ずんで膨らみ始める。


「ウゴッ!! グギギ!!」


 俺と喋っていた商人も胸を押さえて苦しみ出した。


「お、おい!? しっかりしろ!!」


 反射的に駆け寄ってしまったが、それは悪手だった。

 俯いていた男が顔を上げたと思うと白眼を剥いていて、次の瞬間、


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 叫びながら俺に組み付いてきた。


「うおっ!? 離せっ!!」


 膝蹴りを腹にぶち込み、耳にフックを連続して叩き込んだ。

 軟骨を潰すような気持ち悪い感触があったが男は怯みはしない。

 それどころか俺を押し倒してきた。

 見た目は俺より小柄な感じなのにそのパワーは凄まじく、まるで大人が子どもの相手をするようにあっさりと地面に組み伏せられた。


「ガアアアアアアアア!!」


 黄ばんだ大臼歯を見せるように吼える男。

 直感的に自分がコイツにとっての餌であることを理解し、鳥肌が立った。


「だ、誰か助けてええええええっ!!」


 みっともなく悲鳴を上げてしまった。

 大の男としては恥ずかしいことこの上ないが、行動としては大正解だった。


「はいよっ!!」


 俺に食いつこうとしていた男の頭が吹っ飛ぶ。

 頭のあった場所をランスロットの足が振り抜いていた。

 動きは見えなかったけど頭を蹴り飛ばして助けてくれたのだろう。助かった。


「あり————」


 感謝しようとした瞬間、ランスロットは俺の胸ぐらを掴み上げた。


「おい! お前の名前は!? 歳は!?」


 と殺気立った目で怒鳴りつけられる。


「う、宇佐美安吾……27歳」

「なんの仕事をしている!?」

「ブラック企業で金を持ってる年寄りを騙くらかしたりしてアパート建てさせたり……もとい! エロい絵を売ってる!!」


 俺の職歴は地獄か?


「アンタは無事みたいだな。いや、アンタだけは……かな?」


 周りを見渡すとみんな正気を失っており先程食われた男まで立ち上がり、白眼を剥いてこちらを向いている。

 ランスロットは俺を庇うように前に出る。


「屍鬼の粉を酒に混ぜられたんだ。おそらく、このキャラバンは全滅……くそっ! 大掛かりな罠を仕掛けやがって!」

「な……!? じゃあこのバイオハザード的な状況は人為的に引き起こされたってことか!?」

「ばいお……多分そうじゃないか。知らないけど……そんなことより助けてあげたところ悪いが状況は不利だ。数が多い上に俺の剣は鍛冶屋に預けちまってて徒手空拳だ。次襲われたら覚悟を決めてくれ」


 引き続きピンチかよ!? どうする!?

 頼みの綱のエルドランダーまで3キロはある。

 コイツらがロメロ的な動きのトロいゾンビだったら振り切れる可能性もあるが……


「「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」」」


 ゾンビたちはフォームこそグチャグチャでバタバタと足を鳴らしているが、ものすごい勢いで駆けてきた!


 くそっ!! 韓国映画系の走るゾンビだ!!

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