ヴァイオリン
三題噺もどき―きゅうじゅうご。
お題:足枷・ヴァイオリン・ガラス
街から見える大きなお城。
トンガリ屋根が特徴のそのお城には誰も住んでいない。
近くに行くと、ガラスは割れ、建物には蔦が生い茂っている。
でも、時々、一つの音が聞こえてくる。
か細い、ヴァイオリンの音が。
静かに響く、その音色は、どこか悲し気に聞こえた。
:
「……」
ここに閉じ込められてどれほど経ったのか。
見えるのは、鉄格子の隙間から見える小さな空だけ。
私は、永遠の時を生きる呪いを受けた。
「……」
元々ここに住む貴族の娘だった。
“お姫様”なんて呼ばれていたあの頃が懐かしい。
この呪いの原因は、分からない。
いつの間にか、この身に宿していた。
その呪いは、当たり前のように、私の中に居たのだ。
「……」
その呪いのせいで人々に恐れられた。
そりゃ怖くもなるだろう。
―永遠に変わらぬ美しさで、歳をとることなく生きているのだから。
「「「バケモノ!!!」」」
そう、口々に言われた。
父にも、母にも、他の兄弟にも、召使にも。
「……」
そんなバケモノが、上に立つ者の中に居れば、彼らは反乱をおこすそう。
それを事前に回避するため私は、この地下牢に閉じ込められた。
そう言い聞かせられて、私は、ここに居る。
足枷を付けられ、2度出ていけないように。
自由に動くのは、この両手。
「……」
何年たったのか。
もう、私を知る人間は居ない。
いつの間にか、人は来なくなった。
「……」
自由な両手で、どうか誰か気づいてくくれと、ヴァイオリンをひいている。