第91話 人生という名の競争はまだ終わらない
「……ふわぁ。じゃあ早速第1期定期試験の最終結果発表を行う。」
「先生、まだ頭寝てるのか?」
「昨日何時まで起きとったん?」
「……もしかしてせんせ、僕達が寝た後も……お仕事?」
「うるせぇ。ほら、さっさと受け取れ。」
「こ、こんなに雑に渡されるとは思わなかったぞ。てっきり他の授業みたいに順番に名前を呼んでもらえるのかと……。」
「だとしても俺が偽名以外でお前達を呼ぶ事などありえないがな。まぁそれはそうと、お前風に言えば他の授業と違って魔法でわざわざ配ってもらえるんだ、光栄に思え。」
「ここまで傲慢な先生も見た事がないんだが。」
「あぁそう。」
「あ、開けてもええん?」
「もう俺の手から離れた物だ、お前らの好きにしろ。」
「え、せんせ。どうして離れるの? ど、どうして耳塞ぐの……?」
「見てりゃあ分かる。」
「「あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ぁ”あ”ぁ”!!?」」
あぁやっぱり。
3人で仲良く夜なべしたとは言っていたが、正直夜なべ程度で成績が上がるのであれば学校や教師がそれを推奨するであろう事は分かりきっているはず。なのにそうしない時点で所詮は焼け石に水でしかない事を何故気付けないのか。
まぁそれも今となっては後の祭り。あそこで阿鼻叫喚となっているあの馬鹿2人には碌に役に立たない知識であろう事は疑いようもない。
全く。
「せ、せんせ、せんせ! 僕、僕初めてこんなに点数取れた! これ、ゆ、夢じゃないよね!?」
「あぁ夢じゃない、現実だ。ちなみに、セディルズが学年1位だ。好きなだけ誇れ。」
「……!! はい、せんせ!」
「で、油断した学年2位のルシウスと3位のトルニア。お前ら、どうせ普段から成績が良いからと色々油断したんだろ。……と、言いたい所だが。大方、どんな問題が出てくるのかが分からなくて幅広くやりすぎたんだろ。」
「うぐ。さ、流石先生、色々と予想してるな……。」
「……俺ら、失敗作?」
「失敗作?」
「……成績、落としたから。」
あぁ……成程。そういう事か。
少し前の俺であれば何だそれはと呆れ返り、何も知らない癖にまぁ色々あるんだろ程度で片付けていたのだろうが、あのレポートを見た今なら分かる。恐らく、トルニアはずっとそういう環境で生きてきたんだろう。
少なくともあの文面を見るに、トルニアが両親に褒められた事もないだろう。
それもあり、ちょいちょいと指で呼べば頭の上に分かり易い疑問を浮かべながらも近付いてきてくれるのでぽん、ぽん、と軽く頭を撫でてやる。
最初こそは驚いた様子だったものの、数分する頃には満足そうに。大人しくそのまま受け入れているのだから所詮は子供なんだろう。
「トルニア。今のお前にはまだ難しいかもしれんが、成績を落とした程度で折檻する親や叱責する親はただの異常者だ。そもそも論で勉強しろだどうだと言う癖に結局は何も協力しなかったり、自分の勝手な気持ちを押し付ける為だけにそれをやってる奴の方が殆どだ。自分達もそういう経験をした事がある癖に、結局は自分の欲を優先して相手の事を考えていない証明にしかならん。だから、成績を落とした程度で何かを気にする必要なんてない。」
「……で、も。」
「それに。……今トルニアが気にしてるのは成績を落とした事ではなく、学年順位が下がった事だろ。」
「そ、それは……。……うん。」
「順位と言われているくらいだ、常に同じ順位で居られる方が異常なんだよ。ほら見ろ、お前と同じく常に1位を保ってたこのクソ生意気なガキですら、今回は2位に落ちてるだろうが。」
「……地味に流れ弾が来たんだが。」
「それに、だ。あの家が出来るまではルシウスの家で生活してたお前らトルニアとセディルズなら当然、こいつが何かの偶然にも成績を落としたり。順位を落としたりして、それを報告された親がどうしたかを見ているはずだ。……こいつの親はどうしてた?」
「……慰めてた。気にせんでええって、そういう事もあるって。」
「……せ、成績が全てじゃないって。」
「そういう事だ。何でもかんでも成績やら学歴で何とかなると思ってる奴程さっき俺が言ったような事を平気でする。勿論、そうでないと思っている親も居るだろうが、やってたら結局は事実的に見てその程度って事だ。事実と思い込みって、違う物だろう?」
「……うん。」
「だから、気にすんな。それに、抜かれたなら抜き直せば良い。ライバルって言うのはそういうもんだ、たった1回負けた程度でくよくよすんな。」
「っ、はい!」