第88話 随分と変わった趣味だな、お前ら
「ただいま。」
「せん、え……な、何だこの甘い匂いは。」
「せ、先生まさか、こんな時間に外出掛けてきたん!? へ、変な奴に絡まれへんかった!?」
「絡まれてもすっ飛ばすだけだっての。……ほら、セディルズもそろそろ落ち着け。これでも食べて気晴らししろ。」
「ケーキ、と……ココア? せん、せんせ、せんせが作ったの?」
「さぁどうだろうな。ほら、良いから。」
生憎と俺はそれに当てはまらなかったが、疲れてる時や何かに不安を覚えて居ても立っても居られない時は糖分を摂取したり、腹を満たせば多少は気が鎮まるらしい。
俺にとっては噂程度の、本当に信用出来ないその逸話が本当である事を願って。例え嘘であったとしても、少しでも効力がある事を願いながらも変に気を遣わせない為に作っておいた、自分の分もテーブルに並べて食べていれば意外にも効果はあったらしい。
俺としては食べ慣れた味ではあるものの、当然ながら初めて口にする彼らにとってはかなり美味しかったようで。あれだけ感傷的だったと言うのに、誰がどう見ても美味しそうに楽しんでいるのが分かる。
まぁお前らが満足ならそれで良いが。
「……ん、美味しい。」
「……んふふ、甘い。」
ん、ようやっと笑ったな。
「…………やっぱりこれ、先生が作ったんじゃないか? 食べた事ない味がする。」
「いやいや、別にこの街中のケーキを食べた事がある訳じゃないだろ。」
「ある。」「あるで。」「あるよ。」
「……本気で言ってるのか、それ。」
前々から貴族にしては随分と貴族らしくない部類だなとは思っていたが、地味な事であればそれらしい事をしていたらしい。
にしてもまぁ……おざなりだとは思うが。まぁ、良いか。