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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第86話 本当はずっとずっと苦しくて仕方ないんだ

          『生と死の概念についてのレポート』


                  1年C組 セイズ・ブレイル=リューンジュ


 僕にとって、生は牢獄で死は救済です。

 ……ごめんなさい、せんせ。絶望されましたか?呆れられましたか?

 良い機会なので……全部、話そうと思って。僕の母さんは僕を産んで直ぐに亡くなりました。元々、体が弱かったんです。

 僕は生まれてから1度も生きてて良かった、なんて思った事ないんです。勿論ルシェルやトルカは大切です。しかし、本当に僕達の縁が強いなら僕がセイズじゃなくてもきっと会えたと思います。

 話……戻しますね。ちょっと、自分で書くなんて言いながら結構精神的に来てるので拙い文章になると思いますがご了承下さい。

 僕の母さんの体が弱かった理由として、母さんは貴族ではなく平民だったんです。それも……かなり下層階級の平民だったそうで、数十年前の俺にとって祖父に当たる人までは代々奴隷だったそうです。それの習慣の所為か食事の回数も量もあまり多くありませんでしたし、贅沢もしませんでした。だから、僕が今通っている学校に行きたいと言った時もかなり怒られたと思います。勉強は……本を買ってきて自力で勉強しましたし、文字の類は使用人達から教わりました。

 僕は……母さんによく似ているそうです。僕は、母さんの顔を見る前に母さんが死んでしまったのでその真意は分かりませんが。なので、何度も殴られました。父さんは母さんを愛していなかったんです。父さんの父さんが俺の父さんが良き人格者になってほしくて母さんと結婚をさせたんだとか。ですが、母さんが亡くなってしばらくしてからその祖父もなくなり、父さんの恐怖支配が始まりました。

 今でも、よく覚えています。父さんはとても勝手な人で自身の妻と父親が亡くなったと言うのに「平民だから」とか、「不純物が減って良かった」とかを言って墓も作らずに2人を灰にして川に流したり、僕を家督を継ぐ為の道具だとか思っていない為に勉強ばかり詰め込まれていました。

 学校に通って、ルシェルやトルカに会って。2人だけは僕にとって、宝物だったんです。知識よりも勝る、僕のかけがえのない宝物。2人だけが僕に優しくしてくれた。2人だけが俺に寄り添ってくれた。口数も多くなく、影も薄い僕と。

 だから、グレイブせんせが「家系で人を見ない」って言ってくれた時、本当に嬉しかったんです。それと同じくらいに胸が痛くて、呼吸が辛くて。今でも、あの感情がどういった物なのか理解出来ないで居るんです。

 今現在せんせ達と生活している訳ですがそれでもふと、自分の部屋で1人になった時に声を殺して泣きじゃくってしまうんです。どうしようもなく怖くて、2人に迷惑を掛けてしまう事もあるんです。

 ルシェルの家に身を寄せていた時は父さんから「学校を辞めて家督を告げ」、とかそう言った手紙や電話がほぼ毎日送られてきて、怒った2人が僕が見ないように燃やしてくれたり、非通知にしてたりとかもあったんですがそれでもあまり意味がなくて。

 でも、せんせと暮らすようになってからはそういう事がぱたり、となくなって逆に不気味なんです。ルシェルはご両親と仲が良いので時々連絡を取っていますがルシェルのお家の方にもそういうのがぱたりとなくなったみたいで何かの予兆なんじゃないかって皆で話してて。だから余計に警戒して電話の呼び出し音とか、玄関の呼び鈴が怖くてどうしても電話や玄関に1人で近付けないんです。

 ……ねぇ、せんせ。どうすれば、どうすればこの苦しみから解放されるんでしょうか。やっぱり……僕は、生まれてきちゃいけなかったんでしょうか。    】




「……………………。」


 五感を共有しているのもあってか、タイミング良くコンコンッ、と嘴で窓ガラスを軽く突く真っ黒の梟を受け入れて。とっ、とっ、とっ、と此方へ寄ってきては静かに甘えてくる梟を愛でる。

 普通の梟であればここで鳴いてしまうのだろうが、俺達が飼っているこの梟達は非常に知性が高い。ほとんど魔法生物の彼らは、自ら学んで成長するので変に心配する必要もない。

 仕事用の便箋を取り出して筆を走らせる。

 児童保護法に従い、トルカ・シュエル=ケリューカとセイズ・ブレイル=リューンジュの法的保護要請とその理由。責任としてトルカ・シュエル=ケリューカとセイズ・ブレイル=リューンジュの保護者となる事。ケリューカ家とリューンジュ家の処分についての質問。

 それらを記載して梟に差し出せばぱくり、とそれを咥える。


 後は、陛下に任せれば良い。


「陛下の所まで頼む。」


 甘えたように少し指先を啄み、夜の闇へと梟は消えていった。

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