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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
87/192

第84話 淡い妄想だとしても

【 

           『生と死の概念についてのレポート』


                 1年C組 ルシェル・シルジェ=グランゲール


 生と死は、生物である以上何があろうと避けられない自然の事柄。そう思っていました。

 どれだけ嫌がっても、どれだけ認めたくなくても残酷な程に訪れるそれ。しかも、生まれる場所も、死に場所も選べない。俺は運良く両親に愛され、両親に大切に育てられてきた、そう思っています。父が貴族になれる資格を貰ったと聞かされた時は本当に嬉しかったんです。勿論、社会的地位が安定したと言うのもありますが何より、“生まれながらの地位で生き続ける訳ではない” と言うのが証明されて心の底から嬉しかったんです。努力は報われる、それを父が証明してくれましたから。

 ですが、それもトルカとセイズに会うまでは、の事でした。

 貴族なんて、大した力もないんです。貴族は女王陛下から認められ、女王陛下が本来持っている権利や職業を肩代わりして陛下のお手伝いをしている、そんな存在。……なのに、その大半が自分の権利、富、地位に酔いしれて他を苦しめるばかり。俺の親友とも呼べる彼らが、それの被害者でした。

 先生、グレイブ先生はご存知でしょうか。トルカはグレイブ先生が授業を持ってくれる以前は学校であまり感情を出さず、厳格な生徒として他の先生達からも認知されていました。それでも、プライベートで一緒に遊んでいる時に見せてくれるあの笑顔を見て俺も油断してしまっていたんです。……トルカは、生まれ持って貴族であり、生まれ持って才能もありました。しかし、そうであるが故に両親から要求される事もよくあるそうです。“貴族の息子なんだから”、“銘家の子なんだから” と言われるのに嫌気が差して全ての縁を断ち切った、と。そんな彼を本当の意味で救ってあげられない自分が酷くもどかしく、彼にとって生は苦しみなんじゃないかと時々怖くなる事もあります。同時に、無知は罪だとも。

 次に、セイズの事です。

 セイズの母は、セイズを産んで直ぐに他界したそうです。元々庶民だった母と結婚し、生まれた事もあり、比較的大人しい性格であるセイズは貴族である父親に迫害や虐待の類も日常茶飯事で昨日はなかったのに痣を作って学校へ来る事も多々ありました。ですが、セイズの母が他界してしまい、女王陛下が定めた法律の事もあって再婚が出来ないこの国ではリューンジュ家の後取りはセイズか、養子を取るかの2択しかありません。……あろう事かセイズの父は血が汚れると言ってセイズを無理に後取りにしようと脅しを掛け、以前のように俺の家に身を寄せています。セイズは今現在の先生を含め暮らしている屋敷で生活していても時々フラッシュバックに襲われて眠れぬ夜を過ごしたり、俺かトルカの部屋で共に夜を明かす事もあります。

 その時はまだ、生死はただ単に残酷な物だとしか思っていなかったんです。……先生、貴方に会うまでは。

 グレイブ先生に会って、生も、死も、怖い物だとしか認識出来なくなりました。先生は、生も死もあって当然だと仰いました。俺も、それには同意見です。……ですが、だからと言って死が怖くないのはどうしても納得出来ないんです。先生、人を亡くすのはとても辛いんです。俺は幸い……と言いますか、まだ誰も喪った事がないので詳しくは分かりません。もしかすると亡くしてから俺も先生と同じ意見を出すかもしれません。……ですが、遺される側は絶対に辛いはずなんです。俺だって、トルカやセイズが死んでしまったら酷く苦しく、酷く辛く、酷く痛いと感じる事でしょう。

 だから、俺は先生と肩を並べたいんです。先生と肩を並べられるようになりたい。

 今は自分の身すらまともに守れない未熟者ですが、卒業までにせめて、家族や友人達を守れるようになって、卒業したら先生を護れるくらいに強くなりたい。

 傲慢と言われようと、強欲と言われようと。それでも俺は、命を守り続けていたい。俺の前では、誰の命も喪わせたくないです。              】




「……レポートだと、そう伝えたはずなんだがな。まぁしかし……よく考えた方だ。」


 誰かを信用する、というのは結構難しい。

 勿論、仕事をする上で。生活をする上で。生きる上で “ある程度は” 信用出来る事もあるだろうが、だからと言って本当の意味で誰かを信じるのは難しい。事実、俺だって陛下達を信用するまでに数年を要した。

 当然信用如きでそれだけの時間がかかるのだから、信頼するまでにはまた更に時間がかかった。……なのに民間では碌に相手の事情も気にせず、勝手な価値観で。自分の物差しだけで相手を測っているというのにそれにも気付かず、さぞ自分が正しいと宣う独善者がかなり多い。

 元より人間不信である者がそんな人と相対する事になれば、そんな触る物全てを傷付ける棘だらけの存在に抉られて終わる。だからこそ、口を噤む。

 結局、社会なんてそんな物だ。馬鹿みたいに人を信じて何になる、結局は自分を苦しめるだけだろうに。


 トルニアとセディルズの家庭事情……か。だからあいつらは俺が “血筋で人を見ない” と言って泣いたのか?


「………………言葉には、それなりに気を付けているはずだったんだがな。……そうか、そんな言葉ですら傷付けてしまうと来たか。」


 次も、見てしまうとしよう。

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