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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第78話 魔法と踊れ、魔法と舞え

「さぁ殿だ、セディルズ。前へ。」

「……うん。」

「ふん、お前もか。普段あんなに俺を困らせる割にこの手の事は駄目なのか?」

「そ、そういう事じゃ、こ、これはいつもとはちが」

「違わない。それはあくまでお前が “違う物だ” と作る必要のない仕切りを立てているだけで、実際は何も変わらん。そうだなぁ……強いて言うならばギャラリーが多い事と? ……おや、それ以外に思い浮かばないんだ?」

「て、テストである事、もそう……だと思います。」

「そうか?」

「え。」

「普段の授業でも俺はお前にテストを課しているだろうよ。課題を出して、それを満たせと。それを実現しろと課題(テスト)を課している。試験時間だって、普段は授業時間として定められている。試験場はいつも俺達が授業を行っているこの青空教室だ。ちょ~っと考えた程度で答えが見つからんのもいつも通りだろうよ。」

「たし……か、に。」

「大体お前の事を見ているのはお前に何も出来ないただの国民だ。変に緊張する必要もないだろう。」

「ぼ、僕に何も出来ない……こく、みん。」

「あぁ。一体全体お前らが何処まで本気か知らんが、俺の所属する部隊と言うのは時折ここに居る数とは比べ物にならない数から見られる事になる。戦場へ出ればそんな物を気にしている余裕は勿論なく。そして何より、ここは命が関わらない場。……好きに失敗し、好きに学び、好きに試せ。本来、何かを教える立場というものはその為に存在しているんだ。」

「……せんせ。」

「ん?」

「せんせ、水槽型の巨大水泡って……ぼ、僕が作った方が良いですか?」


 一応は納得がいったようだな。


 人というのは元来切り替えがそれなりに難しい生き物ではあるものの、あくまで難しいのであってそれを当たり前に出来る人というのも一定数居る。そういう人に限り、大体が自分の限界を正しく理解しないで無理をし、自ら剣を突き立てる。

 普通よりも出来る事が多い人、普通よりも何かが突出している人。そういう普通から少しでも逸脱している人というのはいつだって何も知らず、何も知ろうともしない人達に蹂躙される。

 結局は誰も彼も、自分の意見を押し付けて。自分の方が正しいと、自分の方が普通だと思う人に限って「まぁそういうのもあるかもしれないね」と敢えてお茶を濁すという選択肢がない。


 無意識に人を傷付ける事に一切抵抗がない人物。……結局、人ってのは受動側を軸に話す事が多いんだ、能動側にそのつもりがあったなかったなんていうのは何の価値もない。


 仮にそう異を唱えたとて、今度は「何も配慮する気がなかったんだね」と一蹴されて終わる。だからこそ、「加害者には誰でもなれる」なんて言葉が生まれた。

 その点、一応は納得が出来たのであればここから変にうじうじする事もなければそれで気が散って魔法が不安定になる事もまぁないだろう。後はこのまま見守っていれば良い。


「じゃあ、行ってこい。」


 ぱちん、と指を鳴らせば直ぐに出来上がる巨大な水泡。

 一応は試験というのもあり、敢えて授業中に出現させた物よりも数倍大きくしたが魔法式としては大した問題にならない。あるとしても、あくまで消費魔力が多少増えた程度だがあいつらの保有魔力量的に見てもさして問題にはならない。

 そんなセディルズは意外にも先のルシウス、トルニアと違って覚悟が決まっているのか。それともかなり自信があるのか、あまりにも楽しみ過ぎてプールへ飛び込む子供のように水泡へと飛び込んで。その後、間髪入れずに水泡が凍り付いていく。

 あいつにしては珍しく、消費魔力を誤ったのか。それとも何か作戦があるのか、明らかに水泡を凍らせるだけにしては多過ぎる魔力を行使して鏡と見違える程に凍結させた影響から中を見る事が叶わない。

 今回、俺があいつに教えたのはあくまで氷魔法やそれの応用方法、それの概念的な物。……元々水魔法が得意とはいえ、水の中で呼吸をするには水生生物に変化する魔法。又は、風魔法を応用して色々行わなければならないが……まさかその術を身に着けている、と言う訳ではあるまい。

 別に今回の試験で魔法薬の使用を許可していない訳ではないが、それでも買うには高価過ぎる物を使っているとは考えにくい。


「る、ルーベル先生!!? 彼、大丈夫なんですか!?」

「……少なくとも俺の魔法を上書き出来た、とは言っても出来る程度の濃度で水泡を作りましたけど、彼は元より知識欲が馬鹿みたいに高い生徒です。勿論此方からあれを解除する事自体は全く以て難しい物ではありませんが、だからと言って現段階で解除して良いかどうかは怪しいような……。」

「そ、そんな事言ってる場合ですか……! このままだと生徒が」


 ぱきん。

 軽く、小さな音と共に小さな罅が幾つも入り、やがては割れる。それも、大きな欠片がぼとぼとと割れるのではなく、まるで割れた鏡の破片のような物が無数に現れては水のベールを纏いながら。太陽の光でキラキラと幻想的に反射するその結晶をシールドのように幾つも展開させ、常に動き続けている。

 これは最早、俺がセディルズに課せた水中での無詠唱魔法行使。そして水槽型の巨大水泡を使った造形だけでなく、ルシウスが行った複合魔法。トルニアが行った、複数の対象を制御した上にそれで舞いを行うという課題ですらも満たしている。


 文句なしどころか、期待以上の出来だな。これは。……流石に褒めてやらんと。


「せ、せんせ、どうですかっ?」

「実に素晴らしい出来だ、セディルズ。最早芸術点も今直ぐ設けなければいけないのではと思ってしまう程の出来だ。」

「良しっ……!!」

「「狡い!!」」


 あー。やっぱ噛みついたか。


 消費魔力としては殆ど同じであっただろうルシウスとトルニアもそろそろ回復したようで、元気にもそのままセディルズの方へと走っていってはまた喧しくなる。本当に、ガキの回復力と元気さには随分と呆れる物がある。

 ただそれも相まって流石にセディルズもこれ以上魔法を維持する事は出来なかったようで、大気へ溶けるように消えていく様ですらも美しい。


 ……うん。やっぱり今からでも設けるべきか? いや、別で追加点にしておくぐらいで良いか……。


「これが……まだ、1年生なんて。」

「技量に年齢や学年なんて関係ありませんよ、アラーク先生。結局、出来る奴が全部掻っ攫っていくものですから。……何もかも、全て。」

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