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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第73話 これでも十分甘やかしているだろうに

「生憎と普通を知らない俺にとって、普通は追加の試験を嫌がる傾向にあるらしい学人という生き物が追加の試験に嬉々としている現状がかなり異常ならぬ異様に思えるんだが。お前ら、試験の前に頭の病院にでも行った方が良いんじゃないのか?」

「安定でさらっと酷い事言ってるぞ。」

「も~そんなんルーベル先生やからええんやんか! ルーベル先生以外からの試験やったら勿論嫌。」

「……あぁ、そうかい。」

「何で疲れてるんさ、普通は喜ぶとこじゃないん。」

「あ~嬉し~。」

「「「棒読み過ぎて草。」」」


 異常は異常を呼び、異常は平凡を異端にするとは言うがこれがその顛末なのだろうか。いや、元々も天才と呼ばれるぐらいの知能は有していたと聞いているので片鱗が開花した、と形容する方が正しいか。

 ただそこまで平常運転ながらも隣に不正や俺がこいつらに対してあり得る訳もない贔屓や試験難易度、判別純度の変化防止の為に待機しているアラーク先生の事はしかと認識出来ているらしい。


 ディアル、シャルと来て今度はこの先生……か。やれやれ、俺は何処まで普通から最も遠い所に居るのに普通を眺めなければならないのやら。


「それはそうと先生、筆記試験かなり難しかったぞ。ちょっとは加減してくれても良かったんじゃないか。」

「そうか、もっと勉強したいか。」

「聴力を何処に置いてきたんだ、先生。」

「でも、せんせらしくて好きでした。」

「何で結局着地点がそこなのか、俺には全く分からないんだがな。」

「愛の力ですよ、せんせ。愛の力です。」

「一生ご縁のない物に今更顔を出されても冷たい目で見下すのがオチだな。……まぁしかし、あれぐらいの方がスリルがあって楽しいだろう?」

「「「生徒の試験で遊ばないでください。」」」

「やだよ、俺の新しい玩具なのに。」

「盛大に言い切ったぞ、この鬼畜教師。」

「ちょっとは優しくしてくれてもええやん……。」

「敢えてお前らの苦手な問題を山程盛ったからな。」


 苦い話、俺の幼い頃もそうだった。

 世間一般では「長所を伸ばして短所を補え」というどうにも優しい言葉があるようだが、俺を育ててくれたギルガ達にそのような甘ったれた言葉が存在する訳もなく。その代わりにあった言葉が「長所を抑えて短所を平に」。

 何だそれはと思ったのも束の間、まぁ長所は伸ばそうとしなくてもやりたければ勝手にやる為、短所を出来るだけ平均に持っていこうという意味合いが込められた言葉だった。何とも迷惑極まりない。

 その為、俺が得意な事はほぼ全て取り上げられて。どうしても長所を伸ばしたいのであれば自由時間を削ってやれだとか。睡眠時間を削ってやれだとかと何かとストレスの多い日々だった。

 しかし、それも大人になってみれば必要な事だったのだなと、憎々しい事に理解出来てしまった。

 結局、世の中というのは嫌な事よりも嬉しい事の方が少ない。そして、そのただでさえ少ない嬉しい事ですらも自分で用意しなければならないと来た。

 だからこそ、辛い物を辛いと感じられない精神が必要なんだそう。義務でも何でも良いから、ある一定の最低基準を満たせるだけの実力は。技量は持っておけと強制力があり過ぎる圧力によって均された。


 地獄のような学生生活も、過ぎてしまえばただの苦い思い出であり。何より教訓があり過ぎて嫌うに嫌えない悔しい思い出になった。


 そんな俺を教師に選んだ、その瞬間がこいつらの運の尽き。このまま俺を教師として認識している限りはその地獄を是非とも踏破してもらわなければならない。

 勿論、これはただの嫌がらせであり、ただただ自分と同じ思いをさせてやろうという奴辺りに近い所業。しかし、それを知らない奴らにはこれが軍隊式の授業や教育方針と勘違いする事だろう。

 全く、無知というのは。表面を知るだけで満足している連中はこれだから面白くない。


「さて、そんなお前達に実技試験内容を発表する。」

「おっ、やっとか! どんな、どんな試験なんだ?」

「やっぱ先生の事やから全員違う事させるんでしょ?何やらせるん?」

「せんせ、良くも悪くも絶対に手を抜かないから……楽しみ。」


 そこは楽しむ物じゃないんだよ。まぁ、楽しめている辺りお前達も普通から逸脱しているが。


「まずはルシェル、お前は特に調整の難しい炎魔法と重力魔法の複合魔法だ。ただ炎魔法と重力魔法を複合した魔法を使えば良いからな、形状は問わん。何でも良いから炎魔法と重力魔法を複合した魔法を行使しろ。」

「……ぇ。」

「トルカ。お前は同時に種類の重複しない10本以上の武器の召喚と、それを使った剣の舞を行え。お前自身も舞うかどうかは任せるし、舞ってれば良いからそれで俺と戦闘するのもやりたいならやって構わん。」

「……ん?」

「最後にセイズ、お前は水中での無詠唱魔法行使と水槽型の巨大水泡を使った造形魔法の行使。どれだけ大量の魔法式を編んでくれても、組み込んでくれても良いが呼吸を忘れないようにな。意識を失ったら失格扱いだ。」

「……。……う、ん。わ、かった……?」


 何を驚いているのやら。全部延長か応用の類だろ、これぐらいぱっとやってみせろよ。


「……え、あの。難易度もそうですが、生徒別に課題が違うんですか?」

「えぇ。性格にも個性があるように、当然魔法にも個性がありますから。幸いにも俺が担当している生徒は彼らだけなので、その良さを活かして普段の授業からこうやって個別に色々と用意しているんです。まぁでもご安心下さい、アラーク先生。それぞれが課題としている物、授業中に取り組んでいる物を念頭に置いて “出来なくもない課題” を用意しておりますので完成度はともかく出来はしますよ。」

「……。」


 おや、黙ってしまわれた。


「んじゃ、これから30分間の思考時間を設ける。せいぜい頑張って魔法式を組み立てろ。」

「あ、あの~……。ヒント、とかは?」


 ふむ。


「甘えるな。」


 普段の授業でも思い出しとけ、ばーか。

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