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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第60話 せいぜい光栄に思いながら果てていけ

 恥も恐れぬこの愚か者は選ぶに事欠いて公開処刑をお望みらしい。

 会議が終わるや否や、俺を含んだ教員全員が気付かぬ内に校内全域へ轟かせた俺とアダール先生とやらの決闘は今となってはただの見世物。それこそ、数世紀以上前のコロシアムでも彷彿させそうな勢いで見物人がわんさか溢れていると来た。

 当然ながら、その大半はこの学校の学生。中にはこの学校内で働く用務員やらそれに類する職員達も確認出来る。……後で軽く、悪目立ちした事に対するお叱りが受ける事も今から覚悟しなければならない。

 そんな阿呆は今、圧倒的な実力差も理解出来ずに生徒達へ向けて喧しくも演説中だ。俺への罵倒も含めて。


 ったく、ディアルが雇用した時のこいつの態度が知りたいぐらいだな、これは。生徒より問題児じゃねぇか。


「先生!!」

「せんせ……!!」

「話は聞きました、グレイブ先生。……大丈夫ですか。」

「それは何の心配だ? 俺の心配か、それとも俺が誤ってあいつを殺す事の心配か?」

「勿論、先生の心配に決まってるだろ……!! 幾ら誘い受けとはいえ、これじゃあ先生が悪目立ちするってのに……!!」

「ルールゥ先生は……いや、その様子だと止めてないっぽいですね。」

「あいつはそれを条件にこっちに来てるからな。あいつが居るのはあくまで俺の授業内でのみ。校内行事には欠片の興味もないのさ。」

「……? なら先生もそうすれば良かったのでは?」

「ディアルがそれを許さなかった。生徒の良い刺激になるってな。……まぁでもその結果がこれなら好都合、陛下には多少怒られるだろうが俺もそろそろ暴れたかった所だが、お前ら以外の生徒にはこれが初めての魔法戦を見せてやる良い機会になる。」

「……ちゃっかり授業にしてやがる。」

「こういう所は相変わらずやなぁって感じだけど……。先生、流石に殺すのはなしですよ。」

「せんせも……怪我、しないで。」

「分かってる。」

「ふん、俺がお前のような小娘に、本当にやられるとでも?」


 吠えてろ、人間もど


「うっさいッ!! お前も没落貴族の癖にッ!!」

「先生はアダール先生とは違い、沢山苦労して沢山苦しんだ人です。……それなのに、俺達と真っ直ぐ向き合ってくれて、俺達それぞれに合わせて細部までしっかりと見てくれてる。決して投げ出す事もなく、ちゃんと俺達が分かる目線で話してくれる先生です。……お前のように授業を自分の点数稼ぎ程度にしか考えていないような人と一緒にしないでいただけますか。」

「せんせは優しくて、時々厳しくて。……でも、すっごく賢くて。アダールせんせみたいに貴族って言う階級に甘えて、常に人を見下してるような人じゃないッ!!」


 いや、人は結構見下してるけど。


 まぁでも俺の場合は見下してると言うよりは単純に興味がない。自分に害がなければ傍で何をしていようがどうでも良いし、居ても居ないような物であるそれに意識を向ける気など毛頭ない。

 結局、生き物と言うのは皆利己主義だ。好きの反対は無関心とはよく言った物で、本当に興味がなければどれだけ視界に入っていても視野に入らない。例え目の前にあろうと、どうでも良い物には意識が向かない物だ。


 どーでも良いから早く始めてくれ。そろそろ子供の実力だけじゃなくて大人の方の実力も知りたいんだよ、俺は。


 原則、この学校では教師同士の決闘は許されていない。

 仮にそれを行った場合、敗者は必ずこの学校を去らなければならないからだ。何だかんだ言って実力主義なこの学校では生徒のみならず、教師にまでその法則が適用されており、原則その例外がある者は居ない。

 つまり、当然ながら俺がディアルに決闘を挑んで俺が勝利した場合は当然俺が学校長と言う事になる。敗北したディアルは、二度とこの学校の敷地を踏む事ですらも許されない。

 しかし、生憎と俺にそんな事をした所でメリットなんて欠片もない。なのでまぁこう言った形の誘い受けでなければ思いっきり戦えないと言うのも難儀な話ではある。


 まぁ諸々を抜きにしても階級の概念が呼吸する事ですら許していない学校で階級(カースト)制度を吠えるような教師は要らんわなぁ。


「ほれ、お前らもさっさと観客席に移動してこい。ここに居られては色々やりにくい。」

「……容赦なく観客席って言った。」

「うん、言った。先生、実は楽しんでる?」

「それなりに。」

「……せんせ。」

「良いからおこちゃまは行った行った。俺はそろそろ暴れたいんだよ。」

「顔だけは綺麗なお前が、この後どう泣き崩れるのかが楽しみだよ。」

「ディアル、始めてくれ。」


 どれだけ魔法技術が発展しようともこういう格式ばった物はその形を変える事はあまりない。

 魔法技術の発展した現在では武器としてすら認知されなくなってしまった拳銃が高らかに空へと向けられ、撃ち出された後に結界へ衝突して弾が砕け散ったのを合図に先方が動き出す。



 それで初めて、ルシウス達の優秀さ加減を実感する事になる。



 どうにもこの学校では無詠唱が当たり前、と言うよりは彼らが特別優秀なだけなようで、長ったらしく詠唱した割には無駄もムラもあり過ぎる火炎はただただ大きいだけのそれとなって此方に飛来する。多少は風魔法も含まれているのか、回転率は通常の火炎の物ではないがこの程度じゃあ本職のお遊びにもなりやしない。

 多少、本当にこんな奴が相手で暴れる事が出来るのか疑問になりながらも人差し指だけで受け留めて。それに激情し、更に馬鹿馬鹿打ってくるそれらも全て回収してどんどん火球を大きくし、折角なので回転率は勿論の事、その中心温度ですらも上げていく。


 ……ふーん、やっぱこの程度か。


「ッ……!! 卑怯だぞ、貴様!!」

「と言われても。俺はただ単にお前が打ってきた魔法を吸収して成長させてるだけなんだけど。何、この程度で魔道具使ってるとか思ってる訳?随分と足りない知識らしいなぁ、お前の頭って。」

「お前のような小娘に無詠唱で魔法が使える訳もない、魔道具をさっさと外して正々堂々戦え!!」


 へー、そんな魔道具あるんだ。そりゃあ知らなんだ。


 お生憎様、俺の仕事は犯罪者を黙らせる事。犯罪者から押収した道具の類はほぼ全てそういうのを管理するのに適している課などの専門チームに委ねる事が普通だ。そんな小道具程度に興味はない。

 そもそも、俺達の部隊はそんな小道具に頼らない。仮にあるとすればそれは俺達が壊滅の危機に瀕しているか、はたまた “本体” に激しい損傷が現れた場合か。他にありえるとすればこの国が亡ぶ時だ。

 そんな未来は来させないし、仮に来るのであれば大陸の半分は道ずれにしてやるぐらいの気概でなければこの席と責は務まらない。


 そんな役目を担っている癖、こんな所でそんな残酷な真実も知らねぇ一般人共に紛れて生きてるなんて、数年前の俺でも予想出来やしないだろうさ。


「ティア。」

「じ、じー」

「陛下から許可出たよ。結界強化したから分からせてやって。」

「くく、俺らのお姫様に生意気言われて許すようなボスじゃねぇってよ。」


 本来であれば戦場に差し込む黒い太陽以外の光を浴びてはならず、死力を尽くして国家の為に生きなければならない俺達の部隊はこうして目立つ事を許されていない。それと同時に、全力やそれに近い物を揮う事ですらも許されていない。

 例えそれが犯罪者であったとしても、現場が戦場でなければありとあらゆる動きが制限され、その足枷の中で俺達は全力を尽くさなければならない。



 戦場では死力を。仕事では全力を。それが、俺達のモットーであり絶対なる掟。



 それが今、陛下の許可で覆された。俺が罵倒されたと言うだけの理由で、侮辱されたと言う理由だけで例外とされ、この程度の相手に本気を出す事が許された。

 とはいえ、当然ながら陛下もこの男の死刑を望んでいる訳ではない。そういう意味ではこれを殺さずして分からせろと言う命令は変わらずとも、この男を本気でぶん殴って良いと言う事にはなった。


 ……あぁそう。そう、そっか。


「な、何だあいつらは」

「分からなくて良いよ、別に。問題はあいつらが誰かじゃなくて、あいつらが何を言ったかの方だ。」

「あいつらが、何を言ったか……?」

「そう、何を言ったのか。……まぁでもこの程度で頭に来て牙を剥くような奴だ、言った所で分からないだろうから俺が直接教えてやるよ。」


 折角だ、こいつらから貰ったこの熱量も糧として変換してやろう。幾ら本気を出して良いとは言われても、こんな奴相手ではこの場ごと全て吹き飛ばしてしまうのが関の山。……今は実力差を分からせる為に遊んでやれば良い。

 未だに俺の人差し指の先で生徒達から見れば高濃度。俺から見ればそれこそ底辺から数えた方が速いぐらいの低濃度の火球に水の魔力、雷の魔力、土の魔力、樹の魔力、氷の魔力とありとあらゆる種類の魔力を加えていく。

 最初こそは火球らしくごうごうと燃えながら回転し、球体を維持していたそれは数多の異なる属性の魔力を注ぎ込まれて色を変え、流れを変え、形を変え、大きさを変え、最終的には真っ黒なバチバチと赤い雷を放つ球体へと成り果てる。

 更にその球体へもっと特殊な属性の魔力を2つ流し込んでやれば真っ黒な赤い雷を放電し続ける球体は太陽のようにメラメラと蒼い炎を纏いて辺りのありとあらゆる魔力を吸収し、自動的に。永久に魔力濃度を上げ続ける即製のブラックホール爆弾へと成り果てる。


 さぁて……と。


「……あんたが俺の事を何て聞いてるか知らねぇが、これでも俺はこの国で10本の指には入る大魔導士で、3本の指には入る程に命を狩る処刑人で、そして俺の知る限りでは世界で唯一即席で特殊な魔法を作れる立派な魔導士様だ。お前みたいな魔法使いでもなければ術式がなければ何も出来ない魔術師でもなく、憐れな魂が渦巻いていなければ魔法ですらまともに使えない死霊遣いでもなく、神とやらを信仰しなければ魔法を行使出来ない聖職者でもない。そりゃまぁ見た目こそこんなだが? 想像と可能性、創造と試行錯誤の果てに生まれた学問である魔法の更なる境地、魔を使う側ではなく魔を導く側である魔導士の俺に喧嘩を売る事が如何なる結果を招くのか、その身で知れば良い。」


 結局、見た目でしか物事を見れない奴なんてこんな物だ。物事の本質に目をやらずして分かっている気になるのであればまだしも、その上で周りを見下すような輩に明るい未来など来るはずもない。

 幸いにも他にこれを罰する事の出来る者が居ないと言うのであれば、陛下がわざわざご用意してくださった機会。存分に活かして本物の地獄を教えてやると言うのも講師の定めだろう。


 まぁまさか、生徒じゃなくて教師にまで教える事になるとは思ってなかったがなぁ。


「そんじゃ、軽く臨死(りんし)体験してこいよ。」


 ひょいっ、と軽くボールペンでも投げるように宙へ放ったピンポン玉程度の大きさの黒い太陽はアダール先生とやらの前まで流れて、―――爆発する。

 本来であればこの都市丸ごと吹っ飛ばせてしまうそれをギリギリのタイミングで結界内に封じ込めてやりつつも幻影魔法を展開し、その深度を視覚だけでなく聴覚、触覚、味覚、嗅覚にまで上げていく。

 五感全てに作用出来てしまう幻影と言うのは優に人をバグらせる。本当の世界では、俺の見えている世界では結界内で超やばい爆弾が破裂し、その中を燃やし尽くして今は鎮火を待っているような状況ではある物の、この場に居る全員はまだ幻影の中に居る。

 ある者は幻影に惑わされて悲鳴を挙げてすっころび。ある者は恐怖で動けなくなったのか、視線をその光景に釘付けされながらも硬直し。ある者はこの一瞬で防壁魔法を展開して衝撃に耐えようと努力する。


 ふーん……あの短期間で防壁魔法やら他の魔法を防壁として応用してる生徒も数名、か。なんだ、別にルシウス達だけが特別な訳じゃないみたいだな。


「ティア、今の彼らってどんな光景見てるの?」

「まぁ、マグマん中で一生焼かれてる光景かなぁ。」

「うぅわ、えぐ。」

「にしてもほんと、お前の魔法構築の速さにはいつ見ても恐れ入るわ……。後、魔力量。」

「あぁその事だけど、魔力は龍脈から引っ張れるからほぼ無限だけど。」

「「はぁっ!!?」」

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