第50話 どうか、無理はしないでくれ
「皆様、お連れしました。」
「せ、せんせ……。」
「……如何ですか、先生は。」
「念の為、煉掟が止血と多少の輸血を。……とはいえ、それも気休めにはなりましょう。彼も煉掟卿の体調を案じて自身を構成する魔力は勿論の事、使用する魔力に関しても加減してらっしゃいました。そもそも我々燐獣と言う生き物の多くは魔力が生物の形を成し、生物としての意思を持った魔法生命体、と言う所でしょう。皆様人間の言葉を借りるなら。……煉掟卿の魔力は恐ろしい程に多いですが、だからと言って体調不良時と健康時では魔力の流れが大きく変わります。それを考えればここまで煉掟が煉掟卿の身を案じるのも仕方がないかと。」
要は、先生がセイズに学ばせた水中と大気中での魔力の流れが違うのと同じと言う事か。
先生が女性と言う事もあり、脱衣所で煉掟が全て済ませてくれたんだろう。
魔法だけでなく包帯の類や場所によっては絆創膏の類まで付けられ、未だに意識が落ちてしまっているらしい先生は直ぐにでもベッドへ入られる状態だ。
しかし、幾ら魔法に詳しくない俺達でも人体の構造と機能ぐらいは多少理解している。
ここまで弱っている先生には悪いが、少しでも腹に何かを入れてもらわなければまた貧血で倒れてしまうのがオチだ。今はまだ良いが、トルカが帰ってくる頃には起きてもらい、ある程度は食事を食べてもらい、高熱や風邪を引いてしまう可能性を鑑みて大人しく休んでもらわなければならない。
とりあえずソファへ降ろしてもらい、肩の辺りまで毛布を掛けるも先生の瞼は持ち上がらない。
相変わらず顔色が悪く、血の気のない顔のままで脱力しているだけだ。
……先生。
「……ぅ、ん。」
「せ、先生。」
「せんせ、まだ、まだ休んでて。……まだ起きちゃ駄目。」
「……とるにあ、は……? 俺は……何かしく、じって……?」
「主は煉掟卿の為のお食事を作っておられます。……どうか煉掟卿、今しばらく御安静に。」
「先生、後は俺達に任せてください。魔法は苦手でも、俺達には彼らが居ます。……どうか、俺達を信用してください。」
「……そう、だな。少し……少し、だけ。」
「せ、せんせ」
「待て。……休んだだけだ。とりあえず、トルカが来るまではこのままにしておこう。……良いな?」
「……うん。」