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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第47話 どうしてもプレゼントしたくて

「先生。」

「ん、あぁ……ルシウスか。どうした。」

「……先生、ここは一応家の中なの家の中でもそっちで呼ぶ気なのか?」

「慣れた。」

「うぐっ……。」


 この奇天烈3人衆の影響もあって突如手に入ってしまった、3日間休暇。

 本日はその2日目となる訳なのだが、生憎と散々困っているように俺は休暇と言う物は全て睡眠に宛てる為、特にやる事がない。

 結果、以前こいつらに教えてもらった本屋で何冊か買い溜めしてきた本を読む以外にやる事もなく、ぼんやりとしながら不毛な時間が過ぎ去り続けているのも事実。そしてこいつらの事を本名ではなく偽名で呼ぶ癖が就いたのも事実だ。



 別に呼び名なんて記号なんだから何でも良いだろうが。



「……それで? 何か話があるから呼んだんだろう、何か非常事態でも?」

「あぁいや、少し先生に見てもらいたい物があって呼んだんだ。ちょっとで良いんだ、俺に時間をくれないか?」

「……まぁ、構わんが。」


 さて、今度は一体全体どんな事で度肝を抜かれる事になるのだろうか。

 割と、と言うかかなり嫌な予感がひしひしとしているのだが、それを言った所でどうにもならない事は分かり切っているので何ともしようがないのも事実だが。

 そんな俺の心境も知らないルシウスは楽しそうに、半ばスキップとも取れるような店舗で先陣を切って歩いているのが確認出来る。

 まぁ彼のラフな服装から察するに、まさか一応は貴族であるこいつがそんな服装で敷地から出るような真似はしないだろう。

 あったとしても中庭が限界であるはずだ。

 以前までは体質上の関係から空調だったり、直射日光に当たる時間だったり何だったりを色々と考慮した結果、それらを一切考えなくて良い夜間での仕事が必然となっていた。しかしてこの体に変わってからはDNAレベルで全てが書き換えられ、そのような身体的な制限は何もかも取っ払われてくれた。



 普通の世界に、ようやっと足を踏み込む事が出来た。



 日中、何の対策もなしに陽の元を歩くと言う事はこういう物なのかと。当たり前のように陽が出ている内に活動し、家族や友人、場合によっては愛人達と騒ぎ倒しているこの昼間がこんなにも明るい世界だとは、欠片すらも思わなかった。


 でも、その当たり前が手の中にあるんだよな。


 その為、念には念をと膨大にあり余った新しい魔力でこの建物全体を覆っては結界を張りまくったり、電力を使わずとも勝手に空調を管理してくれる魔法を張り巡らせたり、水道管を通る水を全て浄化したり、内側の音を外にまで響かないようにしたり、逆に外から屋敷内に入ってくる音の音量を調整したりと色んな事をしているが……もしかすると、これは過保護の類に入ってしまうのだろうか。

 生憎、俺に子供を育てた経験も、当然ながら子供と1つ屋根の下で共に生活した経験もない。

 いつだって俺の周りには年上か、はたまた自分が年上だと思って年上らしく接してくれる大人達ばかりで子供の正しい扱い方や育て方、護り方、距離感などなど全てが未開拓だ。


 ……今度そっち方面の本でも買ってきて勉強するか。


「ここだ。」

「……確か、お前達に何が何でも入らないでくれと言われた部屋だな。何だ、とうとう悪戯の類でも完成したのか。」

「ぐっ……。な、何で先生は何かと全部悪戯に絡めるんだ。別に俺達は悪い子じゃない!」

「やらかしそうではあるからな。そもそも、子供の好奇心然り、ちょっと自信のある魔法師と言うのは直ぐに己の実力や規律を軽んじてやり過ぎる。そういう意味では全くと言えるだろうさ。」

「……いや、先生を前にしてそんな事が出来る程自信なんてない。」

「そうなのか? 子供なんだから、少しは自己肯定感が高い方が良いと思うが。将来後悔する事になるのに?」

「……良い、分からず屋。ほら、開けるぞ。」

「おい、聞け。」


 碌に返事もしないまま、まともな返答を寄越さないままに開かれる大扉。相変わらず仰々しい扉だと諦めながらも完全に開く事を待ち。……そして、此方が言葉を失う事になる。

 扉の向こうには夢で見て、俺の古い過去の記憶から引っ張り出したかのような幻想的な光景。

 生憎と俺にはあれに関する詳しい記憶はない物の、煉掟の話では俺がかつて学習をする為に留まり、修道士が聖地を回るかのように留まってていたと言う深海の中の図書館、深淵なる揺り籠によく似た図書室が広がっている。

 広さこそは負けど、その雰囲気が負ける事は断じてないだろう。

 壁紙や棚だけでなく、空中に魔力を動力として浮かぶ明かりの類までもがしっかりと再現されており、俺としても夢以外で見る事は叶わぬだろうと諦めていた、そんな世界が目の前にある。


「……。」

「3人で作ったんだ。うろ覚えだからあんまり自信はないんだが……ど、どうだ? 気に入ったか?」

「……あぁ。……あぁ、酷く恐れ入った。常々実力が底を知れん原石だとは思っていたが、まさか……。……ありがとう、ルシウス。凄く気に入った。」

「す、素直にお礼を言われると恥ずかしいな……。」

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