第2話 如何なる門も、まずはノックから
「あぁ、疲れた。」
恐らく、生徒達の対応に追われるであろうシャルを放置し、俺は早々にあの居心地の悪い教室を抜け出し、最近与えられたばかりの自室へと戻ってきた。
目に入ったのは、テーブルに置かれた黒封筒。深紅の糊で封をされた重厚なそれは、俺宛の任務連絡だ。恐らくあいつらももうこの場所を特定したらしい。
ペーパーナイフで丁寧に封を切る。中身を確認すれば意外にも任務の内容ばかりでこの仕事に関しては特に目立った記載はない為、これは後で呼び出される可能性がある。
今回の仕事は、第28区画に住む第2級貴族の暗殺。
この国の貴族は、第1級から第4級までの階級に分かれている。第1級は陛下直属の重臣達。第2級は都市の支配者格で、企業の社長や領主が多い。第3級は戦功や技術で認められた名誉貴族。第4級は商業的な成果で地位を得た者達で構成されている。
例外として平民に階級はないが、暗殺の対象にもなりにくく、一番平和な生活を送っているかもしれない。
暗殺の恐怖とは無縁だからな。
コンコンコンッ。
「どうぞ。」
「夜分失礼します、ルーベル先生。」
ほう……?
時間とタイミングは非常に悪い物の、それでもやはり来る覚悟のある奴は居るらしい。
扉の向こうに立っていたのは、昼間、教室で俺に質問をしてきた三人組だった。
黒髪に紅い目を持つ男子生徒は、恐らく平民。堂々とした態度で前に立っている。
銀髪で赤い眼鏡の男子は、緊張のせいか眉間に皺を寄せている。
もう1人は紺髪に青い眼鏡。やっぱり俺が怖いのか、黒髪の生徒の背中に半ば隠れるように引っ付いて離れようとしない。
それでも来れた辺りは評価せんとな。
「ルーベル先生、相談があります。お時間をいただけないでしょうか。」
「悪いが、今からは仕事だ。ただ明日の正午であれば時間を作ろう。」
「ほ、本当ですか!?」
「くだらん嘘を吐いても何にもならんだろう。さぁ、お前らはさっさと寝ろ。俺は本職の仕事だ。」
「ルーベル先生はどんだけ働いてはるんですか?」
「教職員としての仕事は正午から夕方。夕方から朝までは本職だが。」
「え、ブラックやん!?」
「いや、朝から昼までは寝てるから問題ない。」
「せ、先生。ぼ、僕ら、も、もっと遅くに来ましょうか……?」
「問題ない。ガキが下らん心配をするな、ほらさっさと行け。」