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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第45話 少しでも快適な朝を

「……ぅん。」


 あ、やった。まだ5時じゃん。


 悲しいかな、幾ら学校が休みと言えども普段から朝に弱いルシェルやセイズを起こす為、早朝には目を覚まして色々と準備を行う習慣の所為でいつも通りの時間に起きてしまったらしい。

 こうなると2度寝する事が難しい。

 なのでまぁ必然的に起きる事にはなるのだが、だからと言ってぼーっとするのも何だか違う気がする。

 今日は早めに朝食の用意でも始めてしまう方が良いだろう。


「……先生、ちゃんと休んでくれてはるかな。」


 少なくとも昨晩の段階では深く寝入ってくださっている事は確認した。

 かなり落ち着いて休めていた様子だったのは良かったのだが、その代わりと言わんばかりに。

 これまでの疲労が全てのしかかっていると言わんばかりに目の下の隈がその存在を強調されてしまい、先生の食事にはルシェル、セイズと話し合った上、煉掟さんにもそれとなしに伝え、何なら協力してもらった上で睡眠薬を混ぜた。

 事実、それは上手くいったのだ。

 幸いにもお風呂に入ってからの食事だった影響から先生もすんなりベッドに入ってくれたようで、少なくとも気になって寝付けなかった深夜2時ぐらいまで眠っていたのは確認済みだ。

 なので普通に考えればそのまま朝まで寝てくれていると想像するが問題は先生が元は暗殺職である事やルールゥ先生やシャルロット先生から話を聞く限り、極度の睡眠障害によって寝付きも悪ければ睡眠時間も短いらしい事。

 それが、酷く気がかりで仕方ない。

 1度気になり始めるとずっとそれが頭の中を無意味に回り続けてしまうのが人間だ、確かめなければ気が済まない。

 仮にも女性の部屋に入ると言うのはかなり気が引けるがそれでも先生の健康の為だ、少し寝顔を覗く程度なら……なん、とか。


 ……いや、絶対怒られるか。


 しかし、それでも申し訳程度に。これまた無駄だと分かっている忍び足でとうとうやってきてしまった先生の部屋。

 ただ忘れてはならない、先生は俺達なんて足元にも及ばない程に沢山の燐獣と契約し、愛されている人だ。もしかするとその内の一体は起きていてもおかしくはない。

 軽くノックをし、恐る恐る扉を開いて


「せ、先生……? 起きてはります……?」

「ティアならここで安眠中だ。……お前達の計画通り。」

「れ、煉掟さん……! ……煉掟さんは寝なくて良いんですか?」

「あぁ。そもそも我ら燐獣と言うのは睡眠と言う概念を有していない。正確には生物の分類に入らないからな。」

「そう……ですか。そ、それで、先生の様子はどうですか?」

「眠ってる。……今日は日頃睡眠の浅いティアも眠りが深く、今の所は一度も悪夢を見ないままに休んでる。この様子だと数日ぶりに安眠している上に熟睡していると見える。」

「顔だけ見ても良いですか?」

「あぁ。」


 許可を貰い、起こさないように注意しながらもベッドを覗き込めば煉掟さんの言う通り、先生はかなり安眠しているご様子らしい。

 聞いている限りだと覗き込んだ途端にバレたり、眼を飛ばされそうな性格と言うか、体質であるはずの先生はぴくりとも反応しない。

 ただこうして見ると更に分かり易い物で、先生の目の下にある隈はかなり深い。

 先生の不眠症や過労気味と言う真実の、何よりの証明だろう。


 あれ、


「煉掟さん。アルシュとリュートは……?」

「そこのソファだ。」

「くりゅう?」

「……ぎゃう。」

「んふふ。おはよう、アルシュ。リュート。」

「……それで? 子供が起きる時間に関しては随分と早いようだが、どうしてここへ?」

「いつもの癖で起きちゃったんです。いつも、ルシェルとセイズを起こさないといけないので。」

「……成程。子供の癖にしっかりとはしているようだ。だがしかし、だからと言ってそれでティアの様子を見に来る理由にはならんだろう。何か悪巧みでも?」

「いえ、校長先生やルールゥ先生、シャルロット先生からグレディルア先生が極度の不眠症らしい事を聞いてましたから。……少なくとも俺達が知っている限りでは数分程度の仮眠をしている所はよく見てますけど、夜寝てるかどうかまでは分かりませんから。」

「あぁ成程。……まぁ、お前達と絡むようになってからはかなり落ち着いてはいる。大方、幾ら化け物や犯罪人を相手する事に慣れているティアでも子供の相手をするのは骨が折れたんだろう。」

「ふふ、そんなに俺ら、やんちゃですか?」

「まぁティアを困らせていると言う点ではそうだな。……しかし、それでもティアの心と自律神経を安らげているのだから文句も言えるまい。その短い命をせいぜいティアの為に役立ててくれ。」

「え、魂結した俺らでも先生と一緒に居るんは難しいんですか?」

「ティアが本当の意味で死ねる体ならそれも叶っただろうが、まぁその詳しい話をお前達が識るのは数十年か、数百年先だろうな。」


 先生が本当の意味で死ねる体なら……?


「……先生は、死ねない呪いにでも?」

「魂が滅びると言う点ではその通りだな。まぁそれもいずれ、近い内に知れる事になる。……お前達が本当にティアと同じ職柄に就くと言うのであれば。」

「それはもう決定事項ですから。その為に俺達は進路を変えましたし、先生の授業を増やしてもらう事にも、ルシェルのご両親にも話をして納得してもらった上で許可を貰い、他にも増えるかもしれない先生のお友達や同僚達からの授業も喜んでお受けする所存です。」

「……その戯言がいつまで続くか、本当に見物だな。」

「あ、そうだ。煉掟さん、先生っていつも朝食はどうされてますか? 早く起きちゃったんで、もう準備を始めようかと思っているんですが……。」

「ティアなら普段、カレイの煮つけ、アサリの味噌煮、炊き込みご飯を朝食にしてるな。まぁ量が多くて苦労するそうだが、食べなければ隠密機動の者達がうるさいとボヤしていた。だからまぁティア本人が望んだと言う訳ではないが、それでも周りからそれを求められていると言う点では変わらんな。」

「ありがとうございます。じゃあ俺、それ作ってきますね。ご飯が出来たら起こしに来ますので、それまで絶対に起こさないであげてください。」

「あぁ、言われんでもそのつもりだ。」

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