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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第44話 結局してやられるんだよなぁ

 何だかなぁ……。


「休暇、ねぇ。」

「あぁ、そうだ。ここの所働き詰めだったみたいだし、折角だから向こうと示し合わせて完全休日にしようって相談してさ。」

「あぁ成程、だから気味が悪いぐらいにタイミングが合致していた訳だ。……ならディアル、物は試しで聞くんだがお前は生徒達からのプレゼントとやらについて何か知ってるか。」

「生徒達からのプレゼント?」

「あぁ。俺の生徒達と言えばあいつら以外に有り得ないとは思うんだが……にしても色々と情報が足りなくてな。知っている事があれば教えてくれ。」

「うーん……あ、じゃあもしかして彼らが言ってた話ってその事かもしれんな。」

「彼らが言ってた話?」

「あぁ。ちょっとティア宛ての伝言を預かっててな、“後で話があるから部屋の前まで来てほしい” との事だ。……ふふ、あんなに最初は抵抗してたのに、結構板に就いてるじゃないか、ティア。」

「余計なお世話だ。……俺は単に俺がやりたいようにやってるだけの話、別に周りの評価を求めている訳ではない。」

「勿論分かってる。分かってるけど意外にこういうのってモチベーション向上に効果的らしいぞ。」

「求めてない。」

「まぁまぁそう言うなって。……全く。とりあえず、休暇は3日間。この部屋から出てからで良いよ、換算するのは。」

「なら72時間後にまた」

「そんなにしっかり数えなくて良いからっ!! 普通に休んできてくれっ!!」

「……ふんっ、冗談の通じない奴め。」


 休み、か。1時間でもきついのに72時間+αとは。


 俺が休暇と言われてぴんと来るのはせいぜいこの前のようなカフェ巡り程度だ。

 後はまぁあのガキ共と歩き回ってようやっと分かった本屋の散策や大型ショッピングモールの探索程度。その他にやる事はない。

 しかし、だからと言って民間の経営する店に俺が欲しい本なんてそうそうあるはずもなく、結局は素通りしてしまうのがオチなのだろうがそれでは全く以て面白くない。

 あぁでも今現代の、民間の魔法レベルを調べるのもありかもしれない。

 軽くディアルに手を振ってから階段を下りていく。

 俺が面倒臭がって本当にやる気がある者以外の授業担当を放棄した訳だが、それでも少しは興味があるにはあるらしい。

 視線を感じてちらり、と目線をやれば慌てて逃げていく生徒や教師の類までも居るのだから本当に現代の人間関係と言うのは非常に面倒だ。


 陰から見てるくらいならいっその事話しかけてくれ、そうやってじろじろ見られるのは不快だ。


「……で、何を企んでいるんだお前らは。」

「おっ、やっと来たな、先生!」

「ほら先生、手ぇ貸して♪」

「……待ってました、せんせ。」

「……はぁ。ほれ、何処に行く気かは知らんが勝手に引き摺れ。」


 全く何だってんだ。


 予想通り俺を待ち伏せしていたらしいルシウス達に迎えられ、右手はトルニアに。左手はセディルズに取られて小さいルシウスの背中を追って街に出る。

 幸いにも目的地はしっかりしているようなのだが、距離は結構あるらしい。

 元々結構な距離のあるショッピングモールからも離れ、帝都の中心にある噴水の辺りまで来て、ようやっと右折する。

 直線距離であれば、屋根の上を走っていけば10分未満で行ける距離ではあるのだが何がしたいんだろうか。

 何の反応もないまま、特に会話もないままにようやっと見えてきたのはかなり立派な屋敷だ。

 大方ここらに棲んでいる貴族の持ち物だとは思うのだが、ルシウス達の進行方向を見る辺りあそこが目的地と言う事で相違ないだろう。


 一体何をする気だ……?


「……不法侵入は法の執行範囲だが。」

「ちゃんと許可は取ってる。」

「大丈夫だって、ちゃんと書面もあるから! やから先生は何も気にしやんと着いてきてくれたらそれで良いから!」

「はぁ、成程。」


 どうだか。


 そんな疑問はルシウスが徐に取り出した鍵を見て何も言えなくなってしまう。

 最初は管理を疑った物だがどうやら彼らの言う事は本当らしく、今の所は全てが手付かずに見える屋敷の敷地へと入っていく。

 鉄格子のようにも見える、中世らしい大扉を抜けて今度は屋敷その物の鍵も開錠し、実に貴族らしい広々としたエントランスを入り、彼らの赴くままに歩を進めていく。

 やたらと広いキッチンに、家具がある部屋やない部屋なども存在し、倉庫だったりとか。元の持ち主が相当酒好きだったのかワインセラーの類まである事も確認した。

 中庭もかなり広く、建物の構造としてはまさかの5階建て。

 明らかに使い道のない部屋が大量に存在するだけの屋敷となっているのだが……そもそも、彼らは何故ここに連れてきたのだろうか。


 こいつらの家はもう見たしな……。仮にここで生活していたとしても、ここはあまりにも生活感がなさ過ぎる。


「先生。一通り回ってみたんだが……どうだ?」


 ……?


「……まぁ、立派だな。かなり。まるで王城をそのまま貴族が使っても問題ないレベルまで落としたと言うか、まぁ居心地は悪くないな。見通しも良ければ風通しも良く、魔力の通りも良いから結界も自立してて実にバランスが良い。立地も良いし、ただ広過ぎて用途には迷いそうだがな。」

「そうか。じゃあ先生。」

「ん?」

「実はここ、父上に掛け合って使わせてもらえるようお願いした別荘なんです。……と言うか、旧家のような物で、今まで放棄するのももったいないので良ければ使ってはくださいませんか。」


 は?


「い、いやいや、ここは旧家なんだろ? それこそお前達で使えば良いだけの話」

「先生に贈りたいんです! どうしても嫌ならグレディルア先生の授業を受ける生徒の寮として校長先生に寄贈します!」

「いや、一律なんだが。それ、結局俺達以外住まんよな。」

「先生にあげたいんです、地下よりも地上の方が良いに決まってますから!!」

「そうですよ、ここだったら丸1日授業出来るじゃないですか!!」

「おい、俺を過労死させる気かお前ら。しかもそれ、どうせ学校が休みの日でも俺に授業強請る気だろ!?」

「時給換算で金は払うぞ!!」

「そういう問題じゃねぇ。」

「はっ、もっと違う物が良いですか? え、何々、使用人にでもなれば良いですか?」

「俺がいつ隷属を望んだんだこの大馬鹿者共。」


 ここまで来ると俺がどう何を言った所で聞く耳を持たないであろう事は分かり切っている。となれば諦めるしかないんだろう。


 ここまで来るとこいつらの独占欲と言うか、行動力の高さには恐れ入る……。


「……はい、分かった分かった。受け取ります、受け取れば良いんでしょう。どうもありがとうございます。」

「「やったぁ~!!」」

「……おし。」

「……しかし、本当に大丈夫なのか? 俺なんかにと言う点でもそうだが、少なくともルシウスにはお前を慕ってくれる使用人達も、お前を愛してくれる家族も居るだろう。」

「あぁ、俺達全員に良くしてくれて、俺達を愛してくれる俺の両親が居る。……2人は俺の血の繋がらない兄弟みたいな物だ。」

「なら尚の事、お前達だけで住むと言うのも手だし、他にも幾らでも用途はあるだろう。……寂しくはないのか。」

「別に今生の別れをする訳でもないから良いんだぞ! それに、使用人に関しては何人かこっちにも来てもらうから全然問題だってない。」

「なら、ご両親への挨拶に俺も行かないといけないんじゃないか。こんな物を貰っておきながら挨拶に行かないと言うのも」

「両親は忙しいんだ、また時間が出来次第機会を作るから今は何も言わなくて良いからな。」


 大人みたいな事を言いやがって。


 しかし、そうなると当然ながら引っ越しと言う事になる。

 折角ではあるのだがまぁ色々と話を聞いているであろうディアル達にも再度話を行い、色んな書類等々を書き上げてさっさと提出しなければならない。


 やる事は多いな。


「……とりあえず荷物移したり、その他足りない物を買い足したりとか住民票やら何やらの更新だな。他にも考えれば幾らでもあるだろうし、さっさと」

「先生は大人しくしてるんだ!!」

「先生は大人しくしてて!!」

「せんせは大人しくしててください!!」


 ……。


「……はぁ?」

「うわ、顔怖。」

「こ、声低くなってる……。」

「ふん、その程度で俺は引かん!! 先生は先に好きな部屋で休んでてくれ!」

「……んな事言われても。色々後回しにしても面倒なんだ、さっさと終わらせるに限るだろうが。それに、碌に空間魔法も使えないお前らにあの荷物を満足に運べるとは思えん。あまりにも非効率極まりない上に必要性の欠片だってねぇだろうが。」

「こ、これでも重力魔法と風魔法は使えるんだ、上手くバランスを保って必ず成し遂げてみせるんだぞ! だ、大体先生は隈が酷過ぎるんだ! この前だってあんな炎天下の中で寝落ちとか、場合によっては死んでもおかしくなかったんだそ!」

「そ、そーだそーだ! それに俺らだってもうこの放課後から4日間は四連休で休みなんだ、1日でったら4日無理だったら4日掛けたら良いだけの話だろ!」

「せ、せんせ。ルールゥせんせから聞きました、せんせって一人で寝る……と言うかじ、自力で寝るのが苦手だって! な、なら僕の≪其れは永久の安らぎだった≫の力とか、せんせの≪深淵からの呼び声≫の力でも借りて食事時になるまでお休みしててください!」


 ……はぁ、成程。


「何、俺の隈ってそんなに酷いの。」

「「「酷いです。」」」

「死体が歩いているような顔。」

「ご挨拶だなぁ、このクソガキ。」

「全てに絶望して、今にも自殺しそうな顔してます。」

「いや、しねぇよ。俺の生涯は陛下の為にあるんだ、俺の一存で易々と死ねるか。」

「体は睡眠を渇望してるのに、精神が活性化し過ぎて体力限界によって自然と意識が落ちてくれるのを待っているような顔してます。」

「……セディルズが1番正しいんだが。」

「とにかく! 時間がある事も証明したし、先生がどれだけ酷い状態に見えるのかも、どうやって寝かしつける気なのかもちゃんと説明した! 何も無計画に喋ってる訳じゃない事はこれで証明出来たはずだ!」

「まぁ確かに理には叶ってたけど。」


 ……はぁ。


「分かった分かった、なら俺はちょっと煙草吸ってから寝るから。まぁでも何かあったら起こせ、良いな。」

「……! 勿論だ!」

「よっしゃあ……!! ふふん、やった、やったぞセイズ!」

「ふふ、引っ越し作業頑張んなくっちゃ!」


 後でジーラとベク辺りに軽く話通して、影からフォローさせるかぁ……。

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