第34話 貴方が倒れてしまう前に
「……あぁ、もうこんな時間か。」
何を血迷ったのか、どうにも会話の成り立たない彼らを追い出してから数十時間。
再度研究と解析を始めてようやっと集中力が途切れた頃にふと、時計へと視線をやればどうにも日付を跨ぎ、とうとう朝の方が近いぐらいの時間となったらしい。
別に俺は夜行性と言う訳ではないので眠くはあるのだが、それはそれとしてここまで中途半端な時間だと今度は朝に起きられるかと言う点で不安要素は幾つか残る。
いやまぁ朝に何らかの予定がある訳ではないのだが、だからと言って変な癖を就ければ元に戻すのに苦労する。
……まぁ、そうするのが一番だよな。
「このまま朝まで」
【駄目だよ。】
アルシュとリュートですらも先に眠ったはずだと言うのに、俺以外に誰も居ないはずの部屋で聞き覚えのない声が放たれる。
幾ら何でも唯一の出入口である扉を通らずにここへ来る事は結界の関係で不可能であるはずなのに、それを簡単にこなしてしまった奴が居る。
自衛の為にも、撃退の為にも身を捩った頃にはその何者かに抱き込まれるように白い毛並みに包まれ、有無を言わせぬ強烈な睡魔にがくり、と膝から力が抜け落ちる。
それでも抵抗をしようと、幾ら力を入れ直そうとした所で結局は力が抜ける一方だ。
このまま床に着くはずだった体は更に抱き込まれ、呑み込まれてとうとう地に足が着かなくなってしまう。
真っ白な上に、随分と強い睡魔を強引に引き摺り出してくる毛並みに包まれ、悉く俺の抵抗を殺していく。
甘く優しい匂いは更に強くなり、今度は体ではなく意識まで弛緩していく始末だ。
この、まま……じゃ……
「……はな、せ。」
【初めまして、煉掟卿。≪其れは永久の安らぎだった≫に言われて貴方を休ませる為にここまで来たんだけど……ふふ、どうやら煉掟卿って私とすっごく波長が合っちゃう人なんだね。ならもうそのままお休みしちゃいなよ、煉掟卿。大丈夫、煉掟卿の安眠は絶対に私が何にも邪魔させないからさ?】
ずるり、と最早抵抗する事ですら行えない俺の懐に入り込んできたこいつの頭に甘えられたのを最後に、あっけなく意識がずり落ちた。