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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第33話 幻想を追い求めた所で

「……やっぱりそうだよな。」


 ディアルとシャル、そして生徒達の全会一致によって今日1日は大事を取って休むように言いつけられ、これまで出来なかった分の授業は明日から取り返す事で今後の方針が固まった。

 結果、俺はまたこっちにある自室で過ごす事にはなるのだが、まぁただだらだらしているだけと言うのも時間の無駄でしかないので部屋その物が壊れないようにも、家具の類が壊れないようにも簡単な結界を張って少しばかり魔力及び脈力的な実験データを取る事にした。

 これまで通り、それこそルシウス達に過去課せた事のある蝋燭の先にだけ火を灯してみたり、幾つかの水球を生成して空中に浮かせてどれくらい保つかだとか。後はまぁ、幾つまで量産出来るのかとか。

 それに追加して1つ辺りの生成物に、無意識で行使したそれにどれくらいの魔力や脈力が含まれているのかとか。意識して何方かを切り、魔力だけを含んだ生成物。脈力だけを含んだ生成物が存在していて、その割合だとか。制御率はどのくらいなのかの実験を行った。

 その結果にデータとして挙がった物を手帳に記載したり、ノートで計算してみたり、時には1ページ千切って壁に貼り付けて見たりもするのだが……まぁ、本当に1つ辺りの含有魔力や含有脈力は異常な物だった。

 大方、全体の体積が小さいからこそ高濃度なんだろう……と、思いたいのだがこればっかりは高出力、高体積の魔力を放ってみなければ何も分からないし、分かりようもない。しかしてそれだけの魔法をぶっ放そうと思えば国外にある大自然の方まで足を延ばさなければならず、それが今しばらく許容されない事は目に見えている。


 結局、今はこの部屋の中で出来る事の実験が限界なんだよな……。


「……しかも、極め付けはこれなんだよなぁ。」


 陛下達の話でも、俺がこの姿に変化した事。

 俺が脈力をこうも自由気ままに行使する事が可能であり、そして一度は心臓が止まってしまう程に魔暴走(オーバーヒート)が悪化した原因は俺の遺伝子にあると言っていた。

 所詮、この部屋から容易に出る事が出来ないのであればそれも良いだろうと、つい先程とある技術で生成した注射器で俺自身の血液を採取し、同じくとある技術で作成した鑑定装置に突っ込んで……これだ。

 解析結果を見る限り、俺はもう人間ではない。

 まぁでもそれはもう分かり切っていた事なので何も驚きはしないのだが、問題は元々データベースとして突っ込んでおいた生命体情報に該当しない遺伝子が幾つか確認出来る事。後は半燐獣とは言っていた癖に、そもそもとして人間的なDNAが完全に消失し、その代わりと言わんばかりに竜人のDNAが全体DNAの7割近くを占めている事だ。

 ただまぁ7割も占めれば見た目がこうなるのも納得は行くのだが、問題はその他に該当しているとされているDNAもそれなりに稀少種と呼ばれる程に厄介なDNAを含んでおり、これには正直言って頭を抱えざるをえない。

 しかも、面白い事にデータベースにも乗っていないDNAの更なる解析情報から箇条書きされている幾つかの項目、及び習性と思われるASIと予測データを見る限り、若干名心当たりがあるのだから本当に呆れて溜息が出る。


「……まぁ、そうだよなぁ。」

【どうしたの?】

【何かあったのか。】

「あぁ、アルシュ。リュート。丁度良い所に。これなんだけど……多分、さっきお前らが言ってた飂とやらの遺伝子だよな?」

【うん、そうだね。……凄い、5割も含まれてる。】

「5割?」

【うん、5割。】

【ここを見ろ、ご主人様。竜人の遺伝子とくっついてる。】

「……うわ、マジじゃん。……で?これについての情報は幾ら帝国の国家機密並みのデータベースを幾ら引っ繰り返しても見つからないんだけど、魔力と脈力。その双方が同時に動かせてるこれは何なんだ。普通、魔力だけとか、霊力だけとかで全く性質の違う力を合成する事も、融合させる事も出来なかったはずだろ。」

【それが出来る能力、それが輝縫(きほう)なんだよ。】

「輝縫。」

【元は現存する全ての能力よりも上回った、自然その物。又は惑星の持つ力ですらも赤子同然の、超順応力を持つ力。……多くは飂の最終手段として用いられていた特殊な力だ。】

「その飂と言う個体だが、もう生きていないのか?」

【目の前に生きてるでしょ?】 【目の前に生きてるが?】

「……あぁ、成程。成程? 上等だ、持ちうる全てを使って調べ尽くして」


 コンコンコンッ。


 ……折角ボルテージが上がってきたってとこなのに。


 ちらり、と時計にやれば俺も自覚しない間にかなり時間が経っていたらしく、現時刻はもう夕方だ。

 誰かが見れば自分を研究する事にテンションが上がっており、幾ら何でも分からない事を研究する為に自分を削ろうなんて、と思われるかもしれないがそれが科学者だと言う物だと。探究者と言う物だと抗議してしまいたいのだがまぁそれは言われてからで良い。

 流石にここを見られる訳にはいかない為、リビングではなく作業場で行っていて良かったと思いながらも扉を閉める。

 アルシュとリュートに至っては自分達の姿が見えていないのだからと姿も隠さないままにするらしく、彼らが着いてきているのを感じながらも扉を開け……ふと、予想外な訪問者に驚く羽目になる。


「……お前ら、授業は。」

「何言ってるんだ、先生。学校は18時半までだ。」

「ちゃんと授業受けてきたって、先生。でも……その、分からん事多いから教えてほしいな~って。」

「どうせ先生、暇だろ?」

「人を捕まえていきなり “暇だろ?” とは一体どんな教育を受けてきたんだ、お前は。」

「こんな教育だ!」

「あぁ、世も末だ。」

「んなっ!?」

「ふ、ふはははは……!」

「……せ、せん、せん、せ……?」

「ん? どうした、セディルズ。何か気になる事でも?」

「……せ、せんせって……じょ、女性だったの?」

「え、……はっ!? せ、先生、先生ってその声で女性だったのか!?」

「え、うわ、ほんとだ!!? 先生、何で急に髪の毛伸ばしてんの!?」

「俺は元から女だこの野郎。幾ら本職が軍人とはいえ流石に失礼だぞ。」

「せ、せんせってそ、その姿って今最近……な、なんですよね?」

「あぁそうだ、最近だな。」

「……綺麗です、せんせ。」

「いやだから、お前らみたいな子供に言われても困るって前にも言っただろ。健全な少年少女は少年少女同士で恋してろ。」

「魅惑的なせんせが悪いです。」

「……そんなに露出した服は着ていないはずだが。」

「そういう話じゃないです。」

「……いや、全く話に着いていけないんだが。」

「……先生って、ほんとに女性だったんだ。」

「まだ言うか。」

「……大好きです、先生。」

「いやだから」

「せ、先生の生き生きしてる所とか、大人っぽい所とか、いつもかっこよくて、厳しくとも優しさと正しさと誠実さを孕んだ先生が心の底から大好きだ。」


 ……いや、そんな真っ赤な顔で言われても。


 大方、薬草学の授業か何かで妙な薬でもやってしまったのかもしれない。

 と言うか、それを作るつもりはなかったが物によっては匂いだけでそう言った思考へ侵食する事が出来る物もあった為、そういう類の物を吸ってしまった可能性も十二分にある。

 しかし、俺が女性だと言う事実を明かすまでは何の問題もなかったのだからまぁ、理性はしっかりしていると見て良いんだろう。

 ならば一応は大人として、彼らの症状が落ち着くまでは部屋に待機させる方が良いのかもしれない。


 まぁ……元々分からない所を教えてほしいって言ってたし。


「まぁとにかく、軽くお茶菓子の準備でもしてやるからそこに座ってろ。」

「……むぅ。全然本気にしてくれない。」

「や、やっぱり俺らが子供だからかぁ……。」

「……悔しい。」


 分かってるなら宜しい。


 見る限り、惚れ薬の類を盛られてしまった……と、言う訳ではないらしい。

 そもそも論的にも彼らに対して盛ろうとした者達が自分達に好意が向くようにするのならまだしも、俺の方に向くようにするのもおかしな話だ。

 しかも偶然な事に、今の俺は昔の俺と遺伝子学的にも、容姿的にも大きく違う。

 なので仮に抜け毛の類がそいつらの手に渡っていたとしても効力は発揮しないはずであり、した所で惚れ薬特有の甘い匂いの類がしなければおかしい。


 じゃあ単にあいつらが神経質になるような話題を振られていた……とか? まぁ、なら放置で良いか。


「手持ちが紅茶しかないからそれで我慢しろよ。」

「先生、紅茶好きなんですか?」

「……少し。シャルに勧められて以来な。クッキーとよく合うし。」

「クッキーが好きなのか?」

「まぁ、物に因るが。」

【わ、何それ、美味しそう!】

【……美味しそう。】


 そっと皿の上に乗せたクッキーを2枚取り、やたらと欲しがる2匹にやればかなり満足そうだ。

ただ不思議な事に、ルシウス達には彼らの姿がしっかりと見えているらしく、俺に倣ってクッキーを1枚取って差し出してみたりとか。アルシュ達もアルシュ達で、俺が彼らを警戒しないので甘んじて餌付けされているらしい。


 美味そうに食うなぁこいつら……。


「せ、せんせって……じょ、女性なのに特殊部隊に居るんですか?」

「陛下もそうだが? 大体、性別でそうやって区別しようとする所はあまり気持ちの良い思想ではないな。」

「そ、その、差別的な意味ではなく、もし怪我をしてしまったら……と、思うと。」

「ふんっ、これは面白い事を言う。確かに戦場の死亡率は殆ど絶対的な物に近いがな、日常生活においても不注意やちょっとしたミスから死に直結する事もある。ただ単にそれが目的であるかそうじゃないかの違いしかないと言うのに、軍人と一般人の間に違いがあるとは思えんさ。戦場ではいつ銃弾や砲弾の嵐が飛んでくるか分からず、場合によっては超遠距離から魔法で狙撃されてしまうやもしれない。しかし、国内と言う比較的平和な安全地帯であれども通り魔だったり、クーデターだったりに巻き込まれて今も死に続けている者は世界中に山程居る。……結局、死のリスクなんてそんな物さ。戦場だろうと、安全地帯であろうと、結局は知っている者と対処出来る者が生きられる。そこに何の違いもないからこそ、性別の差だってない。」

「……辛くは、ないんですか。」

「何を辛く感じる必要がある? この国の軍隊と言う物は徴兵制ではなく、全てが志願制だ。斯く言う俺も戦争難民ではあるが、保護してくれたのが陛下達だっただけであり、何も軍人になれと命じられた訳でも、それを強いられた訳でもない。……むしろ、陛下達は此方側に住まわせようとしたさ。壁の中の安全な土地へ、戦争によって傷付いてしまったのだから戦争とは遠い場所でと何度も言われたさ。……でも、それじゃあ何の解決にもならない。お前達はフラッシュバックと言う物を知っているか?」

「……過去のトラウマが想起される事。……聞けば、過酷で余裕のない生活よりも、平和で余裕のある生活の方がフラッシュバックは起き易いと聞いた事がある。」

「そう、その通り。だからこそ俺は平和で余裕のある生活とか言う生温い物に興味なんぞ欠片もない。むしろ、それに殺されてしまうのではないかと恐怖しているぐらいだ。……良いか? そもそも、平和と言う物は何らかの犠牲によって成り立っている物だ。それが目に見える物であるのか、目に見えにくい物であるのか、はたまた断固として目に見えない物なのかの3択だけ。それすらも意識せず、のうのうと今ある生活全てが当然の権利だと思っているような痴れ者にはなりたくないだけの話だ。俺に言わせてみればそういう事を平然と言う奴こそ、物事の有難さと言う物が分からない物こそ戦争を経験すれば良いと強く、深く思う。経験した事がなければ学べないと言うのであれば経験させれば良い。関係ないのだからどうでも良いと言うのであればそれが言えないよう、関係を無理にでも持たせてやれば良い。痛みによって学習すると言うのであれば必要な痛みを用意し、それを無理矢理喉に押し込んで嚥下させれば良い。断じて一度は呑み込ませたそれを二度と吐き出させる事など許さず、そのまま消化させてしまえば良い。……半端な者はここで間違えるんだ。呑み込ませたは良いが、消化し終わるまでを見届けないからこそそうして無能が生まれてしまう。たったそれだけの事だ。」

「……だから先生って優しいけど厳しいんですか?」


 優しい……なぁ。


「俺は優しくなんてない。ただ、務めを果たしているだけだ。それが偶然にも真っ直ぐ過ぎて、他の何にも脇目を振らず、それだけの為に言葉を練り上げるからこそ射出された矢のように刺さるだけの話。……俺は元より、誰かを甘やかす為に言葉を並べている訳でも、優しく見せる為に言葉を並べている訳でもない。ただ、俺は無用な嘘を吐かず、ただ俺がやりたいように。俺が正しいと思う道を生きているだけ。そして、お前達がそんな俺に教えを乞うたからこそその範囲内で応えているだけの話だ。……優しさなど、俺自身にも、俺自身以外の誰かにも注いだ事はないし、これからもない。そんな物は所詮、人を腐らせるだけだ。」

「……なら、先生。改めて聞いてほしい事がある。」

「何だ。」

「生徒としてではなく、1人の男として俺と付き合ってくれないか。」


 ……。


「……何だ、酒でも飲んできたか?」

「ち、ちが、そういう訳じゃ」

「こんな奴よりも俺と付き合ってください、先生!! 俺の方が先生に相応しいに決まってます!!」

「んなっ、ッ、お前にやる訳ないだろうが!!」

「ふんっ、先生だってお前みたいな我儘坊主なんか興味もないわ!!」

「我儘なのはお前もだろうが!?」

「せ、せんせ。せんせ、僕と付き合ってください。こんなマジキチと野蛮人よりも僕の方がずっとずぅっと、せんせを幸せに出来ますから。」

「抜け駆けをするな!!」 「抜け駆けすんな!!」


 ……はぁ。


【……? あの子達、何言い争ってるの?】

【ご主人様と恋仲になりたいんだと。】

【え、年齢差凄いよ? それにあの子達の方が先に死んじゃうんじゃない? それ、結局ご主人様が辛い想いしちゃうよね?】

【魂結してるからなぁ、あいつらも。一応ではあるが、寿命に関しては少し伸びた程度か。】

【でも足りないね。】

【あぁ、足りない。】

「おい、お前らまでそっち路線で話を進めるな、ったく……。」

「……そんなに駄目なのか?」

「返事の事を聞いているなら駄目だ。」

「……他の奴らに言ったら絶対OKしてくれるのに。」

「ならそんなやっすい奴らに鞍替えしたらどうだ?」

「ち、違う、そういう事を言いたいんじゃないんだ!!」


 うん、知ってる。でもまぁ出来ればそっちに流れてくれた方が俺としては嬉しいんだがな。


「せ、せんせにとって僕達は……み、魅力なんです、か?」

「……まぁ、お前達が求める答えとして返答するならその通りだな。そもそもとしてお前達はまだ未成年だし、学生が教員に恋愛感情を抱く事は諸君らの精神生育的な観点から非常に好ましくない。確かにお前達は人として良い性格をしてはいる。しかし、だからと言ってそれじゃあなぁ。まぁ確かに? ルシウスは運動も勉強も出来るし、何より懐が広い。だからこそ色々と訳ありらしいトルニアとセディルズを受け入れ、今日まで。そして、今日からも彼らを護るだけの力を持っており、それを支援してくれる保護者の類も居るのだからその行動力に関しては恐れ入る物だ。トルニアもトルニアで、運動寄りの傾向はあれども理系だから頭は良いし、何より人への気遣いが上手い。踏み込み過ぎるよりもちゃんと相手の都合に合わせる傾向もあるので人には好かれ易いだろうな。セディルズもバランス型でさりげない優しさだったり、控えめな甘えもあって保護されたいと言うよりは誰かの庇護欲を駆り立てる事に特化してはいるが、それでも3人共誰かを不快にさせるよりも誰かの心を満たす事も、幸せを満たす事も出来る素晴らしい人材だとは思う。……しかし、だ。以前にルシウスが思った通り、俺は長命だ。幾ら魂結したお前達の寿命で足りない程の時間を生き、そしてこれからもその数倍の時間を生きる。……仮にお前達が未成年じゃなかったとしても、お前達を俺が恋愛対象として見る事はない。」


 それもこれも、お前が言った事だろうが。


「誰かと仲良くすると、誰かを愛する。……この2つは全く違うんだ。友人程度の縁って言うのは直ぐに途切れる事の方が多いがな、愛人としての縁と言うのは切っても切れやしない。だからこそ、仮に俺が恋愛をするとしても同じだけの時間を。又はそれよりも少し少ない程度の相手以外は候補にすら上がらんさ。」

「……なら、寿命を延ばせば良いんだな。」

「はっ、それが出来ればこの世界中に居る全ての生命がそうしているだろうさ。出来もしない夢を語る暇があるなら、さっさと勉学に努めてお前達の将来の夢を果たせ。一時の恋なんて物に惑わされて人生を捨てるぐらいなら俺の授業から外れるんだな。」


 学生の内の恋など、所詮は幻想だと学ぶが良いさ。

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