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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第32話 何かをやらかす前に、学びを

「……別にジーラまで着いてくる必要はないと思うんだが。その、死にかけたとはいえ今の体は作り替えられた体だ、今更」

「僕が行きたいの。……駄目?」

「まぁ……良いけどさ。」


 意識を取り戻し、体調確認や体質確認的な観点から数日の強制休暇を取るよう強制された後、ようやっと外出許可が。一応は今現在、俺が特に手を焼いている職務現場である教育職に戻る許可を頂ける事となった。

 しかし、今回の件で色々と過保護になったらしい陛下の命令によってジーラも正式に教育職として、俺と共に先方へ向かう事が決まった。

 正直言って俺としては殆ど趣味的な気持ちだった……と言うのもまぁまぁ問題ではあるのだが、それはそれとして。

 幾ら何でも俺個人の活動だったそれにジーラを巻き込むのもどうなのかと言う訴えは聞き入れられず、今回のような事が起こるくらいなのであればまだこの方が良いと押し切られてしまったのが結果だ。

 但し、幾ら陛下が望もうともあの学校の最終権限を持っているのは当然ディアルだ。

 法律に違反するような問題を起こした訳でもないディアルに、その疑いがある訳でもないディアルに国家元首としての立場を利用した命令を行う事はそもそもとして出来ない。

 ただそんな俺の懸念も裏腹に、あっさりと陛下の要求は受け入れられた。

 ただまぁ彼方も彼方でかなり此方を心配してくれたらしく、本当に大丈夫なのか。専門の医療機関か、はたまた王城お抱えの専属医療魔法師の診察を受け、その上で診断書を発行した上でどうやらこうやらと喧しいので直接顔を見せに行く事となった。


 ったく、あの阿呆は……。


 だと言うのに、たったそれだけの事にジーラもこうして着いてきてしまっている事態だ。

 これではまた色々と誤解されそうな物なのだが、それでもこいつらが諦めてくれないのだから此方としてはどうする事も出来ない。

 だが、問題は他にもある。

 このやたらと日の光を反射する体は紫外線及び日光と非常に相性が悪いのか、非常に相性が良いのか。その正誤は欠片も分からないが、それでも眩し過ぎて目も開けられないと言う点に関しては何も間違っていない為、人目を変に釘付けにされてしまわない為にも。俺の目を護る為にも。そして気味悪がられてしまわない為にも、陛下に渡されたローブを頭から下まですっぽりと被り、電話越しにディアルから許可を貰ってフードですらもすっぽりと被っているのが現状だ。


「……ふふ、好かれてるねぇ、ティア。」

「……はぁ。あぁ、そのようだ。」


 大方、俺の事はあーだこーだと幾つもの言い訳を並べて隠蔽されてきたんだろう。

 どうにも蚊帳の外に放り出されたままの状況が嫌だったらしい彼らは校長であるディアルに物怖じした様子もなく、諦めも悪く、そして何より彼らと出会った当初から何も変わらない。

 あのはきはきと、一切の迷いを含まぬ真摯な言葉達が音と意味を成してナイフの如く、散弾の如く降り注いでいるらしい。

 始めはジーラもそれを聞き取れなかったようで、もしかすると半燐獣だと言うこの体は大層便利なのかもしれない。


 これなら仕事中にも役立てそうだな、本職の。


 本来であれば扉をノックしなければならないのだが、まぁ元からここに来ると伝えてあるので大丈夫だろう。

 大丈夫だと踏み、一切の迷いも躊躇いもないままに扉を開いてしまえば案の定、あの日以来一度も顔を合わせていない彼らがディアルと、そのディアルの傍でディアルと共に彼らを宥める事に失敗しているシャルが目に留まる。


「ど~も、ただいま。」

「……てぃ、あ? ティア、なのか……?」

「俺とお前が知ってるティアは俺だけだろうな。……はは、ちょっと色々あって姿は変わっちまったけど、中身まで変わった覚えはねぇよ。」

「ティ」

「「先生!!」」「せんせ!!」

「わっ、」

「先生、先生っ、先生……!!」

「もう、もう会えない、会ってくれないのかと思っちゃった、じゃないですか……!!」


 どうやら相当堪えたらしい。

 いつかに見た時と同じように、幼子のように人の懐で泣きじゃくる2人組は感極まってしまっているらしく、今しばらくは。もうしばらくその気持ちが落ち着く事はないだろう。

 仕方がないので頭を撫でていれば今回ばかりはあのルシウスにも効いたようで、直ぐ傍まで来たは良いが、相変わらずトルニアとセディルズに後一歩を譲って。でも耐え切れなかった涙がはらはらと零れ落ちているのが確認出来る。


 ……ったく。


「も、う。……もう、約束を破られるのかと思った。」

「……あぁ、悪い。でもちゃんと帰ってきたぞ。」

「ッ、当たり前だ、この、この馬鹿先生……!!」

「ふはっ、馬鹿とは言いやがったなぁ小僧め。」

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「あぁ、そうだな。……あぁ、そうだ。」

「そ、それで……ティア。その姿は……?」

「はっ、そ、そうぞ! 先生、俺達を置いて一体何処に行ってたんだ! 一度俺達をその気にしておいて、簡単に手放そうとするとは良い覚悟だなぁ!?」

「そ、そうだよ、先生! 俺、俺は、俺はほんまに怖かったのに……!!」

「……もう、もぅ置いていかないで、せん、せんせ。」

「あ〜はいはい。わ〜るかった悪かった、俺が悪うございましたよ〜だ。」

「そ、それで……先生?」

「何だ?」

「そ、その……。……それ、尾に見えるんだが。」

「あぁ、その通りだが。」

「……え?」

「え、あ、ほ、ほんとだ……! 先生、い、いつの間にドラゴンに!?」

「急に元気だなぁ、おい。」

「さ、触って良いですか、せんせ。」

「お前もか。……まぁ、良いけど。」

「わ、めっちゃ硬い……! 本物だ……!」

「……。」

「……せんせ、何で尻尾の先遠ざけるんですか。」

「そりゃ触られたくないからだろ。」

「触らせて。」

「断る。」


 して、問題は今現在不気味な程に大人しいルシウスの方だ。

 ちらりと視線を投げてやれば案の定、本当はかなり凶暴な生き物であるドラゴンについて何も知らない彼ら国民達には憧れの存在に見えるらしく、かなりキラキラとした視線を投げてきているのが確認出来る。

 本来、俺の知っているドラゴンと言うのは非常に獰猛かつ高い知性と恐ろしくデタラメな火力を持つ、巨大な戦闘機のような物だ。

 勿論種族によってその大きさや形、能力に至るまでそれぞれではあるのだが、それでもあの巨体を軽々と旋回してしまったり、場合によっては体を常にねじりながらも突貫してくる彼らは戦場で最も厄介な存在だ。

 無駄にプライドが高いので場合によっては俺達と会話をする事すらも拒む種類が居たり、劣等種と嘲笑うような、随分と良い性格をしている者の方が多い。

 ただまぁ此方からすれば対象を見た目で判断する愚か者が居たり、一目見るだけで魔力保有量なども全部見透かしてくる面倒な奴も居る。


 お前らが軍人になったら多分、そういう奴らとも接点を持つ事になるんだろうな……。


「先生、本当に竜みたいだな……! 先生は竜人か何かになったのか?」

「いや、正式には違うが……まぁ、精霊と人間の狭間だそうだ。ただ単に俺の遺伝子的な関係で見た目が竜人に見えるだけで、な。」

「遺伝子的な関係で見た目が竜人に見えるって。」

「せんせ、家族に竜が居たんですか?」

「……生憎、俺は戦争孤児だからな。恐らくだが陛下ですらその事実は知らんだろうよ。」

「せ、先生、先生が本当に竜なら咆哮(ブレス)も出来たりするのか!?」


 やってみた事なかったな。ちょっと試してみるか。


 思わぬ被害を発生させない為にも、何か面倒事を起こさせない為にも燃え易い物が少ない方面へ向いてふっ、と息を吐いてみる。

 どうにも何か特定の呪文なども必要ないらしいそれは紅色の雷をばちばちと静電気のように霧散させながら出てきた蒼い炎が一度だけ産声を挙げては消える。

 色の特徴から見る限り、どうやら魔力と脈力の双方を行使して……と言うより未だに俺がその双方の制御方法を身に着けられていない影響か、その両方が含まれた吐息が出るようになっているらしい。しかして現段階ではそれがデフォルトなのか、それとも俺が未熟故の物なのかは検討が就かない。


 要研究だな、これは……。万が一にこれが原因で暴走されても


「「「「「おぉ……。」」」」」

「……。……も、もう噴かんからな。」

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