第31話 人と燐獣の相の子
慣れないながらも今しばらく彼らからの世話を甘んじ、聞けば俺が知らぬ間に1週間の昏睡状態から何とか帰還したらしい事を聞いた。
後は彼らの反応から察するに、どうやら皆にアルシュとリュートの姿は見えていない。
俺自身が人ではなく半燐獣と言う、普段俺達が輪廻零界から呼び出している彼らは元々燐獣と言う存在であり、それに対して此方側の存在がどうこうした結果に召喚獣、契約獣と言った風に呼び名が変わる。
それもあり、そもそもとして俺の姿が大きく変わっているのだ。
腰の辺りにまで届いていた黒髪は、今となっては踝の辺りにまで届く勢いの夜空を閉じ込めたような、夜空色の長髪に。酸化した血液のようだった紅色の瞳は、この世の物とは思えない程に綺麗な金色の瞳に。
一応見た目は人間だったと言うのに、今は頭の上に夜空色を基調とし、所々金色のラメのような物が散りばめられた竜系の角に、同じ模様の鱗を纏った太く力強い尾まで生えている。
半燐獣って、こうなるのか。
「……ティア?」
「また……ティアにしか見えない、お友達?」
「いや……綺麗な川みたいなのが見えて。蒼いのと、紅色のと2種類見えるんだ。これは……?」
「ま、魔流と脈流が見えるのか。」
「ま、まりゅう? みゃ、みゃくりゅう……?」
「精霊や燐獣には見えると言われ、此方側の存在には見えないとされている魔力の流れと脈流の流れの事だ。俺も本物を見た事はないが……まさか、文献上の伝説ではなく本当に実在したんだな。」
殆ど伝説上の存在らしい、目の前に存在する蒼く薄い霧のような流れ。紅色の薄い霧のような流れはまるで川のように、自由気ままに流れたまま此方の事を意に介していない。
ただ魔流と思われる蒼く薄い霧のような流れは魔力を保有している人達の体をそれぞれ通っては抜けていく為、これが “無意識に大気から魔力を回収する” 原理なんだろう。
ただそれに触れようと手を伸ばした所で気付いたのだが、この体はかなり肌が白いらしい。元々あまり好ましくなかった静脈や動脈がしっかりと肌越しに見えていたのに、全く見えなくなるとそれはそれでかなり不気味に映る。
結局はない物強請り、か。
「肌……真っ白。」
【血がないからだよ。】
「え、その物が?」
【うん、そうだよ。僕達は普段生物ではなく霊体に分類されるように、そもそもとして僕達に生命活動と言う物は存在しないんだ、構造的に。】
【ご主人様の体は人間の良い所と俺達燐獣の良い所をそれぞれ取ったような体だ。そもそもとして我々燐獣は物理的な食事を必要とせず、海中を泳ぐ魚のように水流の中に存在するプラクトンやバクテリアなどを食べ続けているように、魔力や龍脈内に存在する元素を摂取する。……最早、食べる物が生物ですらないんだ。】
「……成程。だから生きてられるのか。」
色々と研究してみるのも楽しそうだな。