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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
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第28話 あの時の約束を破る訳にはいかないから

 ここの所はずっと落ち着いてたはずなのに……!


「ティアは!?」

「ここです、陛下。……ルーカス夫妻から同意の上で帰還させました。」

「……それで、容態は。」

「魔力の暴走によって大きく体調を崩しており、今しばらくは意識が戻らないそうです。……最悪の場合も考えなければならないと。」

「それは起きてから考えるわ。」


 普段は元々寝つきの悪いティアの為にも私の部屋で休ませていた訳だが、一応ティア個人用の部屋も存在する。

 今回は使用率も非常に低く、部屋と言うよりは倉庫ですらよりも生活感もなく、誰かが住んでいる気配もない部屋のベッドでぐったりと倒れてしまっている。

 酷い過呼吸を起こしてしまっている関係から酸素マスクを着けており、発熱が酷いので氷嚢も額に就けているが、それでも今の所それがティアを救ってくれているとは思えない。

 聞いている限りでは魔暴走(オーバードロップ)と言う病気の1つであり、これの前段階として逆流性魔暴走(オーバードロップ)と言う物があり、本来であれば血液のように決まった流れで体内を循環するはずの物が突如として逆走してしまう事があり、それが更に悪化するとこの魔暴走(オーバードロップ)へと昇華する。

 それにより、体に多大な負荷の掛かったティアは過呼吸を起こしたり、40度近くの発熱を起こしたり、逆流どころか治ったり逆走したり、はたまた酷い時には強制的に流れが完全に停止する事だってある所為で、その表情が安らぐ事も。冷汗が留まる事も知らない。

 種族的な観点から体温が氷点下レベルにまで落ちる事のあるホワイズがその手を握っていても安定化は望めないらしく、あくまでティアの体を爆発的に温め続ける体温を平均に戻すのが限界のようだ。


 ティアは元々魔力が高いのに……!


 これでもまだ初期症状なのだからこの程度で済んでいるのだが、これが更に酷くなると自身の体温が高過ぎるばっかりに熱中症や脱水症状を引き起こして死に至ったり。魔力が暴走し過ぎて吐血し、心臓発作や出血多量で死に至る事もある。

 少しでも早く、ティアの体力が続く内に緩和してあげなければ本当に命を奪われてしまいかねない。

 そんなティアの手を握ってあげたくても、仮にも人間である私が触れてしまっては更にティアの体温を上げてしまいかねない。

 だからこそ、今は種族的に体温が低いと正常であるホワイズしか触れる事が出来ないのだが、それでもティアを心配する気持ちに偽りもなければ差も存在しない。


 ティア……。


 ただ、そんな強過ぎる思いが逆にティアへ負荷を掛けたのかもしれない。

 ティアが傍に居る事に反応し、私の意思とは関係なく毛先が触手へと変化したそれすらもティアに触れる事を躊躇っている現在、ようやっとここへ帰ってきて以来1度も目が覚めてくれなかったその瞼が持ち上がる。


「へい、か……?」

「ティア……!」

「ティア、起きた!? ティア……!」

「……がっ、こう。……あいつら、の……様子を。」

「今は自分の心配をしろ、ティア。別に攻められてる訳でもねぇし、あのガキ共はちゃんとジーラが見てる。」

「ジーラ、が……?」

「……うん、僕が見てるよ、ティア。だからティア、ちょっとした休暇だと思ってちゃんと休むんだ、良いね? ティアは無理し過ぎだよ、ティア。ちゃんと僕が責任を以て見てるから。」

「少しでも良くなるまで出す気はないからな、それまでちゃんとここで休んでるんだ、ティア。……君は無理が過ぎるんだ。」

「……ん。」


 やはり、体力的に限界だったんだろう。

 少しの間に目を開けてくれたティアは、また目を閉じてしまう。

 苦し気な様子はなくとも全身に力が入っていないのは確かであり、色々と限界なのも確かなんだろう。


 ……こんな時、もっと何かをしてあげられれば良いのに。


 このままだとティアは魔力のみならず、魔力よりもずっとずっと強力で。今もまだ研究段階であるもう1つの力を暴走させてしまう可能性がかなり高い。

 そうなればもう、私達に出来る事は何1つない。

 この世界にはかつて、飂と言う生き物が居た。

 今では絶滅したと考えられているそれらだが、その血や遺伝子を持っているティアにとっては本来、魔力なんて可愛い物ではなく脈力と言った物を使う方が楽なのだ。

 だからこそ、ティアは魔力のありとあらゆるコントロールに長けている。



 脈力、それは龍脈の力を利用した力。



 龍脈と言う物は世界中の地中深くに太古から存在する、自然その物の魔力。又は惑星と言う名の生命特有の魔力のような物。

 私達からすれば致死量が高過ぎる程の猛毒なのだが、そんな生き物の遺伝子を持つティアにとっては逆に薬となる。

 そもそも、龍脈と言うのは元より自然に存在する言わば惑星が保有するマグマの次に血管のような役割をしている物。

 これがあるからこそ人は魔法を行使する事が出来、これがかなり薄まった物である魔力を体内に循環させる事が出来る。

 惑星であれば必ず存在するそれは地下深くに太古から存在しており、本来生命体が使うよりも自然や惑星単位で使う事が前提とされている膨大な量の能力である為、人の身やそれに準ずる小型、中型、大型知的生命体程度では満足に扱えるはずのない代物。

 だと言うのに、ティアはそれを生まれつきその身に宿し、行使する事が出来ている。他に共感を得る事も出来ないまま、ただ孤独に沈んでしまう運命に囚われてしまっている。

 それによって更に症状が複雑化し、とうとう魔暴走(オーバードロップ)だけでなく脈暴走までも引き起こして非常に危険な状態へなりつつある。

 声を出す程の元気もなく、目を開けられないままに、今にも死にそうなままに苦しめてしまっている。



 あの時、絶対に救ってあげるって約束したのに。



「……煉掟。煉掟、そこに居るんでしょう?貴方なら私達とは違ってこの子を救えるんじゃないの。でも、本人の同意もなければ私達からの了承を得られるのかも分からないから動くに動けない。……違う?」

【……相変わらずよく回る舌だ。】

「ねぇ、お願い。そのまま姿を見せなくても良い、これまで通り私達に優しくしなくても良い。……ただ、この子を護って、救ってほしいの。」

【……確かに手はある。しかし成功する確率は非常に低く、成功したとしてもティアが気に入っているあの小僧共と同じく、とうとうティアも人間とは呼べない程の人間ではなく、完全に人間と言う枠から外れる。……そして、その果てにどんな姿をし、どんな体質をし、どんな運命を辿ろうともお前はあの時の契約を守ると断言出来るか。】

「えぇ、断言出来るわ。……必要とあらば、この国よりもこの子を優先する。」

【なら、この子は今しばらく借りていく。】


 シーツの上に存在する影や掛け布団の下に潜む影がより一層黒を強くし、水面のように一度震えたかと思うとティアだけをその中へと呑み込んでいく。

 ゆったりと沼へ沈むかのように、じわじわと侵食されていくかのようにその姿が溶けていく。


「てぃ」

「そこで見てなさい。……煉掟、一応聞かせて。ティアを何処に連れていくつもり?」

【輪廻零界へ。……ここでは魔力濃度も薄く、ティア以外に使う者が居ないのもあって龍脈の息も弱い。ただ向こうなら老骨ながらも未だに龍脈にアクセスし、その脈力を行使する我々燐獣も存在する。そこで唯一の手段であり、金輪際二度と同じような事が起きない体である半燐獣へと昇華させ、間接的ではなく直接龍脈の力を可能な限りティアに流し込み、結合して安定化を試みる。……仲間への説明はお前に任せる。上手くやれ。】

「……えぇ、分かったわ。」

【願わくば、どうか無事に成功する事を星々に願っていてくれ。】


 ティアの姿は、見えなくなった。

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