第20話 偽物の世界はリスクなく
「……落ち着いたか?」
「ぐすっ、ごめんなさい、ごめんなさい先生。」
「ごめん……なさ、い。」
「2人して何をそう泣いて謝っているんだ。泣く事の何が悪い。人間の泣くと言う行為は心の調律だ。好きに泣いて、好きに発散しろ。背負い続けると壊れてしまうぞ。」
「「っ、」」
「な、何でまた泣きそうになってるんだお前らは……。もしや、俺が怖いのか? それなら今直ぐに」
「行かんとって!!」 「行かないで!!」
「そ、そうか? なら、傍に居るが……。」
……あぁくそ、本当にどうしろってんだ。
「っ、ま、また……。せんせ、またやってる。」
「え?」
「また、頭掻いてる。」
「……ぁあ、これか。困るとよくやるんだ。昔からの、幼少期からの癖でな。」
「困ってる、の?」
「まぁ……何がお前達にとって良い行動で何がお前達にとって悪い行動なのか俺には分からんからな。どうすれば見えない地雷を踏まなくて良いのかと言う意味では困っている。」
「ずっ、泣いてる俺ら……嫌じゃないんですか?」
「何故だ? さっきも言ったが泣くのは生理現象であり、人間の自衛行動の1つだ。嫌だ、怖い、辛い、苦しい。そう言った事を行動で叫んでいる。言葉でも、理性でもなく、心が、深層心理がそう叫んでいる結果だ。安心させてやりたいとは思うが嫌だとは思わない。それに、何よりお前達はまだ多感なお年頃だ。大人になったらそういう機会も薄れるんだ、今のうちに沢山泣いて沢山笑え。」
「先生。先生は、本当に俺達の事を何も知らないのか。」
「ん? あぁ……。なんだ、知っておいた方が良いのか? 知っておいてほしいならディアルに頼んで色々聞くが……。」
「……良い。聞かないでくれ。先生は、先生はずっと俺達の先生で居てくれ。」
「な、何なんだいった」
コンコンコンッ。
『お坊ちゃま方。お茶菓子をお持ちしました、申し訳ありませんが扉を開けて頂けませんか?』
「ま、待て! 今開けるからもう少し待て!」
何も焦る必要なんてないと思うんだがな。
近頃の思春期の子供と言うのはこういう物なのだろうか。
どうにも泣いている所を俺には見せられても執事には見せられないようで、バタバタと何処から引っ張り出してきたのかも分からないタオルでトルニアとセディルズが涙を拭って。
ルシウスはルシウスでテーブルの上に拡げていた救急箱の中身を箱に押し込んでは半ば投げるように、滑らせるように戻してはトルニアとセディルズの準備が終わり。
先程使ったタオルをまた何処かに隠してまでしてからようやっとルシウスが扉を開ける。
「改めましていらっしゃいませ、グレイブ様。お坊ちゃま達から話は聞いております。ご主人様達に変わり、この屋敷を代表してお礼申し上げます。」
「気にしないでください。私は自身のやるべき事をこなしているだけです、何も感謝されるような事はしていませんよ。」
「何を仰いますか。お坊ちゃま方はグレイブ様が担当教師となるまで毎日のように授業がつまらない、楽しくない、面倒だと仰られておりましたが今は毎日が楽しそうです。きっと、貴方様のお陰でしょう?」
「……ふふ、本当にその通りであれば教師の誉れですね。」
「良し! じゃあ先生、ゲームしましょゲーム!」
「ゲーム? 勉強じゃなかったのか?」
「折角良い玩具があるのに遊ばないのもったいないじゃん!」
おい、良い玩具って俺の事か。
「では、私はこの辺りで失礼致します。何かございましたらお呼びくださいませ。」
「お気遣い痛み入ります。」
「父上と母上には俺から話す、決してお前の方から話さないでくれ。」
「畏まりました。……では。」
「……何だ、お前家ではいつもああなのか。」
「む、よ、良くなかったか……?」
「貴族だな~とは思ったが、それでもまぁそれなりの信頼関係があってちょっと安心した所だ。」
「……!」
あぁあぁこの程度で喜んじゃって、随分とガキらしい奴だ。
「まぁそれは良いとして。ゲームって何するんだ?」
「これ。」
「ど、ドラゴンズハンドラー……? ゲームってスポーツの試合とかのゲームじゃないのか?」
「え、デジタルゲームのゲームですけど。先生、ゲームした事ないんですか?」
「……こっちのゲームはないな。電子機器の類は調べたりハッキングや通信の類でしか使わないからな……。」
「先生でも知らない事があるんだな!」
「お前は俺を全知全能の神とでもご認識してるのか?」
「あぁ~……。」
「……せんせ、また死んだ。」
「くははは! 先生、また死んだぞ!」
「……くそ、もう1回だ。」
「先生って負けず嫌いなんだ……。」
「トルカと一緒だな!」
「おう、聴こえたぞルシェル。今からぼっこぼこにしてやるからな。」
「ぎゃぁ~!!」
フレンドリーファイアも出来るのか。便乗しよう。
「ちょ、先生!? 先生、何でそんなに強いのにあんなに死んでたんだ!?」
防御捨てて攻撃にガンぶったから。