表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第一章:一年生第一学期 魔法の深淵と神髄に触れる資格は
21/192

第18話 開く扉は人それぞれ

「せぇ~んせ、早く選んでぇ!」

「早く速く!」

「あーはいはい、選びます選びますよ。選べば良いんでしょ~。」


 まだこいつらとの日々は始まったばかりではあるのだが、後どれくらいここまで懐かれると言うか、面倒事に巻き込まれるのだろうか。

 まぁそれもこれも言った所で仕方ない話ではあるのだが、それでも今しばらく教師と生徒の関係を築き続けると言う前提と目的の元では良いのかもしれないが。

 ここで適当に出来れば良いのだが、生憎とそうは問屋が卸さない。

 そもそも俺は雑にやる事は多くとも適当にやる事は嫌いなのだ、幾ら目に見える物が適当でも中身はきっちりとやりたい性格だし、何より見えない所が綺麗な方がしっかりと自分の努力した所が残っている上に、何より見る目のない奴を簡単に炙り出せるのだからかなり重宝しているぐらいだ。

 目に見える所ばかりを気にする奴って大抵中身が出来てないし、何より中身が綺麗なら自然と側も綺麗になるんだから楽してねぇでしっかりと努力する方が良いに決まってんだろうが。

 ただここの書店は非常に広い関係もあって何処にどの本があるのかを把握するまでに時間がかかりそうだ。

 一応はたかが書店だと言うのに、まるで本物の図書館のように大きくでかでかと立てられている案内板を見る限り、意外にも現代本以外にも古文書や古い文献の類も存在しているらしい。


 へぇ……結構色々置いてんだな。


「……先生?」

「ん、何だトルニア。」

「……先生、さっきの顔してください。」

「さっきの顔?」

「はい。さっきの、考え事してる時の顔。」

「……。」


 ほれ、してやったぞ。……って、何で3人して見入ってるんだよ。


「……何だよ。」

「「「かっこいいなって。」」」

「だからお前らに褒められたって嬉しくないんだって。」


 何処かおかしな小僧共はともかくとして、ある程度の位置は把握したので目的の場所を目指してカルガモの如く後ろから着いてくる気配がする。

 まぁその相手は分かり切っているのだが、それでもこんな日常内でも軍人らしさが出てしまう自分には呆れてしまう。



 面倒なら、振り払っちまえば良い。面倒なら嫌われてしまえば良い。



 なんて風にホワイズには言われてしまったが、それをする程。

 そこまでする必要性があるとは思えないと、何故か何の根拠もなしに。説得力の欠片もないと言うのにそれが嫌だと叫ぶ自分が居る。


 俺もぬるくなったもんだなぁ……。


 魔法に関する本棚が並ぶ場所は店の大きさに比例するように数が多く、なかなかに手間取りはしたがそのエリアから2冊。

 今度は歴史に関する本棚が並ぶエリアから1冊を拝借してレジへと向かう。

 本来であれば直ぐ傍に居るこいつらに贈る為の物である為、声を掛けるのが筋ではあるのだろうが、こいつらは俺に選んでほしいと言った。

 なら声を掛けても先生が良いならとかって言うのが落ちだろう。


「ん。」

「あ、開けて良いのか!?」

「駄目なら渡さんわ。」

「お、俺も開ける!」

「……俺も。」


 誕生日に欲しい物貰ったみたいな顔しやがって。


 それでも3人揃って育ちが良い事に関しては一切のイメージ違いはないようで、ビニール袋の中に入った本の、立ち読み防止用のビニールを綺麗に剥がしてはしっかりと片した後に、ようやっと題名へと目をやっている。


「 “魔導基礎入門” ……? 先生、魔導って魔法じゃないのか?」

「魔力を使う、と言う点に関しては一緒だが魔法と魔導はまた別の物だ。世界には魔術、魔法、魔導の3種類がある。」

「魔術と魔法は分かる。魔術は魔法陣を使って行う、儀式的な物。魔法は頭の中で魔法式を構築する、科学式みたいに構造さえ分かっていれば使える力。」

「宜しい。よく勉強してる。」

「……んふふ。」

「魔導とは、その何方とも違う物で習得者の絶対数がかなり少ない。土地によっては 〈神の奇跡〉 と呼ばれる事もあるくらいだ。」

「あ、聞いた事ある。何か、たった1人で戦場を灰にする程の魔導が過去に使われた事があるって。」


 ついこの前もぶっ放した所だったなぁ、そういえば。


「他にも、戦場全ての状況の視認や敵陣地の盗聴とかも出来る魔導も使われたって。」


 陛下の事か。……へぇ、あんな使われてるって知ってる人じゃないと分からないような魔導も庶民の間には知られてるのか。


「セディルズも流石だな。やっぱりその本で良かった。」

「は、早く開ける。俺の、俺の為の本。」


 そんなに興奮しなくても誰も盗らねぇし本も逃げねぇよ。


「お、俺の本は……? “支援魔法入門”?」

「お前に偽名を名乗るよう言った時に言っただろう。“トルニアと言う名はお前には似合わんがお前に惹かれる者達を見ればそうとも言えんか”、と。」

「そういえば、その話詳しく聞きたかったんです。先生、どういう事なんですか?」

「明日の召喚魔法を行使すれば分かる事だ。楽しみは後に取っておけ。」

「じゃあ、この本の説明お願いします。」

「自覚があるのかないのかは知らんが、お前は信仰系魔法や神聖魔法との相性が異常な程に良い。むしろ、それを使う為に生まれてきたんじゃないかと思うくらいにはな。お前には魔法師の中でも珍しい、前衛にも後衛にも自由自在に転じる事の出来る、オールマイティな魔力の性質をしている。なら、攻撃魔法だけでなくそう言った支援魔法を覚えるのも良いだろうと思ってな。……今の所、ルシウスとセディルズはそこまで支援魔法との相性が良くない。これから成長して使えるようになるかもしれんがしばらくはその授業をする予定もない。まぁ、答えられる範囲は答えてやるからまずは自分で勉強してみろ。」

「はい先生!」

「お、俺は…… “魔法史 忘れ去られてしまった古代からの呼び声”?」

「お前は3人の中で最も知識量が多い。それも、特に古い文献にでも載っていそうなデータが多いからな。過去は過去でもあまりメジャーじゃないだけで現代でも運用、又は応用可能な魔法って言うのは沢山眠ってる。……まだまだ短い付き合いだが、お前はやる前から諦めるのは耐えられないタイプだろう。」

「はい。やる前から諦めるなんて、ただの畜生です。」

「……ならお前の得意分野で、お前の独壇場で、お前の戦場で相手を出し抜く術を身に着けろ。過去の魔法の1つで、“魔力に込められた知識を見る魔法” なんてのもあった。まぁ、あれは魔導に近いがな。“魔法から魔導に昇華した魔法”。お前なら興味あるだろう?」

「はい。今、先生に色々質問攻めしたくてうずうずしてます。」

「再三お前らに言っているが、お前達は生徒で俺は教師だ。教師は必要最低水準の授業をする。ある程度の合格ラインを定めてな。お前達は俺から知識を、技術を引き摺りだし、俺が “ついうっかり” 教えてしまいたいと思うような興味を持たせてみろ。油断させて、その喉仏に噛み付いてそのまま噛み切ってみろ。お前達は可能性の塊だ。試す前から諦めるなど、失望させるような真似はしてくれるな。戦争とはどちらかが折れるまで続く。戦争とはどちらかが勝つまで、どちらかが相手を赦すまで続く。俺が終わらせるのは簡単だ。しかし、終わらさせないのは何億倍も難しい。……だが、幾ら生徒と言えどお前達は3人だ。3人居れば文殊の知恵とはよく言うが、数の暴力で勝てるとは思うなよ。しかも俺は、敵であるお前らに塩を送る程の余裕な態度をかましている上に教鞭まで執って根掘り葉掘り教えてやっている上に、更にヒントまで与える始末。数の暴力に、多数のハンデ。これだけしてもお前達は俺に勝つ事が出来ない。其れは何故か。其れはどうしてか。どうすれば其れを打破出来るのか。どうすれば俺を屈服させられるのか。……くく。思考しろ、学習しろ。思考を止めるな、努力を止めるな。目の前の可能性にみっともなく噛り付いて己の物にしろ。俺はこの戦争をなかなかに楽しんでいる。優越感に浸っている。滑稽だと腹の中で嗤っている。さぁ、思考しろ。この戦争を終わらせない為に、お前達が持つ全てを酷使して俺を倒してみろ。」


 ……?


 先程まであんなにも本に対してかなり興奮していたというのに、渡された本をしっかりと両手で持ってはいるがその意識はそれよりも此方に向いているようにも思える。

 爛々(らんらん)とした目で、良い意味での衝撃を受けたような目で。


「……何だ。」

「先生、先生!! ほんっとうに大好きだからな、先生!!」

「な、何だいきなり。」

「いやぁ、流石俺らの先生。すっごく大好きです。」

「……かっこいい。」

「あーはいはい、そりゃど~も。」

「ちゃんと本気なんだからな!?」

「へ~いへい。」

「む、むむむ……。あ、そうだ! 先生、先生今日は1日暇か?」

「コロコロ話題が変わるなお前は。まぁ、明日のお前達の授業をするまでは暇だよ。」

「ならどうだ? 俺達の家に来ないか?」

「ぇ”。」

「先生とお茶したいんだ!」

「その歳で担任捕まえてお茶したいって何処のマセガキだお前は。友達とか言うレベルの年齢差じゃないぞ。」

「友達に年齢の壁なんてな~いぞ♪」

「……。」

「まぁ良いじゃないですか、先生。こんな人多い所じゃなくて座って何も気にせずだらだら喋れる場所の方が良いですって。」

「俺も、同意。」

「そんな事言って、本読みながら解説してほしいだけだろ。」

「てへっ。」


 忘れてはならない、俺は軍人だ。

 幾らどれだけ温厚な親でも軍人が家に来れば身構えるだろうし、何より教師が何のアポもなしに、いきなり生徒の家に押し掛けると言うのもどういう話だとも思う。

 そして何より俺は正規の教師でもなく、一応は陛下のご許可を頂けている関係から学園の部屋に住んでいる訳だが、だからと言って常勤教師と言う訳ではない。

 そんな素性の怪しい者を易々と入れるとは思えない。


 ……まぁでも、人の家庭なんてそれぞれだからな。そういう家もある、って事で軽く流した方が良いのか……?


 それに、出来れば俺ももうそろそろ一度休みたいとは思っていた頃合いではある。

 こいつらが居る関係から何処かを借りてやらなければならないかもしれんが、まぁ別にこれだけ治っていればもう良いかと若干の諦めが就いていたりはする物の、足が疲れたと言う点に関しては何も間違ってはいない。


「……ここ、他に何がある。」

「ここですか? 色々ありますよ、さっき居た本屋とか、地下にデパートとか。スーパーもありますし。」

「うん。筆記用具とかも売ってる。服とか、宝石とかアクセサリーとか?」

「そんな物どうするんだ?」

「出来れば薬局にも行きたいんだが。」

「ありますよ、案内しましょうか?」」

「ああ、頼む。」

「……先生、もしかして怪我してるのか?」

「ん、ぁあ。教師になる前の戦争で右足をな。まぁ、治りかけだからそんなに」

「「「良くない!!」」」


 えっ、


「っ、すまない先生。早く、早く俺達の家に行こう! 俺の家に応急処置用の道具くらい余る程ある!」

「い、いやいや。俺なんかに」

「先生には普段お世話になってるからこれぐらい良いんです! つべこべ言わずに行きますよ!! 学校より家の方が近いんですから!!」

「あ”ー分かった、分かったから! せめて手土産だけでも買わせろ! そしたら大人しく着いていってやるから!」

「約束だからな!!」 「「約束ですからね!!」」


 何で子供ってのはこうも直ぐに話を大きくしたがるんだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ