第56話 惜しむらくは
暗く、深い場所に居た。周りには何もなく、ただ深海のように奥にも前にも横にも上にも下にも暗く、底も果てない場所。そこで自分の足を懐に折り畳み、我が身を抱いてる。
里は……どうなった。煌星の夜想曲は、アルドレディア帝国は。あの時、私を止めて抱えてくれたあの人は。
魔力は霧散したから、奥に居た人達は大丈夫であるはずだ。問題は私と零距離に居た、あの人。
どうやって魔力を霧散させたのかも、あの至近距離に一瞬で飛んできたのも、強い睡魔を引き出した方法も分からない。
……そんな、事よりも。
これから……私はどうなるんだろうか。あの場所に投げ捨てられて、ここは死後の世界だったりするんだろうか。……そしてまた、苦しむ羽目になるんだろうか。
分からない。でも、このままでも良い気がする。このまま記憶も存在も薄れて、やがて自分の事すらも認識出来なくなって真っ新になる。そしてまた、魂が使い回しにされるような最期も良いのかもしれない。元より、私は巫女という使い回しの役目を担うだけの忌み子だったのだから。
でも……最期に、あの温もりだけはもっと触れていたかった。