第53話 古く錆びた刃と相対する為に
「グレイブ・ブラッディル=ルティア。御身の前に。」
「ごめんね、ティア。折角……楽しんでたのに。」
「その楽しみを壊してしまわない為の、絶やしてしまわない為の我々です。……どうか、躊躇う事のないように。」
「……うん、ありがとう。じゃあ早速だけど、皆にはこれを見てほしくて。」
予想通り、俺が最後にここへ来たらしい。……大方、出来れば俺なしでこのまま話を続けるつもりが、何らかの形で俺の援助が必要になったか。俺が出た方が良いと判断されたからこそ、会議の途中で呼び出されたんだろう。
いつものようにプロジェクタの明かり以外は存在しない、暗い王城の会議室。この場に居なければならない「七漣星」の内、最後の1人として席へ座るや否や映し出されたのはいつも通りの凄惨な光景だ。
ほぼ毎年1回、何処かしらのタイミングで。特に法則性もなく突然行われる隣国アルドレディア帝国との大規模戦争。何の信憑性もない話だが、彼の国が年に1度しかこの戦争を起こさないのは恐らくそれぐらい、この戦争でほぼほぼの主力を吐き出したり。何らかの実験をしているからだろうと言われるぐらいに……この戦争は苛烈極まりない。
今だって、陛下達の様子を見るにまだ開戦してから1週間も経っていないのだろうがもう既に映像越しに見える荒野は血と、死体と、そして有象無象の大小様々なクレーターや何らかの魔法攻撃で抉れて、溢れている。
今年は随分とペースが速いな。
「ここ、ネビュレイラハウロ帝国と隣国アルドレディア帝国の間にあるゲルダ荒野。今年も毎年のように、ゲリラ戦争が始まったんだけど……今回は見ての通り様子はおかしい。例年通りであればまだお互いに腹の探り合いを行い、お互いの出方を確認しつつも段々と火力を上げていくのに対し、今回はどうにも本気で戦争をしに来てる。お陰で、油断してた訳じゃないけど歴戦の帝国軍達がもう既に1師団の被害を記録した。……そろそろあなた達“七漣星”の出陣を行わざるを得ない状況にある。」
「それで、陛下。“七漣星”が出なければならん事は分かったが、わざわざティアまで呼び出したのには理由があるんじゃろうな。」
「そうね~。貴方がそう言うから私も止めなかったけど、私達のティアちゃんの楽しい時間を奪わなければならない必要が本当にあったのかしら。」
「あんたらなぁ……。必要だから陛下はそうしたんだ、そこに疑問を持つ必要なんて何処にある。」
「……私も出来れば2人のようにティアちゃんを呼ばずに終わらせたかったんだけど、実はアルドレディア帝国から連絡が来てね。」
「連絡?」
「―――“グレイブ・ブラッディル=ルティアの旧友を連れてきた。奴を出せ”ってね。」
「旧友……?」
随分とおかしな話だ。俺は煌星の夜想曲唯一の生き残り。旧友なんて物が存在している訳がない。
何より、俺は煌星の夜想曲でもそれなりに冷遇されていた、あの当時、俺に味方なんて居なかったし求めてもいなかった。その話は陛下達にもしたし、仮に俺に旧友が居るとして何で煌星の夜想曲が滅んでからかなりの時間が経った今更になってそんな奴が沸いてきたのか不気味でしかない。
「それだけの情報であれば私も“何を馬鹿な事を”で済ましたんだけど……あの子が、ティアと分離させたあの子がずっと騒がしくてね。あまりにも騒がしい物だから馬鹿にも出来なくて。」
「……ジルディル師匠、ミティアラ師匠。」
「……気は進まんがティアまで望むのであれば止めようにも止められんな。」
「そうね~……。因りにも因って私達夫婦をいの一番に頼る辺り、貴方も何らかの確信があるのね。」
「確信というより、本当にまだ煌星の夜想曲の生き残りが居たのであれば鹵獲か捕獲して色々と情報を聞き出す必要がある。……安心してくれ、陛下。俺の中に煌星の夜想曲に対する愛情や仲間意識なんて物は最初からない。捕縛及び鹵獲が難しいと判断した場合、死体にして持ち帰る。」
「疑ってないわ。……じゃあティアちゃんには悪いけど、本格的な準備を始めてもらって良い? 仮にも煌星の夜想曲、あっちも強力な燐獣を従えている可能性も。何らかの異常反応を見せる可能性もある。時間は稼ぐからしっかりと準備するように。」
「はい、陛下。」