第47話 そこでなら思いっきりやっても許されるだろうから
「魔嶺闘演武?」
「えぇ。今年から始める予定なんだけど……是非、ティアにも参加してほしくて。これは七漣星は勿論の事、皆の私兵部隊や後の帝国軍を帝国民達への良いプロパガンダになる。あ、ティアが望むなら選手として出てくれても構わないわよ? 私は何方でも。……ティアが楽しいのであれば、それで十分だから。」
「……ですが、陛下のメンツという物もあるでしょう。」
「七漣星の誰かが出れば良いの。……何も、ティアが嫌々出る必要なんてないのよ? それに、今回はジルディルお爺様もミティアラお姉様も居るから候補は幾らでも居るからね。」
あ~……。
俺の実家たる王城にて。
少し前までは毎日のように過ごしていたこの王城も、今となっては陛下からのお呼び出しか。あまり必要性の分からない七漣星会議や国際会議等がなければ足を運ぶ事はない。まぁ、その時に限って陛下からのお誘いがあるのだが。
とはいえ、書面上俺と陛下は養母と養子。流石に、血統に重きを持つ我が国の大臣共が俺の皇族入りを認める訳もなく、同時に俺自身も俺の皇族入りを断固として拒否した。それ故、本来であればこうして陛下と共に風呂へ入る事も容認される事ではない。
それを、法律や伝統。何よりこれまでの歴史を全て捻じ曲げた陛下の熱量は……うん。最早血が騒いだとしか言いようがないのだろう。
現に、本来であれば独り身であるはずのジルディルも。ミティアラも本来であれば結婚する事など出来なかったはずだというのに、ミティアラが皇族という肩書を返上する事で我を通したのだからネビュレイラハウロ帝国皇族の血は余程強情と見える。
「ティア、髪洗うから気を付けてね。」
「はい、陛下。」
それにしても本当に、この国に来てからあまりにも多くの事が変わり過ぎた。
俺がこの国に来て直ぐの頃は陛下もギルガ達も皆殺戮対象だったというのに、今の俺にとっては兄弟代わり。親代わりなどとあの時の俺が聞いたらさぞ間抜けだ臆病者だ、脆弱だと罵倒の限りを尽くすだろう。
それも、ある意味間違いではないのだが。
ただ俺の髪を洗うだけとはいえど、ギルガ達が女は髪が命だとか。長い方が可愛いだとか。俺にとっては心底どうでも良い言葉を並べ続けた結果、いつしかいちいち髪を切るのが面倒で伸ばしっぱなしにしたのがお互いにとって良い事だったと言わせてしまう結果になってしまったのは本当にやらかしたな、と自分で思う。
良いように転がされてるだけなんだよなぁ……。いつだって。
「……その魔嶺闘演武とやら。誰にでも参加権が?」
「勿論、実力に関する制限は幾つかあるわよ。……あ。貴方のお気に入りの話?」
「……よく予測出来ましたね。」
「最近のティアと言えばその話ばっかりだからね~皆。よっぽどティアの親離れが響いたんじゃない? まぁ、私は呼んだら直ぐに馳せ参じてくれるティアがいつまでも私達のティアで安心してるんだけどね。」
「貴方が望むのであれば、世界の果てであろうと。宇宙の果てであろうと。」
「……それもいつか聞けなくなるんじゃないかって私は怖いんだけどね。」
それこそないだろう。もしその時が来たら……それは俺が本当の意味で死ぬ時だ。
そうでなければ俺が陛下のお傍を離れるなどまずありえない。俺が陛下のお傍に居るのは存在意義であり、陛下こそが俺の存在理由であり、陛下に従う事こそが俺の存在価値なのだから。それ以上の事など、不要であるはずだ。
……そう、不要であるはずなんだ。
「でもまぁ多分、あの子達は実力不足で参加出来ないでしょうね。でも、魔嶺闘演武の観戦権は誰にでもある。それこそ、帝国を満喫しに来た他国の人達も。ある意味……あれは見世物みたいな物だからね。」
「……では、陛下。魔嶺闘演武の参加選手名簿に俺の名前もご記入願います。」
「ほ、本当? 出てくれるの?」
「えぇ。ですが、あいつらへの観戦チケットは是非俺から。」
「……ふふ。えぇ、勿論。直ぐに用意させるわね。」
「お願い致します。それで……陛下。その魔嶺闘演武とやらはいつ行われるので?」
「今貴方が可愛がってるあの子供達の文化祭が終わった後よ。これなら彼らも、冬休みに入る前の大イベントを楽しめるんじゃない?」
「……あいつら、楽しめるでしょうか。」
「もっちろん。何より、ティアも楽しめるんじゃないかな~って私は思ってるよ? ジーラ達に聞いたけど……ティア、暴れ足りないんだって?」
「……えぇ、お恥ずかしながら。何分、大人しくしているのはあまりにも性が合わなくて。」
「そっか。じゃあティア、くれぐれも体を壊さないようにね。」
「はい、陛下。」
それはそれとして。
「陛下。」
「何?」
「流石にくっ付かれると暑いんですが……。」
「ティアエネルギー供給してもらってるから駄目!」
「は、はぁ……。」
何だその未知のエネルギーは……。