第46話 宝は必ずしも地面にしか埋まっていない訳ではないらしい
「……おい、ジーラ。イルグ。ダンジョンってのは壁を破壊したら隠し部屋が出てくるような物なのか?」
「それ以前に、隠し部屋にぶち当たるまで掘削し過ぎた人は居ないと思うよ。」
「俺も。大体、ティアもあいつらも当たり前のようにやってのけてるけど魔法で掘削する奴なんてそうそう居ねぇと思うぞ。」
何、こんなに便利なのに?
俺としてはまだまだ返り血の体温が抜けていく様を楽しんでいたかったのだが、ガキ共に関係があると言われたらあのまま遊び続ける訳にもいかず、魔法でささっと血を流して戻ってきた。死体は一応亜空間に格納した為、屋敷へ帰ってから綺麗に解体すれば良いだろう。
問題は、そのガキ共の成果だ。
せいぜいやたらと質の良い宝石を幾つか掘り当てる程度だろうと思っていたのだが、どうやらその岩壁の向こうにどの道とも繋がっていない小部屋を発見した。それも、収まりきらないのではないかと思う程に足の踏み場すらない量の蔵書を誇る部屋を。
だからといって室内に白骨化した遺体がある訳でもないようで、見てくれとしては放棄されてしばらく経っているか。家主がここを離れて出掛けている程度なのだろうがどちらなのか分からないぐらいには小綺麗だ。
しかし、匂いから察するにここはかなり昔に放棄されたのだろう。大方、俺のようにダンジョンに居を構えて色々と調べていた奴が居るのかもしれない。
「先生見てくれ! 凄い物を掘り当てたぞ!」
「なぁなぁ先生、俺ら凄い?」
「あ、あぁ……。それなりに驚いてはいる。」
「「いよっしゃっ!!」」
「し、師匠。で、でも……問題、あるの。」
「問題?」
「これ見てよ、師匠。見た事ない言語してる。」
軽く見ていた、と言われたら言い返せないのだが俺だって読めない言語というのは山程存在する。それ故、彼らに読めない言語があると言われてもまぁそうだろうで片付けられてしまうのだが、これに関しては返せる言葉が何もかも消え去ってしまった。
ディールから何気なく受け取った、何も考えずに見つけたであろう本は俺にとって酷く紫のある物で。発した傍から音が何かに吸い取られていくような錯覚に襲われ、思わず無表情で本のタイトルをただただ眺めてしまう。
「し、師匠……?」
「せ、せんせ。せんせ、どうしたの……?」
「ティア。どうした。」
「……煌星の夜想曲の古代語だ。」
「何っ!?」
「ティア、辛いなら」
「ジーラ、イルグ。……ダンジョンでの発見物は全て、発見者の物にして良いんだったよな。冒険者ギルドの小娘の話では。」
「そりゃあ……そう、だけど。」
「……ティア、大丈夫?」
「煌星の夜想曲の古語が使われている以上、調べない訳にはいかない。お前ら、これを俺に譲る気はないか。」
「先生がそれを求めるなら喜んで。」
「せやな。先生が欲しいんやったら先生の好きにしたらええと思うで。」
「僕もそう思う。」
「そうね。これ、師匠の出身に関する物なんでしょ? なら師匠が持ってるべきよ。」
「わ、私も……そ、そう、思います。」
「……ありがとう。」