第15話 リスクを恐れれば成長はなく
「――― 良し!! 出来た、出来たぞ先生!!」
んっ、あぁ……寝てた。
少しでも目を覚ます努力をしようと目を擦りつつ、ちらりとポケットの中の懐中時計を引っ張り出してくれば、どうやら本来であれば授業が終了しているはずの時間はとうに過ぎて30分強延長しているぐらいの時刻を差してしまっている。
とはいえルシウス達はまだ課題にお熱のようで、思わず眠ってしまった俺とは違って、しっかりとチャイムが聴こえているはずのジーラやルシウス達は俺を起こす訳でもなく。授業を指定時間通りに止める訳でもなく継続していたらしい。
……勉強熱心なもんだ。
そんな中、時間も確認したのでキリが良さそうな所で止めるか。
なんて事を考えながらも顔を上げればまるでそのタイミングを見計らったように、そのタイミングを狙っていたかのように目の前で蝋燭の先だけに火が灯る。
「どうだっ!!」
「……おー、凄い凄い。」
「雑過ぎるだろ!!」
「……寝起きの人になんて扱いの雑さだ。」
「授業中に寝るのが悪いんだろ! ほら、次の課題をくれ!! 俺も難しいのが良い!!」
いやもう本当に、今日一日だけで何度感心させられるのか、呆れさせられるのか。
ついうっかり眠り込んでしまった俺を全面的に非難する訳でもなく、ただ単にそれは言い訳にも理由にもなりえないと言わんばかりに一刀両断されて何とも複雑な気分ではあるのだが、とりあえずは未だに授業を止める気のないこいつのお遊びに付き合ってやらねばならなさそうだ。
まぁ……初回ぐらいは遊ばせてやるか。実際、新しい玩具を与えられたばっかりの子供ってのは、1日目に調子を乗らせておけば自然と落ち着いていくもんだしなぁ……。
「先生、まさか目を開けたまま寝てるんじゃないだろうな。」
それが出来れば俺は人間ではなく爬虫類か魚類の類だろうな。
これがトルニアやセディルズなら心配するか、はたまた大人しく我慢して待てが出来るんだろうがこのお坊ちゃまはそうもいかないらしい。
俺個人としてはどうにか黙らせてやりたいぐらいには生意気な野郎めと思ってはしまうのだが、ガキのやる事にいちいち腹を立てると言うのも非常に大人気ない。
物は試しとぱちん、と指を鳴らして蝋燭の数を増やすも完全にマスターしてしまったようで、間髪入れずに得意げな表情で全ての蝋燭の先へと炎が灯され、ここまで完璧に返されてしまっては同じ事を繰り返すように言っても駄々を捏ねられて余計に面倒事が増えるだけだろう。
これだから現代っ子は。飽き症が多くて敵わん。
「ふん、こんなの難しいうちに入らん!」
「……ほんっと、急に物にしやがったな。じゃあ……ほれ。」
「……? 真っ黒な紙と羽ペンに……うわ、何だこれ。血?」
「インク。」
「こんな赤いインクなんてあるのか。……何か、黒魔術でもしそうな雰囲気だゾ。」
「黒魔術から生まれた安全な魔法をやるんだよ。」
「黒魔術に安全な物なんてあるのか?」
あーあー。折角の優等生なのにそんな面白くない事言っちゃって。それすらも学んでないのか、お前ら。
「阿呆かお前は。当時、非人道的だと言われていた解剖から今の医療が生まれたんだぞ。たかが黒魔術、怯えて手を出さないなんてただの臆病者だろ。」
「ぐっ、上等だ! これを使って何をするんだ?」
「今日のお前の授業は終わりだ。」
「んなっ!? 俺はまだ」
「その代わり。お前に1つ、宿題を与える。」
「宿題? これに関係する物か?」
「しない物を宿題に出して何になるんだ。」
「……せんせ、なら予習なんじゃ……?」
「予習とも言えるが、あくまで予習は個人の努力の範疇であって教員が強要出来る物ではない。が、今回俺がお前達に求めているのは任意の上でなんて物ではなく、絶対に行わなければならないと。単位に影響しうる物だからしっかりとこなせと強要している物だ、宿題で問題ない。」
「な、成程。」
「え、見たい見たい。先生、どんな内容なんですか?」
「召喚獣の予習。」
「しょ、召喚獣! 次は召喚魔法を習得するのか!?」
「そっから学んでこい阿呆。召喚獣と召喚魔法は全くの別物だ。次回の授業でその違いも詳しく説明出来るよう、念入りに学習してこい。」
「はぁ!!? ルシェルだけ狡い!!」
「……一応まだ授業中なんだが、トルニア。授業中は偽名を呼称するようにと言わんかったか。」
「あっ。」
「……狡い。」
「ふん、待っていてやるからさっさと終わらせろ。」
「この野郎……。」 「……この野郎。」
「授業に集中しろ。その方が早く終わる。」 「授業に集中するんだ! そうじゃないと早く終わらないぞ!」
「覚えてろよルシェル!! 絶対お前より良い召喚獣出してやるからな!!」 「……絶対ルシェルには負けないから。絶対、絶対ルシェルよりも良い召喚獣出すもん。」
「ふん、やってみるが良い!! お前ら如きには負けんわ!!」
あぁ~……眠い。……もう今日の授業は終わらせて良いか?