第42話 何事も試してみなければ始まらないとはよく言うが
「ティア、どうだ? ちょっとは気分転換になってるか?」
「あぁ。色々と調べたい物が多いが……まずは観察する物が多過ぎて何とも。」
「……何か研究者みたいな事してんな。」
「ここに小屋でも建てちゃう?」
「それは俺に1世紀以上時間をくれるという認識で良いのか?」
「……確かに。うん、辞めとこっか。」
「ルールゥ先生達ってよう先生に言い負かされるんすね。」
「「うっ。」」
「ま、まぁ……ティアは天才だから。」
「だな~。俺らみたいな、反射と脊髄で喋ってるような奴には分からねぇ事だらけだよ。」
「もうちょっと頭を使うって事に慣れれば問題ないと思うが。」
「それが出来ねぇから苦労してるんだって~。」
それはお前らが当たり前を疑わないからだろう。
どんな技術も、最初は疑う事から始まる。「本当にそれにしか使えないのか」、「他に使い道はないのか」、「こういう事は本当に出来ないのか」。そうやって誕生した疑問に対し、誠実に。そして真剣に向き合ったからこそ今の技術があるというのに、大抵その技術の恩恵を得るのはその素晴らしさをまともに理解もしていなければ理解しようともせず、ただ便利だからと消費するだけの者が大半を占める。その癖、もっと改良しろだこういう機能を着けろだと図々しい上に厚かましい事この上ない。
その技術を、今は当たり前としか思えないその全てを今の当たり前にしたのは全て、いつぞやの誰かがそれを当たり前にする為に努力したからであってその当たり前に甘えている者は何1つ努力をしていない。それすらも理解せずに生きるのは正直……顔を顰めずにはいられない。
それもこれも、仮にも俺がこの国の歴史を。国その物を護る為、その当たり前を維持しなければならない立場故なのだろう。だからこそ、何も知らなければ知ろうともせず、平気で人の努力を踏みにじるような奴らに中指を立てたくて仕方ないんだろう。それぐらいの権利はあると思う。
地上では、こうやって野営して食事をしていれば匂いに反応したモンスター達が寄ってくる事がある。それなのに、ここのモンスター達は近付いてこない。それは本能的に俺達には勝てないと察しているからなのか、それともダンジョン特有の生態があるのかの何方かなんだろう。それにしても、入ってまだ数十分しか経っていないのに不思議な物ばかりだ。
「……。」
「ティア、やっぱりここで狩りしてみねぇか?」
「言ったろ……。俺が狩りをしたら一掃する羽目になる。」
「ここのモンスターの肉って、地上のモンスターの肉と一緒だと思うか?」
……。
俺が受け取らない事を一切疑っていないイルグに子供の頃、よく使っていた弓と矢を差し出される。あの時と違うのはあの頃の子供の体の大きさに合わせた弓ではなく、今の俺の身長に合わせた弓であるというだけ。
まだ食べかけの弁当を膝の上に置き、上体を少しだけ逸らして……一番近くに居る草食系のモンスターを射貫く。仮にもあれは水牛型のモンスターだ、地上であればそれなりに美味い牛肉にはなる。
「宜しく。」
「全く、行儀の悪いお姫様だ。へいへい、行ってくるよ。直ぐ捌いて調理するから。」
「ん。…………つーか、食事中に武器渡す方が悪いだろ。」
「それはね~言えてる。それこそ反論の余地すらないね。」
「せ、先生。その弓矢……特殊な性能でもしてるのか?」
「いいや? ただ木の枝を削ってロープで作ったただの弓だ。子供でも作れる。」
「……後で貸してくれ。」
「別に良いが、ちゃんと魔法の腕も磨くように。」
「あぁ、勿論だ。」
「ルシウス、俺にも後で貸してな。」
「ぼ、僕も。」
「あぁ、分かった分かった。」
「師匠、剣の練習もして良い?」
「大怪我をしない程度にな。擦り傷なら好きにしてくれて良い。」
「魔法で治せるもんね。まぁ、骨折も何とかなるけど。」
「ジーラ。」
「は~い、ごめんなさ~い。」