第41話 無限にも見えるその原理は一体?
「ティア、どうせ第5階層ぐらいまでは大した奴居ないだろうから好きに遊んでてくれて良いぜ。」
「その場合、大した奴が居ないから俺が暴れるとここら一帯全てを狩り尽くす事になるんだが。」
「……確かに。」
「まぁ、好きにしてて。ここでゆっくりする事もなければ1人でここに来る事もそうそうないだろうし、子供達の事は僕達が見とくからさ。」
「……分かった。」
クリシュタールダンジョン。ここへ来るのは……少なくとも2、3世紀ぶりか。
ある日突然現れては国家の貴重な収入源となり、同時に爆弾でもあるこのダンジョンという物は人によってその存在を歓迎する者。忌み嫌う者と様々だ。勿論、俺のように碌に気にしない者も居るが。
念の為、ここへ入る前に冒険者ギルドで軽い情報提供を頼んだが……また新たに謎を生んでしまい、受付嬢を困らせてしまったが故にジーラ達に引き摺られ、自分達で調べてみる事になった。
ダンジョンでは無限にモンスターが生産されるらしい。ただ何処からモンスターが無限に生産されているのか、どうして上限がないのかも分からない。少なくとも時折ダンジョンからモンスターが溢れてくるのはダンジョン内でのモンスターの収容限界が来たから、彼らは生きる為に。又は何らかの目的を以て外を目指すんだろう。まぁ必ずしもモンスターの収容限界が来たから外を目指す訳ではないと思うが。
それと、面白い事にこのダンジョンは生き物らしい。まぁモンスター、仮にも生命体であるそれをどうやってダンジョンとやらが生み出しているのかは知らないが、自然界でも母なる海に最初の生命である微生物がどうやって生まれたのかはどれだけ科学が発達しても謎とされている。そういう意味では……このダンジョンの生命生成の秘密と、母なる海に原初の生命が誕生した謎は殆ど同じ回答が得られるのではないかと期待している所はある。
だからといって俺がその謎を解き明かせるかどうかは別問題だが。
原則、ここで死んだモンスターはダンジョンに吸収されてまた新たなモンスターの栄養源となるらしい。ただその吸収もそれなりの時間を要するようで、冒険者がその素材を刈り取る時間や。ダンジョン内に生きる他のモンスターがその死骸を喰い漁る時間はあるらしい。
しかし、その次の疑問としてダンジョンというのは発生するとその後数千年経とうとも消滅する事はない。ダンジョンが死ぬのは必ず、ダンジョンの最下層に存在するという大ボスを倒し、ダンジョンのコアなる物を破壊しなければ壊れないという。
でもそれならばその数千年にも渡って新たなモンスターを生成し続けるその資源は何処から来るのだろうか。仮にそれらを蓄えてからダンジョンが発生するとしても、何故世界に数えきれない程のダンジョンが存在するのか全く分からない。1国でも数千年籠城出来るだけの貯蓄をこさえる事は容易ではない。それを容易に、当然のように行うダンジョンは謎が尽きない。
前提として、ここで死んだモンスターがやがてはダンジョンに吸収されるとは言うが……そこに外部から来た冒険者などは含まれないという。それならば、冒険者が入る度に徐々に資源量は減っていくはずなのにコアが破壊されるまで壊れないのは謎でしかない。
何で誰もそこに疑問を抱かないんだろうな。こんなに……分からない事が多いってのに。
大方、目先の事しか考えていないんだろう。ダンジョンがあるのが当たり前で、その意義や意味、構造を理解しようとせず、表面上の物が全てだと思い込んでそれ以上掘り出そうとしない。だからこそ、成長もしなければただ生きているだけの量産品になり果てている事に気付きもしないまま死んでいく。だから、無意味のままだと言うのに。
「……この景色だって、幻魔法で作り出すのは簡単だが生態系として創るのも、維持するのもそう簡単ではないはずなのに。」
クリシュタールダンジョン第1階層から第5階層へ平原で構成されている……らしい。まだ、俺達は第1階層しか見ていないので更に下の事は見てみないと分からないが、不思議な事にダンジョンだからといってここに生きるモンスター全てが必ずしも攻撃的ではない。それも……不思議な話だ。
地上に居るモンスターというのは、どれもこれも非常に攻撃性が高い。草食獣ですらも縄張り意識が強い為、少しでも自分や自分の群れ以外の何かが近付いてきたら直ぐに臨戦態勢へと変わる。それなのに、今ここに居る草食系の水牛のような姿をしたモンスター達は地面の草を喰うだけで何もしない。何ならその肌を撫でる事すらも出来るレベルだ。これじゃあ家畜と変わらない。
「誰かが定期的に資源を補給してる……? だが、それも限界があるはず。それに、何でそう手間を掛けてまでダンジョンを造る必要があるんだ? モンスターの素材は剝ぎ取られるし、ここで死んだ外部の生物をダンジョンが吸収する事は出来ない。その証拠に数年前の人間の骨や装備がダンジョンで見つかる事や、モンスターの巣の一部になってる事も珍しくない。……何がどうなって何処で区別してるんだ?」
「せ、せんせ。」
「セディルズか。どうした。」
「ルールゥ先生とベク先生が……ご飯にしようって。せんせのお師匠様がお弁当持たせてくれたんだって。」
「……そう。分かった。」