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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第35話 その表情の裏に隠れる本当の心は幸せか

「おぉ~……! あそこ、あそこにエイが居るぞ!」

「で、でっか……。」

「リシェラ、あの水槽見に行くわよ!」

「ま、待ってってば~……!」

「……お前は行かなくて良いのか。お前もトルニアと一緒で初めてだろ。」

「僕は、せんせと一緒が良い。」

「……へぇ、そうかい。」


 少なくとも楽しんではくれてるみたいだから良いか。


 面白い話、こいつらの教師になる前は殆ど城から出なかった俺だがそれ自身も幼い頃にイルグとジーラにここへ連れてこられた事がある。子供なら楽しくない訳がないだろうと、たまには外の楽しみも知っとかないと心にカビが生えるやら何やらと言われて引き摺り出された。

 今となっては俺も水族館という物を気に入ってるし、その際に一緒に楽しんだ喫茶店も思った以上に気に入った事から今でも一人でふらりと訪れる事がある。それぐらい、ここは気楽だ。

 遠回しに子供は単純だと言われているような気分になって当時は酷く嫌だったが、結局の所、ガキの感性や性格は全て教育者によってどうとでも歪むという事なんだろう。それなのにどんな奴でも親に慣れるのだから屑が生んだ子供は高確率で屑になるか性格が歪んで一生その負と腐を背負いながら生きなければならず、一生苦しみ続ける事になる。


 いっその事、素晴らしい未来の為にって綺麗事を謡いながら学校を全部1つにしてしまえば……。本当の意味で、“責任を以て善人を教育する” 機関を作れば仮に親が屑でも子供の未来と精神は保証される未来になるんだろうか。


 一度、しっかりと資料を作って陛下に提案してみるのもありかもしれない。それはそれで色々心配されるだろうし、色々話を求められるのだろうし、もっと言えばそれで陛下が納得すれば直ぐさまそれが実行されるであろう事は分かっているが未成年の死因の大半は大人に因る犯行が多いのも事実だ。

 虐待だったり、差別だったり、ベランダの放置だったりその大体が、親の精神が子供なのに子供を産んでしまったか。碌に経済力もないのに欲を優先したか。一時の快楽の為に馬鹿な事をしたかのどれだかだ。

 無論、交通事故やら死産になってしまった場合。全く見ず知らずの誰かの手に掛かってもあるが、最後に関しても結局行動しているのは大人だ。極論である事は認めるが、でもそう言えてしまうだけの犯罪率を誇っているのもまた事実。そこは割り切るべきだと俺は思う、“大人なのだから”。


 そもそも、何処ぞの国みたいに国民が政府を信じていないように、この国も大人を信じなくなったと言うべきか。はたまた、大人に期待出来なくなったと言うべきか。


 真意としては攻撃的ではあるかもしれないが、子供を政府が預かれば大人は気兼ねなく自分の人生と仕事に集中出来る訳だ。別に、教育を政府が全て行うと言っただけで会えないようにするつもりはない。無論、親の意見よりも子供の意見の方を優先するが……そもそもとして社会が子供の意見を優先する事なんて数える程しかないのだからその方が子供の未来の為だと俺は思う。

 それか、成熟していない奴でも大人を名乗れると言う制度の方を覆すか。それはそれで差別を誘発しそうな気がする上、それを逆手に取って犯罪も増えそうな気がする。


「……結局の所、悪しきは大人か。」

「せんせ?」

「あぁいや、何でもない。」

「……せんせ。せんせは子供の頃、遊んだ事……ある?」

「ジーラ達に負けるのが悔しくて魔法を放ちまくったあれはまぁまぁ楽しかったな。」

「や、やってる事が悪ガキ。」

「何を言うかと思えば。俺は元々悪ガキだし、これからも少しでもおかしいと思ったらしょうもない気遣いなんてせずに言いたい事は全部言う。俺はそれを許されて来たし、むしろそうしてくれた方が良いって言われて生きてきたからな。」

「そうしてくれた方が良い?」

「自己主張は多い方が良いし、言いたい事は言った方が良い。だが、陛下達の言うその言葉は社会の言う薄っぺらい言葉とは違う。ちゃんと言葉の通りだ、ちゃんと言ったからと言ってそれを咎められる事は絶対にないし、自己主張したからと言ってそれを咎められる事はない。あくまでそれに対して議論が繰り広げられると言うだけで、気に入らないから人を貶すのが当然な社会の腐り切ったご都合主義とは格が違うからな。」

「せんせ、社会って経験した事あるの?」

「直接はないな。……ただ、陛下の護衛として外交へ行った事は何度かあるし、その場に同席した事もある。本当にどいつもこいつも自分の我を通す事ばかりを考えて相手の事など考えやしないぶくぶく太った脂肪みたいな奴らだ。何処の国も、社会が腐っている事はあまり変わりないらしい。」

「信用出来る国、1つはあるの?」

「あぁ、ある。確かに世界には腐敗の方が多いが、だからと言って全てが全てじゃない。それ故、俺達は同じように腐敗に苦しむ人を探す訳だ。可能であれば、手を取ってくれと。」

「引き抜き?」

「国家として動く時はそうだな。任務として動く時は保護だ。……まぁ、加害者は誘拐だどうだと喚くから? そういう阿呆を黙らせるのが俺にとっての一番の楽しみではあるんだがな。」

「個人的に動く事は、あるの?」

「……いいや。プライベートまで誰かに左右されるのは好きじゃない。」


 好きじゃない、はずなんだけどな。


 他人と言うのは不思議な物で、人が起きている間は幾らでも話しかけてくるが寝ていたら全く何もしてこない。だから、俺はそれを逆手に取ってプライベート時間は殆どひたすらに眠り続けた。睡眠薬を使ってでも、魔法を使ってでも、それが誰にも関わらなくて良くなる唯一の方法だと信じて疑わなかった。

 しかし、今はどうだ。俺でも分からないぐらいこんなガキ共の為に睡眠時間を削り、こんなガキ共の為に何かと手を尽くしている。


 ……焼きが回ったのかもな。


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