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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第32話 友好的な相手の対応は苦手だ

「大変お待たせ致しました。何分、準備に手間取りまして。」

「いえ、突然押しかけて申し訳ありません。息子達から“押し切らないと逃げられる”と助言をいただきまして。」

「息子達から堅苦しいのがお好きでないとも聞いております。元より特殊な職業をされている方だとも聞き及んでおりますから、ルーベル先生のやり易いようにしていただければ幸いです!」


 大人のその一言だけは何があっても信じるなってのが鉄則なんだけどなぁ……。


 本当に突然やってきた、応接間にて俺の前に座るこの2人は本当にルシウスらしさが滲む。何方かといえば……父親似だろうか。

 白人にしては珍しい黒髪に目を背けたくなる程に澄んだ蒼色の瞳の男に、此方も白人の……いや、ハイエルフらしい鋭耳(えいみみ)だが此方も此方でハイエルフにしては珍しい金髪にハイエルフではかなり忌み嫌われる事の多い隻眼の瞳を持つ女。何方も随分と変わり者だ。

 あまり遺伝事情には詳しくないが見た限りだと両親の容姿的特徴を何方も良いバランスで受け継いだのだろうか、あいつは。その息子とやらからの助言を真に受けてるのもあぁ家族だなぁと思わなくはない。


 プレゼントで高級品菓子を持ってくるのはこいつらの金銭感覚が狂ってるのか、それとも本当に悪いと思ってんのかどっちなんだろうなぁ……。


「改めまして、ルシェル達の父、ルーベンドル・シルジェ=グランゲールです。」

「同じくルシェル達の母、フェラニティーサ・シルジェ=グランゲールと申します!」

「……グレディルア・ルーベルと申します。」

「……ふふ。あぁすみません。息子達からグレイブ先生の聡明さをお伺いしておりまして、本当にハイエルフ族にとって恐怖の象徴や呪いの象徴と迫害される事が多いこの隻眼を見ても何も言われないなんてと思いまして。」

「まぁ……人間に限った話ではございませんが、どの種族も呆れる程に無意味な迫害や差別を好み、無為で無価値な争いを量産する事は左程珍しい事ではありません。それに、どんな事情にも必ず正しい根源があります。感情論などという獣と変わらぬ知性の欠片も感じられぬ行為に価値など与えてはなりませんので。」

「……! グレイブ先生、握手をお願いしてもっ?」

「え、あ、あぁ……はい。幾らでもどうぞ。」


 ……驚いた。ノルデンのハイエルフか。


 ハイエルフという種族ではあるが、それには幾つかの種類がある。深い森に生きるフィーンのハイエルフ。山岳の森に生きるキャニ―ルのハイエルフ。沼地の森に生きるポグのハイエルフ。ジャングルのアマゾアのハイエルフ。そして最も有名な雪原の森に生きるノルデンのハイエルフが居る。

 元々ハイエルフはエルフの中でも特に突出した特殊個体の総称ではあるのだが、昔はそれぞれハイエルフだけの集落が存在しており、それぞれの名前で呼ばれる事が常であった。今は希少種族という理由で迫害やら奴隷やら愛玩動物やらとして扱われて数も減り、色々と問題になってはいたがまさかこんな所で会えるとは。

 エルフか、ハイエルフかの区別は保有する魔力量と肌が触れた際に保有魔力量の多さ故に肌がぴりぴりしたり。冷えていたり。熱かったりする訳だが、ノルデンのハイエルフは氷塊に触れているかの如く冷たい。


「……ルシェル君の膨大な魔力量はお母様の遺伝のようですね。」

「本当ですかっ?」

「えぇ。……魔力の質がよく似てらっしゃいます。ただ……そうですね旦那様は重力魔法等との相性が非常に宜しいのでは?」

「息子達からお聞きに?」

「いえ、見るだけで魔力の特性が分かりますので。……まぁ、流石にハイエルフの魔力に関する情報は見ているだけでは分かりませんが、肌が触れて確信しました。」

「ルーベル先生、私も先生とお手を繋いでみて確信した事があります。」


 ……?


「何でしょう。」

「本職内容とは裏腹に、自然のように優しくて底のない包容力をお持ちの方だと。……それなのによく勘違いされて傷付いた経験が多くおありなのでは?」

「……魔力占術ですか?」

「あ、これもご存知でした?」

「えぇ。……一度習得しようと挑戦した事があります。まぁ、俺が触れる頃には死んでいる事が多いのであまり使う相手も少ないのでもう忘れてしまいましたが……。」

「……実は、グレイブ先生。本日ご挨拶させていただきましたのはルシェルから毎日のようにグレイブ先生のお話をお伺いした事がきっかけでした。」

「ルシェル君から……?」

「はい。トルカ君やセイズ君が我が家に居た頃も、2人共……あまり笑わない子でして。時折怪我をしてはルシェルに治療してもらいながら泣いてる日もありました。そんな子供達の口から“凄い先生に出会えた”と。……あの日から、ずっとお会いしてみたかったんです。あの息子達に笑顔をくれた、素晴らしい先生に。」

「……お気持ちは大変喜ばしいのですが、生憎と俺はただの殺戮者です。勿論、これも契約故にそれらしい事をしているだけで俺の中身まであの子達の未来の為になるとは断じて思いません。」

「“悪いのはいつだって道具じゃなく道具を扱う使用者の方だ”。……そう、息子達に教えてくださったのもルーベル先生だとか。」

「……。」

「護る為の正義が行き過ぎてしまう事も、護る為の正義が自らの首を絞める猛毒となってしまう事も息子達に教えてくださったと。……グレイブ先生。貴方がどれだけ厳格な先生だったとしても、息子達はグレイブ先生の本当の姿を知っていますから。……ですからあまりそうやってご自分を傷付けないであげてください。」

「グレイブ先生、いつも息子達をありがとうございます。……どうか、これからもやんちゃで時々やり過ぎてしまうくらいに元気な息子達を宜しくお願い致します。」

「息子達の笑顔を、未来をこれからも宜しくお願いします。」


 笑顔……か。


「……まぁ、失望されない程度に頑張ります。」

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