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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第26話 こんな物で時間を買えるなら

「そういえば……先生。少し聞きたい事が。」

「何だ、今度は。」

「トルカとセイズの学費ってどうなってるんだ?」

「あ、確かに。どうなってるん?」

「聞いて……良い事?」


 あぁ……そういえば。


 忙しかったと言えば忙しかったのだが、それ以上に割と気にしていなかったのもあって忘れてしまっていたのだがこいつらに渡す物があった。まぁ、その後こいつらがどうするかはこいつらに委ねれば良い。

 ちょいちょい、と手で呼べば直ぐに傍へ来るトルニアとセディルズ。そんな2人に、それぞれまぁまぁ大きな茶封筒を差し出せば素直に受け取る2人ではあるのだが流石に開けようとは思わないらしい。

 開けてくれた方が助かるのだがまぁこいつらの事だ、変な事を気にしているんだろう。


「早く開けろ、どれもお前らのだ。俺は預かってたに過ぎん。」

「先生がそう言うなら……。……書類?」

「手紙と……通帳、もあるような……。これ、何?」

「2人が知っての通り、この別荘を俺が貰う事になって以来お前達の生家であるケリューカ家とリューンジ家は解体された。それに伴い、書類上は……。戸籍上はその書類をお前達に手渡した時点からトルカ・シュトーレン。セイズ・グラレダとなった。」

「トルカ……シュトーレン。」

「……せんせの名前、貰えると思った。」

「んな訳あるか。職務上軍属以外の人間に苗字をやる事は出来ん。」


 随分と楽観視している様子のこの2人だが、そもそもとして軍人の名なんぞ基本的には欲しがらないのが普通だ。軍人であるが以上、何かしらに恨まれているかもしれないという可能性が付き纏うのだから。

 その点、俺はこれでも世界中にその名が轟く程の虐殺者。それはもう怨みを買いまくっているだろうし、少しでも殺す機会があるのであれば何が何でも殺そうとする輩は多いはず。……俺は、それがどうにも言葉にしがたい。

 俺でも俺が何を言っているのか、何を思っているのか正しくは分かっていない。分かってはいないが、それでも1つ分かっているのは遅かれ早かれ俺の傍に居るというだけでこいつらが何らかの危険に巻き込まれる事だけ。

 それがどうにも嫌で、俺はこの屋敷を手にした時から何かと準備をしてきた。色んな結界を張ったり、こいつらにもこいつらが寝静まった頃にそれぞれの部屋へ行ってはある程度の防御結界と出先で意識が落ちるような事があった場合に限り、位置情報を飛ばしてくれる魔法なども着けてある。

 しかし、それも数日前に確認したらあの馬鹿師匠夫婦が……。正確にはミティアラの方が何かをしたようで、俺がわざわざ毎晩魔法を仕掛けずとも100年はそのまま放置出来るような俺の知らない魔法が書いてあった。

 一応、あいつらはまだ国内に居る。何ならしばらくは国内に居ると聞いているぐらいだ、分からなければ聞きに行けば良いだけなのだがどうにも聞く気になれなくて、ずっと自力で解かんと努力を続けている。


 ……今はこっちだ。


 頭では分かっているのだが、どうにも盗られたような気持ちになって色々と腑に落ちない。それが何故なのかは分からない。それでも、何かが気に食わない。

 そしてきっと、これもあいつに聞けば直ぐに答えが出てくるのだろう。随分なプライドだ。


「それで……先生。シュトーレンとグラレダは何処か来たんだ?」

「数百年前に軍属だった者の名前を陛下が適当に引っ張ってきただけだ、詳しくは知らん。」

「けど、それ……聞かれたら困らん?」

「その時は遠縁の名前とでも言っておけ。……それと。同封されてる書類には俺が保護者になる事を同意する、養子になる為の正式な書類。既に俺とディアルのサインがされた通学証明書がある。お前らが俺の養子になる事を同意しない場合、色んな書類を修正する事にはなるがな。」

「そんなんよっぽどの間抜けやないと断らんで。」

「せ、せんせの養子!」

「何処で感動してるんだお前らは……。」

「けど先生、この通帳は?」

「解体された元本家の金。知っての通り、両家共に処刑扱いでそれら財産を存続出来るんは国か末代のお前らだけ。判断は慎重にな。」

「……凄い金額。」

「腐っても貴族は貴族だからなぁ。まぁ要らんなら要らんで “相続者が居なかった為、全てを税金として徴収した” って事になる。相続するんやったら陛下が上手く細工してくれる手筈も整ってるからどうするのもお前らの自由だ。」


 ……まぁ、そうなるだろうよ。


 この金はこいつらが恨みに恨んだ両親達の物。それはもう殺したい程の相手の資産を受け取るのは汚染された何かに触るような物だろう。嫌悪する気持ちはよく分かる。


「……金も魔法もそれ自体よりも使う存在がどういう者かによって価値を変える。親の金だから使いたくないと思うのは勝手だが、同時にそれを再利用するのも自由だ。」

「……。」

「……。」

「……先生。先生は、どう思うん?」

「……最終的にはお前らがお前らで決める事だが、人生は何があるか分からん。今は使わんくとも一応は取っておき、後で考える事にするだろうな。俺がお前らの立場なら。」

「……じゃあ、それで。」

「僕も……それで。」

「本当にそれで良いのかよ……。」

「……なぁ、先生。」

「何だ今度は。」

「学費はここから払ったらええん?」

「ん? あぁ、学費ならもう全額払ってるから気にすんな。」

「「「え!!?」」」

「ルシウスの分は知らんぞ。」


 俺はお前の保護者じゃねぇからな。


 そもそもの話、学費の支払いは既に第2学期が始まる前に要求されるのでその時にもう既にトルニアとセディルズの分に関してはディアルに少しばかり無理を言い、卒業分まで先払いしている。

 仮にこの2人が中退したとしても、余剰分は全部募金として集金するように伝えてあるのでもう俺にはどうでも良い金だ。少なくとも、これまであまり散財してこなかった俺からすればはした金も良い所だ。


「しかし……見た目は確かに2、30代に見えるかもしれんが、一応数100年単位で生きてる上に七漣星に所属してから少なくとも300年以上経ってるのに殆ど手を付けてない貯金だからな。学生2人分の学費なんて大した額じゃない。だからその金をどうするのかも、バイトするしない関係なく一切その遺産に手ぇ付けねぇでも学生を終える事ぐらいは出来るから好きに悩め悩め。就職後も安定した職に就ければもしかすると死んでも使わないかもしれんな。」


 お前らの驚いたその顔が見れただけでもあのはした金に価値があったようで何よりだ。

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