第24話 嫌よ嫌よも好きのうち
「貴方の好きなお刺身だったり、あっさり系のお料理多めに作ったから楽しんでねぇ♪」
「好みの酒も買うてきとるから、好きなだけ飲んでええからな。」
にしても量がおかしいんだよ、お前らは。
視界の端で何人かが初対面故に挨拶する中、目の前には見た事がないぐらいに高級料理などが並んでいる。いや、目の前なんて狭い範囲ではなくこの部屋全域にまるで装飾なのではと思う程、どっかの国家元首の誕生日なんじゃないかと疑問に思ってしまう程に並べられている。
特段酒癖の悪い奴が居る訳ではないのだが、それでも仮にも未成年が居る中でこの量の酒を並べるのもどうなんだとは思う。その未成年の前で堂々と煙草を吸う俺が言えた事ではないのかもしれないが。
「せ、せんせ、大丈夫……? 度数高いけど……。」
「……それはまぁ、別に。」
「ティアはお酒強いものぉ。」
「酒に耐性がありはするが、そこまで強くもなければ二日酔いもしないバランスの良いタイプだがな。」
「そう言うなら助けてくれても良いんだぞ、ギルガ。」
「お2人に俺が勝てるとでも?」
「そこ、断じて開き直る所じゃないから。」
「まぁしかし、不思議な事に理性が飛ぶ事もないから何の危うさもない。」
「思う存分楽しめるねっ!」
「……。」
「睨んじゃだ~め♪」
睨むぐらいなら許せよ。
何を考えているのか、両サイドをこの馬鹿師匠夫婦に固められている所為で席を立つ事すら難しい。一応は俺の手で飲食のタイミングを選べてはいるが、それもいつまで続くのか分からない。
更に怒れないのが、この会場に未成年が数名居るのもあって彼らでも楽しめる料理も多く並べられている。正直かなり高度数の酒があるにも関わらず。料理の方にもそれなりの度数が入っているのもどうかと思うのだが。
だがこれはある意味決まっていた事で、必ず誰かの入隊記念日は飲み明かすのが決まり。ただ陛下はお仕事がある関係からお時間を取れない為、その代わりとしてパーティの出費を全額ポケットマネーから負担するという正直、申し訳なさの勝つそれも決まりではある。
とはいえ、今年はこの馬鹿師匠夫婦が大量に買ってきたので今回のパーティはそこまで陛下の財布を圧迫するような事はないはずだ。……他の所で出してきそうなのが怖い所ではあるのだが。
「七漣星はいつもこうなんですか?」
「………………………………あぁ。」
「ティアは俺らの紅一点だからなぁ~。最年少だし、そりゃまぁ俺らも可愛がるって。」
「……理由になってないんだよ、それは。」
「もし君達が本当に僕らの部隊に入るんだったら、入隊日に入隊祝いを行う事になるけどね。」
「どうぞ、ティア。これ私からね。」
「……何でお前まで混ざってんだよ、シャル。」
「あれ、来てほしくなかった?」
「そうは言ってない。」
「来てほしかった?」
「そうも言ってない。」
この国には厄介な夫婦しか居ないのか?
この馬鹿師匠夫婦に囲まれている所為でわざわざ持ってきてもらう事になってしまうのだがわざわざ一杯分は既に作って渡してくれるシャル。匂い的になんぞのハーブティではあるのだが、確実に朝まで保たせる為にこれを選んだんだろうなと思えなくもないので手放しで喜ぶ事は出来ない。
………………美味しいのがまた気に入らん。
「……あいつらに酒飲ませてないだろうな。」
「飲ませてないわよぉ~。」
「彼らの方には僕らの方で用意した、帝国一美味しいマスカットとなしのジュース買ってきたから。」
「そ、そんなに高い物だったのか!!?」
「た、確かにめっちゃ美味しいなぁって思っとったけど……。」
「気にすんな、そのままお前らで在庫枯らしてしまえ。」
「ティアも飲む?」
「…………要る。」
「可愛い。」
「おん、可愛い。」
うるせぇよ、だから。