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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第23話 今日だけは絶対に逃がさない

「あ、やっと帰ってきた! お帰り、ティア。」

「お~お帰り! 今日は学校楽しかったかぁ?」

「……その前に色々突っ込ませろ。何でお前らがここに居るんだ。」


 そして、何で俺が学生みたいな扱いしてんだ。


 そろそろ授業として本格的に物を教えなければならない関係上、以前のようにはっちゃけたというか。多少粗削りが誰の目にも移り易い仕事も段々とし辛くなってきたのもあってそれなりに俺から見てもあまり面白くはない授業らしい授業を始めたこの頃。

 今日も、そんなつまらない授業を終わらせてガキ共と帰ってきた。

 不思議なのは授業の舵を握っている俺がつまらないと感じているのに、こいつらは非常に楽しんでいる事。全く以て何が面白いのか分からない。

 だが、もう少し踏み込んで冷静に考えてみればおかしいようにおかしくはないのかもしれない。

 実際、子供の笑いのツボというのは大人の大きく違う事がある。それもこれも、大人とは違って素晴らしい好奇心と探求心を比較的多く、強く持っている関係から彼らは大人とは根本的に感性が違う。勿論、中にはこれを保持したまま大人になる連中も居るがそういう人程自分達のやりたい事にのめり込む傾向がある為、一向に社会の風向きは変わらない。

 しかし、だからといって彼らに「自分の幸せよりも社会の底辺改善に努めろ」なんて理不尽で非道徳的な事を言うつもりはない。否、そんな資格は誰にもない。

 元来、人は自分を幸せにする為に生きて死ぬ。それなのに見ず知らずの人間を助ける事を強制する権利も、それを意見する権利もない。そんなに人というのは他人に対する影響力を持っていない。

 だからこそ、本来する必要のないそういう他人に対して社会的に。誰がどう見ても善い行いだと言える物は慈悲であり、慈善行為であり、時に偽善となる。


 そんな事も分からず踏ん反り返る類も居るが、だからといってやり返したら同列だからなぁ……。もっと法律的にああいう奴らを後世の社会の為に間引く方法があれば良いんだが。


 それが難しいから社会は変わらない。だが、努力していない訳ではない。

 結局、どの努力も失敗と終わり、その失敗例が幾つも積み重なってしまって民からの不信感を煽ってしまう。更にはそこからその不信感をどうにかしようと頑張った結果、また失敗が増えたり。媚びてるだどうだと言われてどんどん国力が落ちていく。

 故に、一度民から大きく不信感を煽ってしまった際には敢えて足を止めるぐらいが丁度良かったりする。それか、その足の進みを遅らせるか。

 全体会議にはそれなりに金がかかるが、ただ単に個別に話をするぐらいなら金などかからない。そうやって地道に意見を積み重ね、仕事の合間や仕事終わりに金のかからない小さな会議を挟んで意見を熟していけば良い。



 それが出来ない国はただただ落ちていく。



 まぁ、他国がどうなろうが俺らには左程どうでも良い話だけど。


 少なくとも、俺はそういう風に言ってのける事が出来る立場の人間だ。別に他国と話す事なんてそうそうないし、仮にあったとしてもその時だけ国家目線での。それこそ陛下が常に考えておられるであろう国益と平和の維持を目的とした自己犠牲と血反吐を吐くような努力をしなければならない立場でもない。

 仮に俺が他国と話すような案件だってそう多くはない。知らないからこそ、その辛さを体験しなくて良いからこそ好きに言って良い無責任で屑な立場であるとはそういう事だ。


 だからといってその最前線の前に居る人の前では言わないが。あいつらは俺がそういう苦労をしなくて良いように頑張ってくれてるんだ、多少気に入らん奴が相手でも上っ面ぐらいは厚意的な仮面ぐらい被ってやらんとな。


 それを怠った際、その責任やその義務がこっちに流れ込んできても困る。だから、多少気に入らない奴が相手でも多少は愛想良く、程良く嫌な仕事を(俺の幸せの為)してくれる相手(の盾であり人柱)には気持ち悪いぐらいに親切な方が返って良い。

 何なら過剰にし過ぎる分、向こうは此方を不気味がって自然と向こうから離れてくれる。これが一番良いいなし方だろうし、周りから見てもどれだけ嫌がっているのかがにじみ出てくれるので少なくとも理解者も得られる訳だ。

 これ以上に平和的な嫌われ方、世の渡り方はないと自負している。無論、持論なので他にもあるにはあるだろうが。

 それはそれとして、俺には何故こいつらがここに居るのか分からない。

 少しばかり身を逸らして屋敷の方を見る限りだと七漣星のほぼ全員が揃っているようだが……一体何をしているつもりなのやら。というか、こいつらにしては珍しく不法侵入してるのも気にはなる。


 またこのガキ共とグルか……? それなら多少可能性はあるが。


「何って……ティア、忘れたの?」

「何が。」

「今日はお前の入隊記念日だろ?」


 あ。


「……ちょっと用事を思い出したから俺は、ぐえっ。」

「ティアちゃぁ~ん♪ お母さんが帰ってきましたよぉ~♪」

「今日の為に急いで帰ってきたんじゃ、よもや主役が欠席という訳にはいくまい?」

「この、クソ師匠夫婦……!! そもそもお前ら俺の親じゃないだろ!? 放せ、いちいち俺を取り囲むな、手首をつか」

「だ~め♪ …………そろそろ大人しくしないと、本気で怒るわよ。」


 下手すると数十年単位で世界を飛び回るこの夫婦だが、割とこういう行事物にはうるさい。まぁ年齢の関係もあり、「楽しめる時に楽しんでおけ」スタイルなのだろうがそういう物を蔑ろにすると直ぐにこうだ。

 ジルティルには背後から肩を掴まれ、ミティアラには正面から手首を捕縛されて。ずいっ、というような表現が似合う形で顔を寄せたこいつに。普段から笑顔のこいつが急にその表情から温度を消し、今にも目線を合わせた存在を凍てつかせてしまいそうな目で見てきたら流石に俺も二の句を継げなくなる。

 そもそもの話、俺もそれなりに強い部類には入るのだろうがそんな俺から見てもこの夫婦は底が知れない。底なんて物が存在するのか、こいつらにとっての底とは何だと解決される事などありえない疑問がふつふつと湧き上がっては「考えるだけ無駄だ」と自分で蹴り飛ばすだけの時間が過ぎ去っていくだけだ。


「……。」

「うん、言う事聞けて良い子ねぇ、ティア。貴方の生意気な所も好きだけど、たまにはそういう良い子な所も見せてほしいの。」

「……。」

「それにぃ、今回は私達の方で買ってきたお酒や食材もあるから遠慮なく楽しんでね♪」

「……。」

「……あの先生が黙った。」

「……本当、あの大師匠様達が帰ってきた時のお師匠様はいつもと違い過ぎてびっくりよ。」


 うるせぇ。

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