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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第20話 注ぐ温もりと寄り添う温もりに溶けて溶かされ息を吐く

「―――って事があって。それで……あいつら預かる事になった。」

「ほ~ん……。相変わらず義妹様もやる事が大胆でいらっしゃる。」

「でも凄いじゃない、ティア。あの子達を見たら分かるわぁ、ちゃんとお勉強も訓練もしてあげてるんでしょ? 良い子、本当に良い子ねぇ、ティア。」

「……別に。そういう……仕事だし。」

「とは言うがなぁ、ティア。仕事じゃからと言うてそこまではっきり割り切れる奴はそうそうおらんのも事実。謙遜なんぞしとらんで、わしらの前では子供らしくしてええんじゃよ?」

「…………割り切れるか、そう簡単に。」

「割り切る割り切らないの問題じゃなくて、ティアは凄いのよぉ。凄くて、賢くて、良い子で、私達の自慢の愛娘なのよぉ。」

「……違うって……言ってる、だろ。」

「違わないのよぉ~。」

「わしらの愛娘はお前だけじゃ、ティア。お前が何を言おうと、お前以外にわしらの娘なんぞおらんて。」



 ―――とけ、る。



 結局、俺との約束通りしっかりと挨拶をしてきたこの2人は本日、俺達の屋敷に泊まる事になった。挨拶回りの帰りに大量の酒と食材を買ってきてはキッチンであいつらの分の食事も用意して、俺らの分の酒のつまみも用意して、今はいつでも眠れるように風呂も済ませて昼間とは違ってラフな服装での夜会。

 子供達はもう寝静まり、明日の朝食や弁当までミティアラがこさえたのもあって俺はこのまま朝まで飲んでも。朝から眠って夕方に目覚めてもいつも以上に何も問題のない半日を過ごせる事が決まった。

 それもあってか、こいつらは容赦なく酒を盛る。

 別に弱い訳ではないが、こいつらの飲む量やこいつらにとっての普通のアルコール度数は俺から見ても高い。だから、どうしても俺の方が先に潰れてしまう。

 今だって、酒は絶対に絶やさずグラスに注いで。何の嫌がらせか、食器を持つ事すらも禁じられて親鳥に餌を与えられる雛のような立場を強いられる。その癖、ずっと頭にはどっちかの手が乗っていて、優しく啄むように髪を弄られる。

 時々無許可で人の頬に触れては優しく撫でたり、酔いが回って少しでも体が傾こうものならやんわりと支えては元の位置に戻したり。更に自分達から近い場所に座らせては見ていればぼんやりとする金色と白銀の優しい眼差しと視線が交差する。


 ミティアラはとにかく……。ジルディル、は何も見えてねぇはず……なんだけど、なぁ……。


 それでもその眼差しが俺から外される事はない。瞬きすらもゆったりとしていて、時間という感覚が。今という感覚が随分と薄れて伸ばされてぼんやりと輪郭を失う。



 でも、それもそろそろ終わりらしい。



 そっと寄り添うように近寄ってきたジルディルの大きくて傷だらけの手にまだ少し残った酒の入ったグラスを取られ、ミティアラに手を引かれてそのまま腰の辺りまで布団を被った師匠の膝元へと倒れ込む。

 起き上がる気力は、今の俺にはない。ぼんやりと、うつらうつらとしていれば背中の中央辺りから肩甲骨の方へと波打ち際のように撫でる細く温かい手。頬を隠すように添えながらも目元を撫でる手が心地良い。

 そっと俺の背後で同じベッドの上に横たわり、行き場を失って自分の懐でやんわりと握り。縮こまっている手を、俺の背中側にその腕で傘を作りながらも包んでくれる傷だらけの大きな手が独りではない事を教えてくれる。


「私達の可愛い可愛いお姫様。今日は何にも怯えず、私達の内で眠りなさい。」

「わしらの愛しく恋しい姫君。明日も健やかに、穏やかな日を描く眠りを。」

「何にも侵されず、何にも害されず、何にも傷付けられず、貴方の時を生きれますように。」

「己を知らぬ赤子のように、世界を知らぬ籠の鳥のように夢に溺れて夢に溶けるかの如く。」

「貴方の明日が、今日よりも美しく愛せる一日である事を願って。」

「そなたの明日が、今日よりも楽しく幸せな一日であるように想って。」

「今日もお疲れ様、私の愛娘。貴方の明日が今日よりもずっと素晴らしい物である事を祈ってるわぁ。」

「今日もよくお眠り、わしの愛娘。そなたの明日が今日よりも愛おしい物である事を祈っておるよ。」


 俺が今にも眠ってしまいそうな時に必ず聴こえる優しい祈りのような祝福の祝詞。追うように授けられる、額と。後頭部への小さな温もりを最後に世界は跡形もなく、ゆっくりと溶けていった。

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