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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第18話 太陽と月は何処に居ても、何処に在っても

 こっちも多少は様になってきた……か。


 幾らあいつらでもそこまで頭が悪いとは思わないが、俺がこいつらと同じ中庭で読書をしていれば静かに武器を振り下ろしてくる約2名、又は3名。それらをいなしつつ、時々は傍に置いてあるレイピアを抜いて多少虐めてやるが……それなりに成長はしている。

 自由にやらせたのが功を成したのか、こいつらの型は何かと予想が難しい。……同等レベルの相手なら。

 生憎、俺からすればかなりスローモーションのように見えるがそんな事は最初から知れている事。今更わざわざこいつらに言ってやる事でもないだろう。


「ふん、雑魚め。」

「先生が強過ぎるんだ!」

「……やっぱり先生、レイピアってのもあっていなすのがメインなんやな。」

「元よりレイピアはそういう武器だからな。これで受けたら武器が折れる。」

「せんせなら大丈夫そう。」

「大丈夫ではある。が、今はお前らに学びを与える教師としての立場でここに居るからな。ここが戦場なら好き勝手にさせてもらうが……お前らみたいな未熟者に誤った使い方を教えるのは宜しくない。」


 乱暴なだけで間違ってはないんだがな。


 シャレル魔導学園には場所ごとに色んな結界が張られている。勿論入場者を制限する目的もあるのだが、大半はそこに誰が入ったのかを把握する為にある。

 この学園全体にも大きな結界が3つ。最も外に近い結界は防衛、真ん中にあるのは予備の防衛用の結界。そして最も内側に近い結界は学園内の魔力探知や調整などの為に張られており、何も結界だからと言って何かから護る為だけにしか使えない訳ではない。

 その点、陛下が贈ってくださったこの校舎とその他設備を覆う結界は全部15、6枚。そして、その8割を陛下とネビュレイラハウロ帝国に在中している俺を含んだ七漣星がそれぞれ組んだ防衛用の結界。そして、残りの内の1つは入室管理用の結界が張られている。

 ここが学園なのもあって特に規制は設けておらず、ただ入ってきた者。留まっている者。出ていった者の全てを俺に知らせてくれる上に現在地も常に伝えてくれる。

 その結界が今、2つ分の微弱な電撃を飛ばしてきた。そして、異常な魔力量を誇る2人組は真っ直ぐと此方に向かってきているのは偶然ではないだろう。


 俺の魔力を知ってる……? いや、魔力ではなく匂いで追い駆けてきてる可能性や適当にそこらの無関係な生徒やら教師を捕まえてこっちに来てる可能性も捨てがたいか。


「師匠……?」

「師匠、どう、か……さ、されました?」

「……お前らは俺の後ろに下がってろ。」


 誰だ、何処のどいつが何の目的でこっちへ? いや、問題は例の2名が結界を傷付けずにこの敷地を歩けているという事は少なくとも悪意を持ってはいないという事。もっと言えば、害意もないと言う事。

 だがそれにしては俺が覚えている魔力とは随分と形状や特徴も違えば魔力量も違う。それに、ここはこの学園の正面玄関からかなり離れた所にある。ここへ来ようと思えば正門玄関も、そして本校舎も通過しなければならないのでここへ来られる者はかなり限られてくる。


 誰、だ……?


 普段はあんなにも生意気な癖に、何だかんだ言ってこういう時はしっかりと俺の意見を聞き入れるこいつらは既に俺の後ろ。何かあれば燐獣を呼び出すだろうし、場合によっては俺も準備がある。

 段々と意識が細く、深く、強くなっていく中。―――入口から飛んできた剣をレイピアを薙ぎ飛ばす。

 その隙に近付いたのか、いつの間にか懐に居たそいつをつい先程弾き飛ばしたばかりの剣を引き寄せて手に納め。持ち方を安定させる為にも回転させつつ、こいつに牽制しつつも大きく振りかぶって気付いた。


 ……あの紋章は。


「……ジルディル。」

「―――ふはっ、もう少し騙せると思ったんだがなぁ。」


 半ば弾き飛ばすように外されたフードの下から現れた白髪の爺さん。されどかなり戦い慣れているようなその風貌はまるで戦場以外で生きていた事があるのか疑問を覚える程にしっかりとした体で、仮にもこいつが98歳の時に七漣星になったとは誰も思うまい。

 クローンを生成する際に見た目も多少弄れるというのに、こいつは何度死んでもこの姿形を取る。相変わらず随分と物好きな奴だ。

 その癖、身長も高いこいつはその朗らかで気さくな笑顔の影響もあって子供受けも良い。現に、俺が俺の方から戦いを辞めたのもあって後ろには居る物の、うちの生徒達もかなり興味津々と見える。


「騙したいならその甲冑置いてこい。後、その白髪は染めて、カラーコンタクトでも入れろ。」

「それは無理な願いだなぁ、幾らわしらの可愛い弟子の願いでも。」


 何となく分かってはいた。あの見てたら吐き気を催しそうなぐらいにゲロ甘のこいつらが片割れだけで俺に会いに来るなど、何方も俺の師匠なのに。

 嫌な予感がし、慌ててジルディルから距離を取ろうとしたのも束の間。突然背後からの影が広くなったかと思えば人の腰回りでがっちりと腕を組むようにして懐に閉じ込められ、何ならマントのような物で視界まで塞がれ、辺りは完全な暗闇となる。

 それだけに飽き足らず、そのまま布越しに顔を摺り寄せてくるのにぞっとして何とか脱出して、―――こけた。

 いつもは履かないピンヒールの黒いハイブーツ。黒を基調にしつつも露出は少ないがそれでも片足と両腕。肩を空気と太陽に晒し、代わりに肩には薔薇柄のレース状になったパーティドレスを着せられて。更には指先から肘よりも少し高い位置まであるレース状の長く立派な手袋を着せられてしまっている。


 こんのっ、


「揃いも揃って何考えてんだお前らは!!」

「まぁ~ティア! やっぱり逸材ね~……。ねぇねぇティア、もっと私の着せ替え人形になって?」

「絶対に断るっ!!」

「ティアは元々顔も良けりゃスタイルも良いからなぁ。周りなんて気にしないでおしゃれすればええじゃろうに。」

「てめぇらの趣味なんて聞いてないんだよ、この時代遅れ共が!!」


 だから嫌いなんだよ……!!


 やっぱりこうだ。ジルディルしか居ないなんて、まずありえない。

 地面に尻餅を突いたまま振り返れば、そこに居るのは俺が特に嫌いな師匠。ミティアラがそこに居る。

 年齢としてはジルディルと同年代にしてはこいつもこいつでそれを気にさせない絶世の美女。熟女の癖に、魔女らしくも悪役の女王、女帝みたいなこいつは見た目が良くとも中身があまりにも残念過ぎる。

 身長が高いのもあって、俺の事なんて直ぐに抱き込んで。それでもまだ俺の手が肩に伸ばすのが限界な上、俺よりも細いこいつの体格は本当に理解が出来ない。

 その燃えるように明るいワインレッドの長い、つま先まで届きそうな大きな三つ編みと金色の瞳は魔女らしいその深いとんがり帽でも隠す事は出来ない。


 っ……!!


「大体こっち来てんじゃねぇよ! ジルディルはともかく、あんたは露出も多けりゃ色気もある所為で健全な青少年の教育には向いてねぇんだよ!!」

「そうそう、その話もしたかったのよ! アルディエから聞いたわよ、貴方、ここの先生になったんですって? 立派になったわねぇ~♪」

「このっ、い、いちいち抱き着くな! いちいち俺をそのまま抱き上げるなぁあああぁぁ!!」

「あ~……。……あ、はは。」

「笑ってねぇで助けろ、ジーラァッ!!」

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