第14話 遊びたいなら遊んでやるぞ、バイオレンスな方で
とりあえず今日はここで良い、か。
学校からしばらく歩いた所にある商店街。その途中の道で少し裏道に逸れれば直ぐに目的地へとたどり着く。
時々は魔女ですらも魔法薬の素材を買いに来る老舗。アンティークだが不気味さの感じる、錬金術と魔法薬の老舗。
ここの他にも、ここよりもずっと優秀な店を知っているがこいつらにはまだ早い。それに、そもそもとして今回俺はこのガキ共の為の素材を買いに来たのだ、必要経費で。後でディアルに全額請求する。
文句があるなら俺を退職させるんだな。
店にしては珍しく、扉を開けたとて音の鳴らない静かな店。
店内も相変わらず森と洞窟を掛け合わせたような不思議な場所で、壁は全て棚で覆われて。その棚には所狭しと商品が置かれているので最早壁など存在しない程。
そこに立ち並ぶ魔物の目玉や歯、爪、牙、蜥蜴、蛇などがそれぞれホルマリン漬けにされた瓶を見ては後ろで生徒達が動揺しているように見えるが錬金術をするならこれくらい慣れてもらわなければならない。
錬金術に首を突っ込む以上、この程度の奇怪さには是非とも慣れてもらわなければならない。
今度、蜥蜴や蛙みたいな見た目の魔物の踊り食いでも食わせてみるか……?どうせあいつらの事だ、外の世界の事を教えればさぞ魔物に興味を持つだろうし。
「アルスディルト、居るか。」
「む、おぉ~! お嬢ちゃんか、元気かい?」
「はぁ……。あんなぁ、アルスディルト。俺はあんたに嬢ちゃん扱いされる程歳下じゃねぇって言ってんだろ。いつになったら分かんだ、この老骨。」
「何言ってんだい、女で可愛きゃ皆嬢ちゃんだ!」
「変態爺。そのままその嬢ちゃんとやらに懐から刺されて布団の上で腐っていけ。」
「相変わらずひでぇ事をさらっと言いやがる嬢ちゃんだな。」
「せ、せんせ……?」
「し、師匠、この方は……?」
「って何だい嬢ちゃん、俺以外に男作ったんか!?」
「いつ俺がお前と番になる予定だったのか、是非とも聞かせてほしいんだが。」
「番なんて言葉使ってる奴に言われたかぁねぇなぁ。」
「お前より歳喰ってるって言ってんだろ……。お前ら、こいつはここの店主でアルスディルト・ルーデルディールズ。見ての通りエルフだ。」
「ハイエルフな、嬢ちゃん。俺をただのエルフと比べられちゃあ困るべ。」
「エルフ。」
「“ハイ”エルフな。」
「アルスディルト、面倒だからさっさとこいつら人数分の“初めての錬金術キット”でも見繕ってやってくれ。」
「……このガキの?」
「そ、このガキの。……大体、噂ぐらい知ってるだろ。」
「シャレル魔導学校の神童3人と四大大公家の御息女様2名が彼の有名な戦場の紅き死神の授業を受けてるって話かい?」
「分かってんじゃねぇか、すけこまし野郎。さっさと仕事しろ。」
「ちぇ~。」
既に10人以上側室が居る癖に何してんだあの阿呆は。
馬鹿をしでかさないように、と周りへ見れば良くも悪くもいつものあいつらだ。外面の良い、クソ生意気なガキ共がそこに居る。
所詮は子供、目新しい物にはどうしても興味が行ってしまうのだろう。
多少の警戒心がある所為か、手で触れるような事。一定以上そこに近付こうとはしないが目線を話すような事はなく、手を触れない範囲で見える全てを目に納めようと、ぐるっと周りを半周回ったりもしている。
確かに俺はここよりももっと優秀な店を知ってはいるが、それでもここの店もそれなりに優秀だ。……こんな初心者のガキ共に利用させるのがもったいないぐらいには。
何処の店でもそうだが、店には大きく分けて2つ種類がある。
1つは売店形式の店。何処かから仕入れてきて、顧客に売り、その手数料や入値と売値を引いて残った額を利益とするタイプ。
そして、もう1つが自分で仕入れて自分で売りさばくタイプ。この店は後者に当たる。
元よりそれなりに腕の立つ冒険者たるあいつは早朝から昼間での間に冒険者として稼ぎに行き、開店時間の15時までに全て捌いて整えて磨いた上で店頭に並べる。それがあの変態爺だ。
残念な事に、異才というのは大半が変態か変人なのが現実だ。
それも、異才がなければぼろ雑巾程度の価値もない奴らが殆どなのも随分な話だけどな。
何方にせよ、常に誰かの夢を破壊していっているのは間違いない。
同時に、世界的な記録ですらも常に更新している良い意味でも悪い意味でも暴走特急である事も事実と言える。
「嬢ちゃん、持ってきたぞ。」
「領収書。」
「宛先は?」
「シャレル魔導学校学校長。」
「……あそこで普段使いしてる教材の数倍以上の額だと思うんだが。嬢ちゃん、マジでそんにゃ事してええんか?」
「言質は取ってる。納得しねぇなら録音もあるが。」
「……………………嬢ちゃんが敵対してる国に店を構えんでほんに良かったわ。」
「お前が法律さえ犯してくれればすっ飛んでいくが?」
「で、数秒後には首から上が綺麗におさらばした自分の体を見ちょる訳じゃろ? 無理無理、そんなん無理。」