第13話 噛ませ犬は果たして何方なのか、試してみようか
「本日は課外授業を行う。その為、いつもの座学と実技はないものとする。」
「課外授業? どっか行くん?」
「楽しい事かっ?」
「お前らの楽しいと俺の楽しいは随分と感性がずれてる事をそろそろ理解してほしいんだが。」
言った所で響かない事は分かっているが、だからといって言ってはならないというルールは何処にもない。むしろ、子供である事を逆手に取って向こうが好き勝手しているのだから此方も幾つか言っても良いだろう。
これが何の変哲もないガキならPTAが黙っていないのだろうが、どいつもこいつも特殊な親や特殊な家庭環境にめぐ……まれているといって良いのかも分からないが、まぁ特殊である事は事実なのだから変に気負わなくて良いだろう。
いちいちやってたら此方が保たない。
仮にも教師である以上、多少の務めは果たさねばならんがな。
「そろそろお前達に錬金術を教える。」
「れん、きんじゅつって前に島で言ってた!?」
「せ、せせ、せんせ! 僕、僕ちゃんと勉強し、していたから! 錬金術で素材に新しい形をあげる技術だって!」
「はしたない、って言いたい所だけど私達も実は勉強出来なかったんだよね~……。ね、リシェラ。」
「う、うん。ま、まだお前達には早いってお師匠様、教材……だ、だけ渡してお預けだった、もんね。」
「結局ちゃんと勉強したのか?」
「ボロボロになるまで読んで、これ以上読めなくなる前に自力で写本もしてそろそろ20代目です、師匠。」
「私も~。お陰であそこに書いてた難しい言葉とかも当たり前で書けるようになったわ。」
「……褒めれば良いのか、呆れれば良いのか悩む所だな。」
教材、とはいってもその内容はそれなりに錬金術の知識を持つ錬金術師にとってはという前提の元で綴られた教材。言わば、4年生の教科書を1年生に渡して「さぁ、理解しろ」と言っているような物であったはずだ。
あの当初はこの2人に授業を教える事がどうにも嫌だったのだ、俺は。片方はルシウスよりも遥かにやんちゃな上、変に天才肌なのもあって難でもこなす上に何処か面倒くさがる癖があって扱い辛かった。要するに、苦手だった。
一方でリシェラの方は自己紹介すらも出来ない極度の人見知りで、授業を聞いているのか聞いていないのかも分からないのに小テストをすれば必ず満点を叩き出してくる此方も天才肌。無論、こっちも苦手だった。
その為、嫌がらせも兼ねて色々やった。本気なのであれば多少の壁程度は簡単に乗り越えてくるだろう。
事実、こいつらは簡単に俺の用意した壁を簡単に乗り越えた。
それが気に入らなくて更に難しい課題を渡せばまた追い着いてくる彼女ら。元から地頭はかなり良かった、そういう事だろう。
何度も続いたその不毛なやり取りがいつしか彼女らの楽しみとなったようで、それすらも気に入らなくていっその事、とぶん投げたのが錬金術に関する例の教材だった。
あれをやって直ぐはギルガ達にかなり怒られたが……まぁ結局はこれだ。子供の吸収力を舐めていた、そして奇しくも俺の意地悪が彼女らの楽しみとなってしまったのが最大の原因だろう。
どっちが遊ばれてるのやら。
「おら、さっさと出掛ける用意しろ。回る所、結構多いんだからな。」