第12話 成長目指して己を学べ
「今日は改め、魔力の仕組みについて授業を行う。」
「魔力の……仕組み?」
「え、大分今更やん。」
「基礎中の基礎ってせんせ言ってなかった……?」
「あぁそうだ、基礎中の基礎だ。」
だからと言って無下にしない辺りは多少学んできた、という事で良さそうだな。
一学期に比べればかなり、しっかりと授業をしている気がしないでもないがまぁそれが目的というか一応は仕事として定められているので仕方ないだろう。なんて、何処か言い訳染みた事を並べる必要もない。
個人的には授業なんて、と思わなくはないのだがそれでもこれが仕事である事は間違いない。
俺はそろそろ戦場に出たいんだがな。
「お前ら……。……まぁ聞くまでもないとは思うが、魔法というのは何らかの物体を媒介させなければ体への負担が大きい。それも相まって何処の学校でも媒介物を用意するように言われているはずだが……お前ら、媒介物は。」
「杖の事なら折った。」
「いちいち取り出すんがめんどくさくて箪笥の肥やし。」
「ぼ、僕は杖めんどくさいから時計にしてる……。」
「勿論私はお母様が私の為だけに作って下さったブレスレットを介してます!」
「わ、わた、私はピアスから……。」
まぁ、予想通りか。
後半3名にしては全く以て問題はない。むしろ、予想通り良い子にしてくれていて安堵の溜息ですらも出る。
問題は、前者2人。
個人的には媒介物もなく魔法を馬鹿馬鹿行使し、ただでさえ魔力消費の激しい規模の魔法を連発しているにしてはよくもまぁ魔力欠乏症や過剰消費による調律失調症などの幾つかの病気になる可能性があるのに対し、こいつらはその傾向は一切ない。
その場合、考えられるのは元から魔力保有量が阿呆程あるか。自分達が認識してないだけで、実は何かしらの媒介物を保有しているかの二択になる。
良い機会と言えば良い機会だが……まぁ、やるだけやるか。
「……? 先生、その水晶玉は何だ?」
「中に靄みたいなんが見えるけど……。」
「ルシウス、まずはお前からだ。これに触れ。」
「あぁ!」
さて、どうなる事やら。
さして危険な事ではないのだが、それでも誰かに自分の魔力保有量を知られるような事は可能な限り避けなければならない。体力にも言える事だが、自分の限界値を相手が知っている場合は持久戦や消耗戦に持ち込まれる事があるので名前などに比べれば非常に優先度が低い物の、可能な限り誰かに知られないように気を付けなければならない。
しかし、それだけ戦いに置いて重要視される事柄なのもあって自分の限界を自分で知る事は良い事だ。そうでなければ幾つかの魔力に関する病気になる事がある上、身に余り過ぎる程の魔力消費をすれば心臓発作だったり、呼吸困難に陥る事だってある。
敵を知るにはまず己を知る事。たったそれだけで勝ててしまう戦いもちゃんとある。
まぁ、今回は俺が何も説明していないのもあるんだろう。もしかしたらこいつらが俺のやる事であれば、俺が提供する事であれば全部安全だと思い込んでいる可能性も大いにある。
今度、俺を疑う事も憶えさせるか。
何も疑う事なく水晶玉に触れるルシウス。
水晶玉の方では最初こそ半透明だった靄が段々と色を付け始め、物の数分程で青色に変わる。
「ふ~ん……。」
「い、色が変わったぞ!? 先生、これはどう……なんだ? 良いのか悪いのか?」
「これに良い悪いはない。ただ、個人の魔力保有量を確認する為の魔道具だからな。」
「こ、これが……!? どうなんだ? お、多いのか?」
「それはこのクラス全体の魔力保有量を見ないと分からんな。次、トルニア。」
「は、はい!」
ルシウスの動きを真似、手を翳すというよりは手を預けるような形で水晶玉に触れるトルニア。ルシウスの時よりもしっかりと肌が接触しているのもあってか、水晶玉の反応も早い。
直ぐさま赤色に変わるも全体的に赤というだけで青色も所々見える。やはり、色々と規格外故の物があるんだろう。
成程なぁ……。
「青が少ない……な?」
「せ、先生、ど、どうなん……?」
「ルシウスの方が上だがトルニアもこのまま努力すればルシウスと肩を並べられそうではあるな。」
「ほ、ほんま!?」
「あぁ。次、セディルズ。」
「う、うん。」
そんなに緊張しなくて良いんだが。
常日頃から観察力があるのもあって、緊張と多少の恐怖が見える物のそれでもしっかりと水晶玉に触れるセディルズ。正直、俺としてはこの方が助かる。
幾ら俺が与えた物、提供した物であったとしてもこうして疑い。警戒しつつも体験する事にも意識が向いていてくれればそれだけ成長も早い。
それでもやっぱりいつも俺を驚かせるのもこのガキ達だ。
赤、青、と来て今度は銀。しかも面白い事に多少の金も見える靄は霧から液体状へと変化しており、風もなければ振動もないはずなのに中で波を永久に起こしているのが確認出来る。
「……。」
「な、何だ!? 霧から水になったぞ!?」
「い、色も全然違うけど……。先生、これ、どうなん?」
「よ、弱いの……?」
「……後で話そう。次、ディール。」
「ふふん、私も師匠の事、驚かせてやるんだから!」
「いや、割とお前ら2人に関しては大体の予想が就いてる。」
「ちょ、そこは嘘でも驚いてくれても良いんじゃない!?」
「嘘は嫌いなんだ。」
何事に対しても言える事だが、嘘を吐いた所でいつかはバレる。それならばそれが作戦の一環として定められていない限り、日常生活で嘘を吐く必要なんて何処にもない。
その一方で真実や事実は残酷だというが、良薬口に苦しと言うようにこの手の物は多少の負荷があるぐらいが丁度良い。さして苦痛を感じないのであればそれは決して実を結ぶ事はなく、芽を出す事もない。
成長の為には痛みが、苦楽が必要だ。そういう意味での痛みに因る教訓という言葉がある訳だが痛めつければ学ぶという阿呆な考え方をする蛆も一定数この世界には存在する。
そういう奴らはさっさと一斉粛清すれば良いと思うんだがな。そんな発想その物を危険視するべきだろうに。
ぽんっ、と水晶玉の上に手を置き、力の入れ方に気を配ればそのまま持ち上げられそうな水晶玉の中の靄は炎へと形状を変え、ゆらゆらと揺れ。燃えながらも金色にキラキラと輝いており、見ているこっちの目が痛くなる。
「まぁ、そうだよなぁ。」
「ちょっと、もっと喜んでよ!」
「いやぁ~流石は四大大公家の一角をなすヘメレ大公家の御息女様! 流石にございます!」
「……。」
「……何だその不満そうな顔は。お望み通り褒めてやったし、喜んでもやっただろ。」
「大根芝居過ぎるわよ!!」
「全く、注文の多いお嬢様だこと。リシェラ、次。」
「え、は、はいっ!」
「流すな~!!」
ぽかぽかと殴ってくるディールのパンチを片手で受け留めつつ、最後の1人であるリシェラにも促す。
まぁでも結果は予想通り。水晶玉の中では緑豊かな自然が拡がり、蔦がまるで生き物のように動きながらも光のような物も掌から出ているように錯覚してしまうジオラマのような物が出来上がる。
色に関しては識別が非常に難しいが……銀と金の両方といった所だろうか。
成程なぁ……。
「おめでとう、リシェラ。俺が最後に見た時からかなり魔力保有量が上がってるな。」
「ほ、本当ですか?」
「あぁ。過去に類を見ない成長速度だ、実に素晴らしい。」
「……んふ、ふふ。」
「私も褒めてよ、師匠!」
「いや、お前は魔力保有量に関しては幼少期とあんまり変わってないだろ。大方、剣術に集中し過ぎて魔法の方は疎かだったんじゃないのか?」
「そ、れは……。……ぐっ。」
「先生、そろそろ俺達にも説明が欲しいんだが。どういう順番で素晴らしいんだ?」
「せやせや、基準が分からな困るて。」
こっちもこっちで注文が多いな。
折角背後に黒板もある為、折角だからとさっさとディールとリシェラを席に戻させて魔力保有量が少ない色から多い色。そして、水晶玉内での形状変化に関する簡単な式のような物を記載する。
「これは魔力造形機と呼ばれる物だ。その名の通り、魔力に形を与える物でリシェラの結果が良い例だ。色に応じて魔力保有量を再現し、靄の形で適正属性との調和性を再現する。」
「じゃあ……自分の適性属性を使いこなせてへんかったら形が変わらんって事?」
「そういう事だ。で、色の話に戻るが白、黄色、黄緑、赤、青、銀、金、紫、黒の順番で大体の魔力保有量が分かるようになっている。」
「どっちが良いんだ?」
「黒が一番上だ。その点、このクラスではトルニアの魔力保有量が最も低く、ディールの魔力保有量が最も高い事になり、最も自分の適性属性を使いこなしているのはリシェラという事になる。」
「……っ。」
「なる、ほど。ちなみに先生、先生はどうなんだ?」
何となく言われるような気がしていたがやりたくなくてやらなかった物の、そのまま許してくれる程に優しくはないらしい。
軽く鼻で溜息を吐きながらも魔力造形機に肘置きの如く手を置けば瞬時に靄は黒く染まり、水晶玉の真ん中で幾つもの長方形の結晶が大量に群生している巨大結晶が出来上がる。
「「「「「おぉ~……!!」」」」」
「随分と昔からこの状態だ。……但し、今回重要視するのは魔力保有量や適性属性との調和性ではなく、温度の方だ。」
「温度……?」
「この水晶玉に触った際、熱く感じたのは?」
「俺はそれなりに熱かったぞ。」
「お、俺も若干熱かったかも……。」
「その熱さが今、お前達の体に掛かっている魔力負荷だ。この熱量の強さによって魔法を行使する際にあった方が良いとされる媒介物の重要度を判断出来るようになっている。……少しでも熱さを感じた場合、必ず必要という訳だ。もっと言えば触れない程に熱かったり、掌を火傷するような事があれば直ぐに医療機関の受診が必要になる。」
「……ば、媒介物は何でも良いのか?」
「つ、杖じゃないとあかんの?」
「何でも良い。出来れば思い入れのある物の方が良いには良いが、まぁこれで事の重要性は分かっただろ。入院が必要になる前にさっさと媒介物を用意する事だな。」
「にゅ、入院!?」
「きょ、今日帰ったら探しに行こ……。」