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夜に煌めく炉は蒼銀で  作者: 夜櫻 雅織
第二章:一年生第二学期 ご無沙汰、我が家
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第11話 如何なる事でも覚悟と責任を以てして

『せ、先生! 今……い、忙しい?』

「会話ぐらいなら多少してやれるが。」

『じゃ、じゃあちょっと入ってもええ?』

「勝手に入れ。」

「お邪魔しま~す……って、何やこれ!?」

「……漫画とかではよく見るが、膨大な量の本とか資料を阿呆程積み上げられてる部屋を現実で見る事があるなんて思わなかったんだが。」

「おめでとう、また1つ常識とかいう何の役にも立たない固定概念の塊社会から抜け出せたな。」

「いつになく皮肉が利いてるぞ、先生。」

「尚、事実であるが故に噛みつけない模様。」

「ぐっ……。」

「せ、せんせ。これ……何の資料?」

「お前達はまだ知らなくて良い。……それで?」

「じ、実は、先生にこの書類にサインが欲しくて……。」


 書類……?


 ルシウス達が言った通り、それなりに広い俺の部屋の半分を制圧する資料とファイルと書籍の山。それを崩さないよう、それに触れないように近付いてきたルシウス。トルニア。セディルズからそれぞれ渡された、わざわざクリアファイルに入れられた幾つかの資料。

 それなりの付き合い……と言って良いのかは大分謎ではあるが、少なくとも浅いとはもう言い切れなくなってしまったのもあり、少しでも準備周到になるようにと努力はしてくれたらしい。クリアファイルの中には、幾つかわざわざこいつらに聞かなくてもこの書類が何なのかが分かる書類が入れられている。

 ルシウスから渡されたのは何処ぞの喫茶店関連の書類。内容を見るに、どうやら喫茶店のアルバイトをしていたらしく、それを継続しても良いかが知りたいらしい。正直言って、何で俺なんだよと。そこは親に聞けよと思わなくはない。

 少なくともこいつには立派な帝国民でもある肉親が居るというのに。

 一方、トルニア。此方もバイト関連の仕事のようで、介護・福祉系の企業の名前が載っている。何ならここは退役軍人などの軍や戦などに関連した人達に対してのみ門が開かれる場所のようで、積極的に若い内から軍に対する現実を教える体制を取っているらしい。

 王城でもそれなりに名を聞く事のある企業で、確かによく世話になっている企業でもある。その事から、毎年陛下直々に特別支援金や最新機材、医療器具、医薬品などの配給を優先的に行っている所でもある。

 セディルズの方はSE。世界中が魔法社会である今ではまだまだ珍しいというか、ここ最近。それこそこの数百年で進出し始め、近年は急成長を見せているIT関連に興味があるらしい。

 しかも、面白い事に此方も軍事系。とはいっても学生に任せられる事などかなり知れており、何方かといえばAIやドローン技術などの無人兵関連。偵察関連に特化しているらしい。


 ふ~ん……。


「……ルシウスは完全に趣味なように見えるが、トルニアとセディルズは若干 “そういう道に将来進みたい” と言っているように聴こえなくもないな。」

「そ、それは……。」

「……だ、駄目……?」

「……嬉しくはないが否定する気はない。」

「ほ、ほんま!?」

「あぁ。所詮はバイト、されどバイト。経験として興味のある事に手を出す事は素晴らしい事だ、経験という財産を好きなだけ積み立てれば良い。……ほれ、サインした。これで良いんだろ。」

「……! ありがとう、先生!」

「ありがと、せんせ。」

「……俺は駄目なのか。」

「駄目も何も、何でお前は俺に出すんだそれを。普通は肉親に出すだろ。」

「一番最後の書類を見てくれ。」

「一番最後の書類ぃ?」


 あぁ~……。


 此方も所詮は喫茶店のように見えて、実は的な物だったらしい。

 何処の店でもというか、チェーン店にはよくある話だがこの喫茶店はその勤務先というか、そのテナントが管理する支店の中に軍人向けの支店も保有しているらしく、ルシウスはここでの勤務を行いたいらしい。

 その為には現役軍人、又は軍人関連の者の推薦状や直筆のサインが必要だそうで、後日確認でサイン者に電話が来るらしい。

 その他にも色々と秘密保護契約などの他にも諸々のしっかりとした書類が必要だそうで、俺でしかなければならない書類だったらしい。


 対軍人向けの、ねぇ……。


 この国には大きく分けて、表向きには2種類の街が存在する。

 1つは今俺達が居を構えている国民の為の街。これがこのネビュレイラハウロ帝国の大部分を占めており、当然ながら彼らは戦争のせの字も知らず、テレビから聞く程度の事しか知らない。

 そしてもう1つ、この国には軍人(がい)という物が存在する。

 そこは読んで字の如く、軍人だけが住む事を許された街。そうやって区別する事で平和と戦争の確執を強固な物とし、情報漏洩を徹底して管理・監視・防止し、そして軍人が殺される事。軍人が犯罪を起こす事を少しでも減らす目的から構築されている。

 但し、当然ながら幾ら軍人といえども彼らにだって家族は居る。そんな家族達とはどうしても離れて暮らさなければならない事から手紙やプレゼントなども検問さえクリアすれば何方からも出したり受け取ったりする事が出来、専用の許可証があれば家族に会いに行く事は出来る。無論、これは軍人街から国民街への一方通行なので国民が軍人街に足を踏み入れるにはこうしてそれなりの書類が必要になる。

 その書類にも幾つか規則が存在しており、代表的な物といえば血縁者ではない軍人からのサインでなければならない事。必ず3名からの推薦状を貰う事。もしも秘密保護契約に違反した場合、その情報のクラスによっては死罪が存在している事を正しく理解しなければならないなどまぁ色々ある。

 先のトルニアやセディルズと違うのは、こっちは完全に軍人街での勤務になる事。前者2名は疑似軍人街体験なのに対し、此方は完全に軍人街体験である事が大きく異なる。



 そして、この職業でアルバイトをするという事は将来軍属になりたいと考えていると国家に意思表明をしている事になる。



 原則、この国で軍人になるには3つの方法を取らなければならない。

 1つ目は一番ストレートな物で、大学まで普通の民間の学校を履修した後に専用の士官学校に入学し、その後は軍人街にある軍大学に入学して卒業する事。

 2つ目はそれなりに特殊な例で、何らかの事例でそれなりの立場にある軍人からスカウトを受けて軍人街にある特殊士官学校と軍大学に入学し、“優秀な成績を収めて”卒業する事。

 3つ目、これがほぼない事例で直接軍属にある者からの特殊教育を受けて軍人街にある特殊士官学校と特殊軍大学に入学し、卒業する事。

 奇しくも俺がこいつらにしっかりとそういう授業を行えばこいつらは簡単に3つ目のルートで軍属する事が可能になる。しかし、それら全てには共通点がある。

 その共通点が、必ず学生の内に3年以上軍人街でアルバイトをする事。そうする事で個人データが軍人街の方で記録され、それがそのまま専用の学校へ入学する為のエントリーシートになる。

 勿論、そのエントリーシートだけでは入学出来ないのだがそれもなければ書類審査で落ちる事が確定する。だからこそ、これは暗黙の了解で軍人街に存在する学校へ入学する為の第1の切符を得る事として認知されている。


 ……。


「……両親の許可は。」

「貰ってる。その為の書類も今、集めてくれている。」

「……お前はこの仕事の重さを正しく理解してるのか?」

「 “俺は将来軍人になりたいです” って声明を出しているような物だ、という意味なのであれば正しく理解してる。」

「……。」

「……。」

「……はぁ。返す。」

「せ、先生。俺は」

「ここ。3名以上の軍人の推薦状が要るって書いてるだろ。」

「あ……。」

「……3人分の書類を用意してから出直してこい。ジーラとイルグに話着けといてやる。」

「ほ、本当か!?」

「但し。……先に言っておくが、俺は法に基づいた執行官である事を忘れないように。お前が軍人街で何らかの罪を犯したり、秘密保護契約に違反した場合には俺がお前を裁き、捌く事になる。これを聞いてもまだなりたいのであればさっさと必要な書類を揃えてこい。」

「あぁ、揃えてくる! 前に先生が言ってただろ、こういうのに尻込みするのは守る自信がないからだって。俺はちゃんと守る、だからどんな脅しをされてもやらなければ良いだけだし、普通にやってりゃ犯す訳ないんだから何も怖くなんてないぞ。」

「じゃあだらだらしてないでさっさと行ってこい。」

「あぁ!」

「「……。」」

「……トルニアとセディルズはまだ早い。」

「え、な、何で!?」

「だ、駄目……?」

「適正の問題だ。セディルズは軍よりも研究機関の方が向いてるし、何よりトルニアも軍に所属するには魔力の調整が荒い上に非効率。軍人街でどんな仕事をする気かは知らないが……家族が喪に伏した場合。又は親が離婚した場合など、何らかの形で親と離別した場合には必ず1年はそういう責任の重い仕事に関わる事は法律で禁じられている。」

「そ、そんな法律があるんか……。」

「……聞いた事あるけど、何でなのせんせ。何で、そんな法律が?」

「家族を失った悲しみ、憎しみ、苦しみから軍に所属する事で死に急ぐ阿呆が居るから。親の仇をやら、親を殺したいやら、承認欲求を満たしたいやら理由は様々だがまぁ普通に考えてまともな精神状態な訳がねぇんだからそんな責任のある仕事を任せられないって事だ。お前らもどうしても軍人街で仕事を探したいなら来年の9月ぐらいまで大人しく待ってるんだな。」

「出来はする、って事?」

「待てばな。まぁ、どっちにしろ無理だ。諦めてさっき出してきた所に努めとけ。」

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